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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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リハーサル、スタート!

「リハーサル、お願いしまあす」


 スタッフが呼びに来たので、アンソニーが「はあい、今行きまあす」と代わりに答えた。


 レイナは鏡に映る自分を見て、目を丸くしていた。


 アンソニーは、色白で目鼻立ちがクッキリしているレイナの顔が、さらに舞台で映えるようにメイクをしてくれた。

髪も両サイドをクルクルと巻きながらアップにして、バレッタを目立つようにつけている。


 そして、白いレースのワンピースと白いパンプス。スカート自体、生まれて初めて履いたので、とても新鮮だ。


「なんか、私じゃないみたい……」


 つぶやくと、「いいえ、これがあなた。これが本当のあなたなの。私はそれを引き出しただけなのよ」とアンソニーは微笑んだ。


 楽屋に裕が入って来て、レイナを一目見るなり、「これは……」としばらく言葉を失っていた。


「ここまで見事に変身しちゃうとはね。女王様の機嫌を損ねないといいんだけど」


 アンソニーの言葉に、裕は「そうだな。その恐れはある」とうなずいた。


 裕に案内されて舞台に向かうと、すれ違うスタッフはみんな、驚きの表情でレイナを見ている。レイナはフワフワした気持ちだ。


 舞台の袖で、階段を上がるように促されると、レイナは心配そうに裕を見た。


「大丈夫。レッスンしたとおりに歌えばいいから」

 裕はレイナの目を見て言い聞かせる。


 ステージは無数のライトに照らしだされている。まぶしくてレイナはクラクラした。


「あら、あなたがレイナちゃん?」


 おとなびたゴールドのワンピースに身を包んだヒカリが声をかける。

 胸元が大胆に開いているデザインで、ミニスカートからは美しい肢体がすらりと伸びている。ヒカリは元々モデル出身なので、背が高く、スタイルもいい。


 ヒカリはレイナの頭のてっぺんからつま先までを一瞥した。


「西園寺先生から話は聞いてるから。今日はよろしくね」と笑みを浮かべた。


「ハイ、よろしくお願いします!」とレイナは頭を下げる。

「曲は、何をやるか聞いてるわね。『Power of Love』だから」


 レイナはスタッフからマイクを渡された。どこに立つのかも、スタッフが指示してくれる。


「じゃあ、時間がないから、合わせましょ。あなたは、普通に歌ってくれればいいから」

 

 ヒカリの合図で、照明が落ちた。

 ヒカリとレイナにスポットライトが当たる。客席は真っ暗で、レイナからは何も見えない。


 バンドが演奏を始める。イントロが終わると、ヒカリは歌いだした。

 レイナはあたりをキョロキョロと見回していて、歌いだすのが遅れてしまった。


「ストップ、ストーップ!」

 すぐにヒカリが演奏を止める。

 ヒカリはレイナを睨むと、「曲、はじまってるんだけど」と冷たく言い放った。


「ご、ごめんなさい……」

「どこで歌いはじめるか、分かる?」

「ハイ、分かります……」

「じゃあ、次はちゃんとやって。何度もやり直してる時間はないんだから」

 

 ヒカリの口調から、どうやら自分はそれほど歓迎されていないのだと、レイナは気づいた。


 ――どういうこと?


 袖口を見ると、裕が「落ち着いて」と声をかけてくれる。

 また演奏がはじまる。


 ――集中しよう。笑里さんに教わったとおりに歌えばいいんだ。


 レイナは目を閉じて、大きく深呼吸した。


♪さあ、立ち上がろう

暗闇でいつまでも膝を抱えていないで

さあ、歩き出そう

真実の光があなたの足元を照らすから♪


 レイナが歌いだすと、ヒカリはハッとした表情でレイナを見た。


♪さあ、深呼吸をして

世界は喜びに包まれているから

さあ、手を伸ばして

いつかあなたの夢に手が届くから♪


 ここから、盛り上がるパートだ。レイナはお腹に手を当てて、声を張り上げる。


♪さあ、愛し合おう

あなたを愛してくれる人が、きっとそばにいる

きっと、ずっと、あなたを強く抱きしめてくれるから

愛の力を信じて、Power of Love♪


 ヒカリが途中で歌えなくなったことに、レイナは気づかなかった。


 そのまま三番まで歌い終えて、深々とお辞儀をする。

 とたんに、ステージの袖から拍手が鳴り響いた。

 見ると、裕とアンソニーが大きな拍手をしている。

 他のスタッフも拍手をしていたが、ヒカリの表情を見て、すぐにやめた。


 何人かのスタッフがヒカリに駆け寄る。

 何やら話し込んでいたが、「この曲は、これで終わりでーす。次に行きまーす」と指示が飛んだ。

 ヒカリはレイナに目もくれず、袖に引っ込んでしまった。

 

 袖に戻ると、裕が「よかったよ」と笑顔で迎えてくれた。

「私、感動しちゃったあ。あんな美しい歌声を聞いたの、初めて」

 アンソニーは感激してレイナを抱きしめる。


「あ、ありがとう」

「今のような感じで、本番もいつもどおりに歌えばいいんだよ」


 裕に促されて楽屋に戻ると、中央のテーブルに飲み物やお菓子がたくさん用意されていた。


「どうやら、私たちの他にも感動したスタッフがいたみたいだな」

 裕は微笑む。



*********


「ねえ、ちょっと」


 ヒカリは舞台袖で音響装置の調整をしている男性に、声をかけた。


「あの子の歌のとき、あの子のマイクが入らないようにしてくれない?」


 男性は、ポカンとした表情でヒカリの顔を見つめ、すぐに言わんとしていることを理解した。


「それなら、マイクの音量をもっと落としますか? ヒカリさんの声が際立つようにこちらで調節することはできますよ」


「そういうのはいいから。あの子のマイクが絶対に入らないようにして。絶対に」


 ヒカリが強い口調で言うと、「……分かりました」と戸惑いながらも承諾した。

 ヒカリは無表情でステージに戻った。



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