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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第6章 歌って、レイナ
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影山美晴を狙え

「影山美晴を狙え!」

 片田は血走った目で命じる。SATの隊員は、その場で固まった。

「いや、さすがに、デモを扇動しているだけの人を撃つのは……官邸に侵入したって言うのならともかく、何も危害を加えてないんですよね」

 隊長がおずおずと片田に進言する。


「大丈夫だ、現場は混乱してるから、どこから撃たれたかなんて分からないから」

「いえ、そういう問題じゃなく、私たちはそういう訓練を受けていないんです。テロ行為や立てこもりがあったときを想定しての訓練で」

「あいつらのやってることは、テロじゃないか!」

「そんな、大声で抗議しているだけなので、テロには当てはまらないかと」

「いいんだ、オレがテロだって言ったら、テロになるんだ!」


「総理、落ち着いてください」

 隊長は困惑していた。

「とにかく、警察庁長官と相談してみますので」

「長官にはオレから話したよ。で、あんたらを派遣してもらったんだ。ってことは、オレの命令に従ってもいいってことだ」

「でも、長官からは……」

 隊長はそこで言葉を切る。


「長官が何だ。何て言ったんだ」

「総理を説得しろと……」

「はあ? 何寝ぼけたこと言ってるんだ! とにかく、あいつらは凶悪犯なんだよ! オレを総理の座から引きずり下ろそうとしてるんだから」

「……」

 隊長はしばらく言葉を探していたようだが、「おい、撤収だ」と背後に控えていた部下たちに呼びかける。


「待て、どういうことだ?」

「命令には従えないってことです。こんなことで人を撃ってしまったら、私たちに抗議が殺到して、裁かれることになります。とても責任を負えません」

「そこはオレが何とかしてやるから、心配するな」

「いえ、申し訳ありませんが」


 隊長が深々とお辞儀をして辞去しようとすると、「君の名前は野々村君だったね」と片田は抑揚のない声で言う。

「君はまだ結婚して間もないんじゃないか? 子供が生まれたばかりだろう。今、職を失ったら大変じゃないか。せっかく公務員になれたのに。あの、外で大声でわめいている連中と同じようになりたいのか? ゴミ捨て場で暮らすようになってもいいのか?」


 野々村の顔はみるみる青ざめていく。

「それは、どういう意味でしょう。脅しているように聞こえますが」

「そうだよ、脅してるんだ。オレの命令に従えってね。従えないなら、あんたも、あんたの部下も、一生、警察で働けないようにしてやる。警察だけじゃない。公務員でいられなくしてやる。今の時代、公務員でなくなったらどうなるのかってことぐらい、分かっているだろ? せっかく特権階級にいるのに、棒に振る気なのか。たいしたもんだねえ」


 野々村は拳を握りしめ、気持ちを落ち着かせるために目をつぶる。

「隊長……」

 部下たちはうろたえて、野々村と片田の顔を交互に見比べる。

「……分かりました。それなら、この任務は私一人で遂行します。部下はみな、帰してください」

「そんな、隊長!」

「自分もやります!」

「いや、こんな理不尽な任務、私一人で十分だ」


 片田は手を叩きながら、大笑いする。

「いいねえ、上司と部下で庇いあう、美しい姿だ。これこそ日本人だ」

「いくらなんでも、笑うなんて失礼じゃありませんか?」

「いや、失礼、失礼。久々にいいものを見せてもらったよ」

 片田は笑顔のまま、立ち上がる。

「それじゃ、野々村君、屋上に行こうか」



「あれ、ヘリコプターが帰って行く」

「諦めたのかな」

「いや、SATのメンバーだけ下ろして帰るんじゃね?」

 陸たちはヘリコプターを見上げていた。


「もう7時か……」

「今から投票場を開けても、1時間もないよな」

「明日に変更してもらうしかない」

「今日中に片田は折れるかな」

「側近が次々に辞めてるんだから、さすがに」


 そのとき、突然、パン、パンと花火のような破裂音がした。

 あちこちで、デモ隊の足元で白い煙が上がる。


「――催涙弾だ!」

「離れろ、離れろ!」

 悲鳴が上がり、逃げ惑う人でたちまち現場は大混乱になる。もろに煙を浴びて、悲鳴を上げて転がっている人もいた。



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