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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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戸惑い

「今日は、ゲストをお迎えしてます。みんなも知ってると思うけど、ゴミ捨て場の女の子。ネットの動画が世界中で拡散されて、ヤバいことになってるよね。ヒカリも、ずっと、あの女の子に会いたいなって思ってました。その子が、今日、来てくれたんです! 名前はレイナちゃん。レイナちゃん、どうぞ!」


 ヒカリが手を挙げて合図する。


 レイナは暗い袖から、舞台に一歩踏み出した。とたんに、リハーサル以上にまばゆい光の洪水がレイナを包む。


 拍手が鳴り響く。舞台からは客席は真っ暗なので、観客の表情までは見えない。


 スタッフに導かれて指定の位置に立つと、「レイナちゃん、こんにちは」とヒカリが微笑みながら話しかけてきた。だが、その目はまったく笑っていない。


 レイナは「こ・こんにちは」と、ぎこちなく頭を下げた。


「今日は来てくれてありがとう」

「ハイ」

「レイナちゃんは、今もゴミ捨て場に住んでるの?」

「ハイ」

「そう。どうして街で暮らさないの?」


「どうしてって……」

 レイナはどう答えたらいいのか分からず、首を傾げた。

「お金がないから、かな」

 客席がざわついた。


 ヒカリは申し訳なさそうな表情になる。


「ごめんなさい、変なこと聞いちゃった! 私、レイナちゃんみたいな子と会うのは初めてだから、何を話したらいいのか分かんないんだよね。ごめんね」


 だが、まったく申し訳なく思っていないのは、レイナにも分かる。


「楽屋に入って来たとき、チラッと見たんだけど、男の子みたいなカッコしてたでしょ? それが、今はお姫様みたいに変身して。すごいよね、プロのメイクさんの力って!」


「あいつ……」

 裕は袖で歯ぎしりをする。笑里は「私、もう見てられない」と両手で顔を覆う。

 ヒカリのマネージャーが、反対側の袖で頭を抱えている姿が見えた。


「欧米のアーティストはチャリティをよくやってるでしょ? 私もそれを見ならって、今日はロビーに募金箱を置いときました。みんな、帰りに募金して行ってね! レイナちゃんに、ゴミ捨て場に住んでいる人に渡してもらうから。恵まれない人たちに、愛の手をって言うでしょ?」


 レイナは、呆然とヒカリを見つめていた。


 ――なんだろ、私、ヒカリちゃんに攻撃されてる気がするんだけど……。私、ヒカリちゃんに嫌われること、何かしたっけ?

 

 楽屋に入ってからの行動を振り返ってみても、思い当たらない。


 裕と笑里のほうを見ると、裕は「大丈夫だ」と大きく口を動かした。笑里は泣きそうになっている。


「今日は、一緒に『Power of Love』を歌ってもらうの。さっき、一緒に練習したの。ね?」


 ヒカリに声をかけられ、あわてて「ハイ」と答えた。


「私が大好きな曲です。『Power of Love』!」

 イントロが始まる。

 レイナは何とか落ち着こうと、目を閉じて深呼吸した。


 ――大丈夫。お兄ちゃん、見ててね。


♪さあ、立ち上がろう

暗闇でいつまでも膝を抱えていないで♪

 

 最初のフレーズを歌ったとき、マイクが入っていないことにレイナは気づいた。


 ――あれ? スイッチを切っちゃったかな?


 何度もスイッチのオンとオフを切り替えても、マイクは入らない。


 客席から「どうしたの?」「マイクが入らないみたいよ」とざわめく声が聞こえてくる。

 ヒカリはレイナのことを気にせず、のびのびと歌っている。


 袖では、スタッフたちが「どうした?」「マイクが壊れたか?」「替えのマイクを!」と走り回っていた。


 ――どうしよう。どうしよう、お兄ちゃん。


 レイナはバレッタに手をやった。

 そのとき。


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