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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第6章 歌って、レイナ
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絶対に、離れないよ。

 アンコールを求める声は鳴りやまない。

 3度目のカーテンコールで、レイナはバンドやバックコーラスのメンバーと一緒にステージに立ち、みんなで手をつないでお辞儀をした。割れんばかりの拍手に包まれる。

「またね~!」

 ファンに大きく手を振りながら袖に引っ込む。


「レイナぁ」

 いつものように笑里とアンソニーが涙で顔をくしゃくしゃにして、レイナに抱きつく。

 いつもと違うのは、裕も泣いているのを隠そうとせず、レイナに手を差し伸べたことだ。

 レイナも手を差し伸べると、裕の大きくて温かな手が包み込む。


「ありがとう、レイナ。改めて思ったよ。君に出会えて、よかったって」

「私も、ありがとう。裕先生、笑里さん、大好き!」

 レイナはふわりと裕に抱きついた。

「あら、私のことは?」

「アンソニーも!」


「オレは?」

 トムがレイナの肘をつかむ。

「もちろん、トムも!」

「あんたもちゃっかり混じるのね」

 アンソニーはトムの髪をクシャクシャとかき混ぜる。

「だって、みんな楽しそうなんだもん」

 泣き濡れた顔で、みんなはアハハと笑う。


 スティーブとアリソンも袖に顔を出し、拍手をして讃えてくれた。

「レイナ、素晴らしかった! 私のライブにゲストで出てくれる日が、今から待ちきれないわ」

 アリソンはレイナをハグする。


 スティーブも、「困難にもめげずに乗り越えて、これだけのパフォーマンスをして、これだけのファンの心を揺さぶったんだ。君はもう、一流ミュージシャンだよ」と絶賛した。

 レイナはバンドとコーラスのメンバーとも握手をしながら健闘をたたえあった。

 みんなが達成感と充実感に酔いしれていた。

 

 ふいに、「今日は裕の家に泊まっていい? アミに会いたいし」とトムが無邪気に言う。    

 その言葉に、裕と笑里はとたんに顔を曇らせた。


「ああ、そうだね。アミもきっと、待ってるよ」

「アミ、ライブを見に来られないぐらい、具合が悪いの?」

「心配しないで。ここは人が多いから、家で休んでいたほうがいいって、私が言ったの。きっと、家で寂しがってるわね」

 裕と笑里はぎこちない笑みを浮かべながら、トムを安心させた。


「私、ママのところに行かなきゃ」

 レイナは決意に満ちた表情で言う。

「ママと一緒に、闘う。私もカンテイってところで、片田のおじさんに呼びかける」

「ああ、そうだね」

 裕は深くうなずく。

「僕らも一緒に行くよ」

「ママたちはどうなったの?」

「そういえば、どうなったんだろうね」


 みんなで楽屋に行こうとしたとき、「レイナ!」と鋭く呼ばれた。

 振り返ると、ステージに男が立っている。

 レイナは、すぐに官邸で会った白石だと気づいた。白石の目は血走っている。


 白石はアミを連れていた。

「ホラ、行けよ」と、アミの背中を押す。

 アミは「レイ……ナあ」と2、3歩歩いた。

「アミ! よかった。具合が悪くて、今日はお留守番だって聞いてたの」


 レイナが駆け寄ろうとすると、「ダメー!」とアミは叫ぶ。

「来あ、ダメ、ダメ」

 必死に手を振って、レイナを止める。

「アミ?」

 

「アミちゃん、無事だったの?」

 笑里も駆け寄ろうとするが、裕が腕をつかんで止めた。

「待て。何か、おかしい」

「え?」

「おいっ、アミに何をしたんだ?」

 裕はアミに近寄ろうとして、足を止める。アミの体に、何かが巻き付けられていることに気づいたのだ。

「爆弾、か……?」

 笑里は悲鳴を上げる。


「警察なんて呼ぶなよ。そんなことしたら、すぐにこのガキを吹き飛ばしてやるからな」

 白石の左手には爆破スイッチが握られている。

 笑里は「アミちゃん……!」とヘナヘナと崩れ落ちた。


「なんで……?」

 レイナはアミから目をそらさない。アミは震えながら涙を流している。

「なんでアミにこんなことするの? アミは何も関係ないじゃない」

「うるさい、うるさい、うるさいっ、お前の母親が悪いんだ!」

「なんで? ママは何も悪いことなんてしてないよ? 悪いのは片田のおじさんでしょ?」

「うっせえな!」


 白石は苛立ち、アミを「早く行けよ」と軽く蹴とばした。アミはへたりこんで、ワアンと泣き出す。

「アミ!」 

 たまらず、レイナはアミに駆け寄った。

「レイナ!」

 裕たちは動けない。


「レ……ナ。レ、ナ」

 アミは泣きじゃくる。

「ごめんね、アミ。怖い思いをさせちゃって、ごめん。ごめんね」

 レイナはアミを強く抱きしめる。


「もう大丈夫。私が一緒にいるからね。絶対に、離れないから」

 白石はスイッチを押そうとする。

「やめろー‼」

 裕は絶叫した。


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