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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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旅立ちの予感

「レイナさんを、プロの歌手として育てさせてくれませんか」

 裕の言葉に、ミハルは目を見開いた。


 その日、レッスンを終えてレイナがゴミ捨て場に戻って来たのは夕方の6時を過ぎていた。辺りはすでに真っ暗になっている。

 レッスンで疲れ果てたレイナは、車の中で眠りこけていた。


「今日一日レッスンをして、レイナさんの声の素晴らしさには、私も家内も圧倒されるばかりで……このまま埋もれさせておくのは、もったいない。レイナさんの声に、きっと世界中が感動すると思うんです。そういう力を、彼女の声は持っている。今まで何十人もの歌手と出会って来たけれど、こんなに心打たれたのは初めてなんです」


 裕は興奮する思いを隠しきれないようで、大げさな身振りで熱弁をふるう。


 一緒に迎えに来たアミは、心配そうにミハルを見上げる。

 ミハルはすぐに覚悟を決めたようだ。


「分かりました。レイナがそれを望んでいるのなら、私は止める気はありません」


 一言一言、自分に言い聞かせるように告げる。


「あの子をよろしくお願いします」

 ミハルが深々と頭を下げる。


 裕は慌てて「頭を上げてください。お願いするのはこちらなんですから」と制した。


「あの子は、いつかここから出て行かなくてはならないんです。その手助けをしていただけるのなら、私は」


 ミハルはそこで言葉を切った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「ただいまあ。いっぱい眠っちゃったあ」

 目覚めたレイナが、車から降りてきた。


「分かりました。私たちで必ず、レイナさんをプロに育ててみせます。私たちに任せていただけて、感謝します」 


 裕はミハルに丁寧に頭を下げた後、「それじゃあ、明日も同じ時間に迎えに来ます」と言った。


 車が走り去っていくのを、三人はしばらく見送った。


「ねえ、本当にいいの? 毎日、歌のレッスンに行って」

 レイナが聞くと、ミハルは「もちろん」とうなずいた。


「でも、洗濯とか、お料理とか、マサじいさんのお手伝いとか」

「それはみんなで手分けしてやるわよ。ねえ、アミ?」


 アミに問いかけると、アミは悲しそうに「あー……」とレイナの手を握る。


「レイナと一緒にいられないのが寂しいんでしょうね」

「大丈夫だよ、毎日帰って来るんだから」

 レイナは手を握り返した。

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