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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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ドキドキの楽屋入り

 レイナは武道館を見上げて、ポカンと口を開けた。


 ――こんなに大きな建物、見たことない。ここに人が集まってくるってこと?


 レイナの驚きに気づいて、裕は「大きく見えるけど、ゴミ捨て場のほうがもっと広いんじゃないかな」と言った。


「えっ、そうなの?」

「ああ。僕も一回、ゴミ捨て場を一周したけれど、結構な運動になったからね。ゴミ捨て場のほうが広いよ」

「ふうん、そっかあ」


 裕に促されて会場の楽屋口に入ったレイナは、落ち着かなくてキョロキョロと辺りを見回した。


「先生、おはようございます」

 あちこちから声がかかり、裕はそのたびに「おはよう」と返している。


 ――もうお昼なのに、おはよう?


 レイナが不思議に思っていると、

「あの子が、あの?」

「ボロボロの服着てるじゃない」

というヒソヒソ声が耳に届いた。


 スタッフたちはレイナのことをじろじろ見ている。

 レイナは急に恥ずかしくなり、俯いた。


 裕がそっと肩に手を置く。見上げると、「大丈夫だよ」という熱のこもった瞳で言った。


 裕は「西園寺様」と張り紙がしてある部屋のドアを開けた。


「ここは楽屋って言うんだ。ここでメイクをしたり、衣装を着たりするんだよ」

「へええ」

 鏡がたくさんあるぐらいで、他には何もない。


「飲み物も用意してないのか。誰かに持って来させるかな」

 裕がつぶやいたとき、誰かがドアをノックした。


 裕が「どうぞ」と答えると、アンソニーが「西園寺先生、おはようございまあす」と顔を出した。


「ああ、おはよう。今日はよろしく」


 裕は答えてから、「レイナ、こちらはヘアメイクを担当しているアンソニーだ」と紹介した。


「あらあ、この子がレイナちゃん? 西園寺先生の新しい秘蔵っ子ね。よろしくう」


 レイナは目をパチクリさせていた。


 女性の言葉遣いをしているが、アンソニーはどう見てもヒゲを生やした男性だ。短く刈り上げた髪は金髪に染め、耳には大きなピアスをしている。

 そして、顔だちは白人っぽくない。レイナと同じ人種に見える。


「あ、もしかして、男なのになんで女っぽい言葉を使ってるんだって思ってる?」


 アンソニーの問いに、レイナは深くうなずいた。


「まあ、素直ねえ。かわいいわあ」

「アンソニーは見た目はともかく、腕はいいんだよ」

「見た目はともかくって、何よ、失礼ね」


 アンソニーは軽く裕を睨む。


「それにしても、この子は磨けば光りそうな逸材じゃないの。西園寺先生が力を入れたがるのも分かるわ」

 裕は何も答えずに「衣裳を持って来る」と部屋を出て行った。


「それじゃあ、変身しましょうか、シンデレラ。なあんてクサいことを言う自分が、我ながら嫌になるわあ」

 アンソニーはコロコロと笑う。


「あの、なんで、アンソニー?」

「ああ、キャンディキャンディのファンだからよ」

「キャンディ……?」

「そういう名前の昔のマンガがあるの。読んだことない?」


 アンソニーはレイナを鏡の前に座らせ、キャリーケースからメイクボックスを出してメイク道具を並べる。

 レイナは歓声を上げる。


「すごーい、きれーい!! これ、全部、メイクで使うの?」

「そうよお。たくさんあるでしょ?」

 レイナは「ママにもあげたいなあ」と、うっとりとため息をつく。


「ママはどんなのを使ってるの?」

「ママはメイクをしたことはないよ。でも、キレイなの。世界一、キレイなの」

「……そう。そうね、あなたのママなら、きっとキレイでしょうね」


 アンソニーはレイナがつけていたバレッタを外した。

「あ、それ!」

 レイナは慌てて受け取る。


「大事なものなの?」

「うん。タクマお兄ちゃんにもらったの」

 レイナは愛おしそうにバレッタをなでた。


「そうなの。タクマお兄ちゃんは、今日は観に来るの?」

「うん、たぶん、天国から見てくれると思う」

 アンソニーは髪を梳く手を止めた。


「あら、やだ。タクマお兄ちゃんって、もしかして……」

「死んじゃったんだ。トラックに轢かれて。これはお兄ちゃんから、誕生日プレゼントにもらったの」


 レイナは自分でも驚くほど、普通にタクマの死について語った。


「あらあ。それじゃ、まるでキャンディキャンディじゃない。私、そういう話に弱いのよお」


 アンソニーはハンカチを取り出して目頭を押さえた。

「じゃあ、このバレッタはつけないとね。タクマお兄ちゃんに見えるように」

 レイナはコックリとした。


 そのとき、裕が「衣裳はこの中から選ぶらしい」とハンガーかけをガラガラと運んで来た。


 そこには5着の衣裳がかかっていた。

 大きなリボンがついたピンクのドレス、肩がシースルーになっている黄色いドレス、白い総レースのワンピース、水色の肩出しドレス、チェックのワンピース。


「キレイ……お姫様みたい」


 レイナはそっとドレスに触ってみる。生地もやわらかくて、いつも自分が来ている服とは大違いだ。


「やっぱり、白だな」

「そうね、この子の無垢な感じを出すのは断然白だと思う」


 裕とアンソニーの意見が一致して、白いワンピースを着ることになった。


「それじゃ、後は頼むよ」

 裕が部屋を出て行った。

「じゃあ、変身するわよ、お姫様」

 アンソニーが目をキラリと光らせた。



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