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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
32/165

アミ、逃げて。

「火事だあ!」


 アミは驚いて、収穫したばかりのニンジンを落としてしまった。

 見ると、小屋が建ち並ぶ奥のほうで煙が上がっている。


 ジンはトムとアミに、「危ないから、ここにいろ!」と言い渡すと駆け出した。大人たちは次々と煙に向かって駆けて行っている。


 トムは鍬を放り出した。

「アミはここにいるんだよ。オレは見に行ってくるから」と、大人たちの背を追いかけて行ってしまった。


「あー……」


 アミはこのまま畑仕事を続けるべきかどうか、迷っていた。

 そのとき、山田が他の大人とは別の方向に向かって走っているのに気づいた。山田が向かっているのは――。


「っ……!」

 アミは声にならない叫び声を上げた。


  ********


 山田は舌打ちした。

「ったく、どこに隠してるんだよ」


 ミハルとレイナの持ち物をくまなく探しても、めぼしいものは見当たらない。


「ここ以外のところに隠してるのか……」


 つぶやいたとき、「お前さん、何を探してるんだ」と背後から声がした。


 振り向くと、マサじいさんが立っている。その背後から、アミが顔をのぞかせた。

 山田はうろたえることもなく、不自然な笑みをつくった。


「ああ、ちょっと、ミハルさんに頼まれてね」

「頼まれたって、何を」

「それは、あんたに言う必要はないでしょ」

「何か盗もうとしてるのか? ここの住人は、そんなにカネを持ってないぞ」

「いやいや、カネを盗むなんて、とんでもない」


「じゃあ、下着か?」

「はあ? ババアの下着なんて、興味ねえよ」

「レイナのもあるだろ」

「あんなガキンチョ、もっと興味ねえよ」

「じゃあ、何が目的だ?」

「まあ、そう熱くならずに。何も盗ってないってば。オレの勘違いみたいだ」


 山田はへらへらと笑いながら、マサじいさんに近寄って来た。

 マサじいさんは警戒してアミを庇う。


「ここで見たこと、誰にも言うなよ、じいさん」


 山田の眼が怪しく光ったと思うと、マサじいさんに体当たりした。


「うっ」

 マサじいさんはうめき声を漏らす。その腹には、ドスが刺さっていた。


「ま、言えないか。死人に口なしって言うからな」

「アミ、逃げろ……」

 マサじいさんが崩れ落ち、アミは凍りつく。


「黙ってろって言ったろ? このじいさんが死んだのは、お前のせいだからな」


 山田がアミの首に手をかけたとき。


「おい、てめえ、何してんだよ」


 ジンの低い声がした。ドアの外に、ジンとトムが立っている。


 ジンが「おい、他の大人たちをすぐに呼んで来い」と言うと、トムはすっ飛んで行った。


「あの火事もお前か? お前が火をつけたのか?」

 ジンのこめかみはピクピクと動いている。


「アミから離れろよ、クズ」

 ジンはジリジリと山田との距離を縮めていく。


 山田は舌打ちをし、後ずさった。ドスはマサの腹に刺さったままなので、他に武器がないらしい。


 ジンは革ジャンの内ポケットから何かを取り出した――銃だ。


「おい、外に出ろ」

 銃口を向けると、さすがに山田は顔色を変えた。


「まままあ、落ち着いて。そうだ。カネをやるからさ、見逃してくれよ。あんたも、ホントはこんなところにいたくないんだろ? オレが持ってるカネを全部やるからさ。こんなジジイが死んだぐらい、どってことないだろ? あんたも人を殺してるんだからさ」


「外に出ろ」

 ジンは低い声で言う。

 山田は両手を上げ、「分かった、分かったから」と小屋の外に出る。


 作業着の尻ポケットからマネークリップを出すと、ジンに差し出す。


「ホラ、これ、今はこれしか持ってないけど。街に帰ったら、もっと持って来るから。だから、見逃」

「小屋ん中を汚したくなかったんだよ」


 ジンは最後まで聞かずに、引き金を引いた。

 パン、と破裂音が響き、山田が悲鳴を上げながら崩れ落ちた。太ももを抑えてうずくまっている。


「お前、誰に言われてここに来たんだ?」

「だだ誰でもないよ、本当だ」


 ジンは山田の額に銃口を押し当てた。

「もう一度、聞く。誰に頼まれてきたんだ?」


 山田は苦痛に顔をゆがめながら、

「知らない、本当なんだっ。オレは、USBメモリを見つけて来いって言われただけなんだ。借金を帳消しにしてやるって言われて……。でも、あいつが何者なのか、オレは知らないんだ!」

と声を絞り出した。


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