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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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私は、歌う。

「レイナ、歌って」

 タクマの声がした気がした。


「さあ、トラックに負けないように、大きな声で」


 ――そうだ。マイクなんて関係ない。ゴミ捨て場にいるつもりで、歌えばいいんだ。


 レイナは大きく息を吸いこんだ。


♪さあ、愛し合おう

あなたを愛してくれる人が、きっとそばにいる

きっと、ずっと、あなたを強く抱きしめてくれるから

愛の力を信じて、Power of Love♪


 ヒカリが顔色を変えてレイナを振り返った。


 レイナの声はマイクを通さなくても、客席に届いていた。ヒカリの声以上のボリュームなのは明らかだ。


 レイナの声を聴き、バンドのメンバーは顔を見合わせ、音を少し小さくした。レイナの声が、客に聞こえるように。


♪なぜ、傷つけるの?

あなたが一番寂しくなるのに

なぜ、憎み合うの?

ホントは愛し合うために生まれて来たのに♪


 今、レイナの目の前にあるのは客席ではなかった。

 見慣れたゴミ捨て場。タクマと一緒に駆けのぼったゴミの山だ。


 山のてっぺんでよく歌った。街に歌声が届くように、空に歌声が届くように。何十分も歌ったのだ。

 タクマもか細い声で歌っていた。その隣では、トムがへんてこなダンスを踊って、アミが手拍子していた。


 ――お兄ちゃん。見てる? レイナは、ここにいるよ。お兄ちゃんのために、ずっと歌うよ。お兄ちゃんが、天国で寂しくないように。

 

 ヒカリは二番の途中から歌えなくなっていた。

 客席は静まり返っていた。客の一人一人が、レイナの声を聴き逃すまいと固唾を飲んでいる。


 レイナの透明な歌声は、武道館の二階の客席の隅々まで響き渡っていた。


「すごい……」

 誰かがつぶやくと、「シッ、静かに!」とすぐに制される。

 

 最後まで歌い終えた。

 レイナは荒い息をしながらお辞儀をする。いつの間にか、汗だくだ。


 すると、割れんばかりの拍手。スタンディングオベーションが起き、「レイナちゃーん」「感動したー」と声が飛ぶ。


 ヒカリは無言で袖に引っ込んだ。

 レイナはスタッフに誘導されて袖に引っ込む。とたんに、客席では「アンコール、アンコール」の大合唱が起きた。


「レイナちゃんっ」

 笑里は涙をポロポロこぼしながら、レイナを抱きしめた。


「よかった、すごくよかった! あなたはすごい子よ、ホントに」


 裕とアンソニーはレイナに拍手を送った。

 アンソニーも涙でクシャクシャの顔になっている。


 裕は目に浮かんだ涙をそっと拭うと、「よく落ち着いて歌えたね。素晴らしかった」と、レイナの頭を軽くなでた。


「君の歌声は、奇跡を起こすんだな」

 レイナはようやく緊張が解けて、「笑里さあん」と抱きしめ返した。


 楽屋に戻る途中、舞台裏でマネージャーがヒカリにまくしたてていた。


「ヒカリちゃーん、なんてことしてくれたんだよお。ラジオで生中継してるのに。SNSでも、大炎上してるよ?」


 ヒカリはレイナたちを見ると、悔しそうな表情で視線をそらした。


「ヒカリ」

 裕はヒカリに歩み寄った。

「君とはここまでだ。もう曲を書かない」

 ヒカリは大きく目を見開いたが、「フンッ」とそっぽを向いた。


「そそそんな、西園寺先生、ちょっと待ってくださいよ」

 あわてふためくマネージャーを無視して、裕はレイナに「さあ、帰ろうか」と笑いかけた。


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