表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第6章 歌って、レイナ
155/165

バースデイライブ、スタート!

「どうやら、着いたようだな」

 機動隊とにらみ合っていた裕は、ドアの外の騒動に気づき、微笑んだ。

 それと同時に、ホールのドアが開き、ファンがなだれこんだ。


「うわっ、なんだ、なんだ⁉」

「何やってるんだよ、外の連中は!」

「外に出せ、出せ!」

 機動隊は追い出そうとするが、逆にファンたちは取り囲んで隊員を持ち上げて、会場の外に送り出してしまう。機動隊の悲鳴がホールに響き渡る。

「そいつら、全員、外に運んじゃって! バイバ~イ」

 アンソニーははしゃぎながら、その光景を撮影している。


 機動隊がいなくなると、レイナが姿を現した。

「レイナ!」

 裕は大きく手を振る。

「裕先生、笑里さん、帰って来たよ~!」

 レイナも手を振って応える。

 ファンはちゃんと道を開けて、レイナとトムをステージに導いてくれた。

 裕がレイナに手を差し伸べる。

「待ってたよ」

 レイナは裕の手につかまってステージによじ登った。裕はレイナを抱きとめる。レイナは汗だくになって、荒い息をしていた。

 ファンから一斉に拍手が起きる。


「無事でよかった」

 裕の声は震えている。

 笑里とアンソニーは歓声を上げて駆け寄る。

「レイナちゃん、無事だったのね!」

 笑里は涙で顔をクシャクシャにしながら抱きしめる。

「ごめんね、連絡、できなくて」

「いいの、いいのよ。あなたなら絶対にここに来るって信じてた」


「ちょっと、ちょっとお。オレのことは無視?」

 ステージの下でトムがすねている。

「ハイハイ。王子様もよく頑張ったわね」

 アンソニーが手を差し出した。


「みんなが君を待っていたんだ。ここにいるみんなも、外のファンも」

 裕はようやく落ち着きを取り戻した。

「うん、分かってる。みんな、ありがとう‼」

 レイナはファンに向かって手を振る。

「皆さん、いったん、外に出てくださーい! ステージの準備をします!」

 支配人が呼びかけると、ファンは「やった、やった!」「機動隊、ざまあみろ!」「オレら、頑張ったよな?」と互いに健闘をたたえながら、ぞろぞろと外に出て行った。


 支配人は裕に何やら耳打ちする。

「それはいいですね。レイナの準備がありますから、こちらは大丈夫ですよ」

「よかった! それじゃ、急いで用意します!」

 支配人は飛んで行った。

「さあ、お姫様、支度しなきゃ」

 アンソニーがレイナの顔を両手で挟む。

「最っ高のメイクをするわよ!」


「あれ、スティーブはどこだろ」

 トムはキョロキョロと見回す。

「もしかして、外に置いてきちゃったかも」

「外はまだ大混乱してるんでしょ? 迎えに行ってあげたほうがいいんじゃない?」

「しょうがないなあ」

 トムが大げさに肩をすくめると、アンソニーは「あなたの育ての親でしょ」と頭をこづいた。


*****************


「美晴さん、レイナちゃんが会場に着いたみたいだ」

イヤホンから、岳人の声がした。

「えっ、戻って来られたの?」

「ファンが大喜びして、会場の外で泣きながら動画で報告してるよ」

「よかった。あの子が無事で」

 美晴は胸をなでおろす。


 そのとき、轟音が響いた。暗くなった空から、一機のヘリコプターが現れ、官邸の屋上に着陸する。

「どうやら、SAT(特殊急襲部隊)が呼ばれたらしいな」

 岳人が緊迫した声になる。

「気をつけて。武力を使うかもしれない」

「分かってる。最初から、そのつもりだから」

 美晴は口元を引き締める。

「どんなに妨害されても、私はここからは逃げないって決めてるの」


****************


「みんなー、お待たせしましたー!」

 レイナがステージに姿を見せると、大歓声が会場を揺らした。会場は一階も二階も満席で、廊下やロビーにも人があふれていた。


 ライブは予定より2時間遅れで始まることになった。機動隊はケガ人を多く出し、あきらめて撤収してしまった。

 会場の外には数万人のファンが詰めかけているので、急遽、外にもスクリーンを立てて、ライブの様子を同時中継することにしたのだ。

「粋な計らいをしてくれる」と裕は支配人の心意気を喜んでいた。


「今日は私のバースデイライブに来てくれて、ありがとう! 会場のみんな、元気ですかー?」

 レイナはシンプルなシルバーサテンのリボンつきワンピースに白いブーツを履き、髪にはもちろん赤いバレッタをつけている。

 うおーっという歓声が沸き上がる。

「外にいるみんな、見てますかー?」

 どおっと会場が揺れた。

「OK、みんな、ありがとー! 一曲目、『名もなき愛を歌おう』、行くよー!!」

 バンドの演奏が始まると、観客は狂ったように飛び跳ねたり、曲に合わせて体を揺らす。



 ライブの様子は観客たちが生配信し、官邸前のデモ隊にも伝わった。

「レイナ、日本に戻って来られたんだ」

「すごいね、このファンの数」

「機動隊が抑えられなくて、退散しちゃったんだってさ」

「へー、すごいじゃん!」

 デモの参加者は、動画を見ながら興奮している。


 森口もスマホを見ながら、涙ぐんでいた。

「レイナさん……よかった! ホントは会場で見たかったけれど」

 つぶやく。

「こっちも負けませんよ。レイナさんに負けてられない。大人は大人で闘わないと」

 それから、「片田、辞めろ!」と腹の底から声を出す。

 森口のその勢いに押されて、疲れて休憩していた周りの人も再びシュプレヒコールを上げる。

 10万人の声がうねりをあげて、官邸を包み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ