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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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夢の終わり

 それからの5日間、レイナはディズニーランドとディズニーシーでたっぷりと遊んだ。


 まさか5日もいられるとは思っていなかったが、笑里に「もう一日、遊んで行く?」と言われて、ずるずると延ばしたのだ。


 帰りたくなくなるぐらい、まさに夢の世界がそこにはあった。エレクトリカルパレードは、何度見ても興奮する。曲に合わせて、レイナは歌って踊った。


「ママが心配してるかも」

「ミハルさんには、森口さんが伝えに行ってくれるから、大丈夫」

「じゃあ、お土産を楽しみにしててねって、ママに伝えておいてね」

「分かった」

 笑里は複雑そうな笑みを浮かべる。


 裕と笑里はどこにでもつきあってくれる。笑里から「ここにいるときだけでも着てみて」と新しい洋服ももらった。


 ただ、何から何まで買ってもらうのも申し訳ないので、みんなのお土産だけ買ってもらうことにした。

 笑里が「レイナちゃんの欲しいものは?」と聞いても、レイナは首を振るばかりだ。


「ミハルさんが、相当しっかりしつけてるらしいな。自分のものより、まわりの人のものを優先するなんて。まだ子供なのに、感心するよ」


 裕がレイナの寝顔を見ながら言った。

 笑里が強引に買ってあげたクマのプーさんのぬいぐるみを抱きしめながら、レイナはスヤスヤと眠っている。


「ホントに。このぬいぐるみだって、欲しそうに見てるから、『買ってあげようか?』って言っても、拒むんだもの。あんな境遇で生きてきたら、何でも欲しがりそうなものなのに」


 笑里はベッドに腰掛けて、寝ているレイナの頭を優しくなでる。


「どうやら、人間の卑しさは、境遇で決まるわけではなさそうだな。金持ちでも卑しい人間は大勢いるし」


「そうよお。そういうのにウンザリしてるから、音楽界でもあまり偉い人とは交流を持たないようにしてるんだし」


「こんな純粋な子が、芸能界でやっていけるんだろうか」


 裕の言葉に、「私たちがついてるから、大丈夫よ」と笑里はキッパリと言った。

 笑里はいつの間にか、すっかり母親の顔になっている、と裕は思った。


*******


 ディズニーリゾートで遊びつくして、6日目の夜に西園寺家に戻ってきた。


 翌朝、レイナはいつも通り、6時に目が覚めた。二人が亡くなった娘に用意していた子供部屋を、レイナは使わせてもらった。


 リビングに降りると、裕と笑里はまだ起きてないようだ。

 外を見ると、森口が車の手入れをしている。


 レイナは出発のときに着ていたいつもの服に着替えて、顔を洗い、外に出た。


「おっはよう、森口さん!」

「おはよう。レイナちゃん、早いね」

「うん。いつもこの時間には起きて、水汲みに行ってるんだ」

「そう……」

 森口は何ともいえない表情になった。


「ハイ、これ、お土産!」

 レイナは背中に隠していた包み紙を差し出した。


「えっ、私に? わざわざお土産を買って来てくれたの?」

「うん。っていっても、お金を出してくれたのは笑里さんなんだけど……。選んだのは、私だよ」

「ありがとう。開けてみていいかい?」


 森口は包み紙を丁寧に開ける。

 ミッキーの小さな柄が入っているえんじ色のネクタイで、「へえ、こりゃあいい。上品なネクタイだ」と森口は喜んだ。


「似合うかい?」

 首元に当ててみる。

「うん、似合う! カッコいいよ」

「そうかい。さっそく使わせてもらうよ」

 森口は嬉しそうにネクタイを箱にしまった。 


「ディズニーランドはどうだった?」

「楽しかったよお。全部の乗り物に乗ったの!」

「へえ、そりゃすごい」


「それでね、私をゴミ捨て場に送ってくれる?」

「まだ先生たちは寝てるでしょ? 起きてから一緒に行ったほうがいいんじゃないかな」と森口は戸惑った。


「でも、二人とも疲れてるみたいだし。起こすの悪いから。早く、ママにお土産を渡してあげたいの! 明日はレッスンがあるから、黙って帰ってごめんなさいって、そのときに二人に謝るから」


「でもねえ」

「お願い! 早くママに会いたいの」


 レイナにキラキラした目で言われて、森口は頭を掻いた。


「まあ、先生たちは8時過ぎにならないと起きてこないし。それまでに帰ってくればいいか」

 自分に言い聞かせるようにつぶやいた。




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