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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第6章 歌って、レイナ
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一人でも闘う。

 バンバンと銃撃音が鳴り響き、催涙弾が次々と撃ち込まれる。白い煙を上げながら道路を転がって行く催涙弾を避けて、デモの参加者は官邸から離れるしかなかった。


 機動隊が倒れている参加者を拘束しようとしたので、周囲の人が止めに入る。あちこちで小競り合いが起きはじめた。

 真実の党の候補者も、身の危険を感じて、大半が逃げて行ってしまった。


 美晴は一人、官邸の前に立っていた。催涙弾の煙に激しく咳き込みながらも、その場から離れない。

 機動隊も、美晴を拘束していいのかどうか、ためらっているようだ。


 ――怜人、怜人。私は逃げない。たとえ、ここで倒されたとしても。たった一人になっても。この場から、絶対に逃げないから。あなたも、今、ここにいるでしょ? 一緒に闘ってるでしょ?

 

 その時、一陣の風が吹いて、煙を吹き飛ばした。呼吸がずいぶん楽になり、美晴は深呼吸をした。

 美晴も、本当は足が震えている。

 だが、自分が逃げたら、この闘いは終わる。それが分かっているので、歯を食いしばって官邸を睨みつけた。


「卑怯者、ここに出て来なさいよ!」

 美晴は叫ぶ。

「あなたが直接、私をつかまえに来なさいよ! 死刑にしたいのなら、すればいい。怜人を殺したように、私も殺せばいいじゃないの! みんなを攻撃しないで、私だけを攻撃しなさいよ!」

 その美晴の様子を、海外メディアの記者が撮影している。今、全世界に、官邸前の決戦は中継されていた。


「美晴さん、いったん、下がったほうが!」

 陸は戻って来て、美晴に催涙弾を避けるための傘を差し出した。

「私はここにいる。陸君は逃げて、危ないから!」

「そんなわけにはいかないですよ」

 陸は自分も傘をさしている。陸の後ろから、ヨロヨロと千鶴が戻って来た。

「母さん、ここに来たら、危ないから!」

「いいのよ」

 千鶴は美晴の隣に座り込んだ。


 ヘルメットをかぶっているゆずが、「向こうにケガ人がいる! 誰か手を貸して!」と走り回っている。

「母さんも、ゆずさんと一緒にあっちに行ったほうがいいよ」

 千鶴の顔は真っ蒼になり、唇が震えている。

 病を押してデモに参加している千鶴は、途中で何度もしゃがみこんでいた。陸やゆずが何度も車に戻って休むように勧めても、頑なに拒んでいた。

 その千鶴も、さすがに立ち上がる気力は残っていないようだ。それでも、千鶴は陸の言葉に首を横に振った。


「私はもう、余命が短いから、いつ死んでもいいの。今度は美晴さんと一緒に、最後まで闘うの。ここで力尽きて、死んでもいいっ……」

 息も絶え絶えに訴えかける千鶴に、陸は何も言えなくなる。

「あなたのお父さんだって、こんな世の中じゃなかったら、死なずに済んだかもしれない。これは、お父さんの敵をとるためでもあるんだから」

「母さん……」

 陸は真っ赤な顔で、必死に涙を堪えている。

 美晴はしゃがんで、千鶴の手を握った。

「ありがとう、千鶴さん。一緒に闘おう」

 千鶴は弱々しくうなずく。


 いつの間にか、機動隊が3人を取り囲んでいた。

「ここから直ちに立ち去りなさい」と銃を向けながら警告する。

「私たちを撃つ気?」

 美晴はゆっくりと立ち上がる。

「武器を持ってない私たちを撃つの? あなた達に、そんな覚悟はあるの?」

 燃えるようなまなざし。美晴の気迫に、機動隊はひるむ。


 そこにドローンが何台も飛んで来て、機動隊の上に何かを振りかけた。

「うわっ、なんだこれ」

 たちまち、機動隊は激しくせき込んだ。

「目が、目が見えない!」

「おいっ、下がれ、下がれ!」

「いったん引けー!」

 デモ隊と機動隊の叫び声が重なり合い、夜空に消えていく。


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