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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第6章 歌って、レイナ
153/165

ライブ開始、1時間前。

「ハイ、これ、差し入れです」

 美晴は陸から缶コーヒーを受け取った。4時を過ぎると、西の空の色が紅く染まり始めた。それに伴い、冷え込みが一段と増す。


「あったかー。生き返るう」

「デモに参加しに来た人たちが、いろんな差し入れを持って来てくれるんですよ。おにぎりもあるし、お菓子もありますよ。たこ焼きとか焼き芋も」

「ありがたーい。お昼も食べてないもんねえ」 

 美晴はおにぎりをいただくことにした。


「官房長官が辞任したみたいですよ」

 陸がスマホを見せてくれた。

「他の閣僚も辞任を表明してるらしくて。片田の味方はどんどん減ってますね」

「あらら。人望がなかったのねえ。お気の毒に」

 美晴はおにぎりを満足げに頬張る。


「党内からも投票所を開けろって声を上げてる政治家もいるし。時間の問題ですかね」

「反対してる政治家も、ここに来て一緒に声を上げてくれれば、すぐに投票所は開くのに。遠くから見てるだけってことか」 


「美晴さん、今の参加者はざっと7万人ってとこかな」

 岳人の声が、耳に着けているイヤホンから流れて来た。

「この分だと、夜には10万人は超えるね」

「レイナはどうなの? まだ到着してないの?」


「それが、姿をまだ確認できてないんだよね。たぶん、レイナちゃんが東京に入る前に封鎖されたんだと思う。それに、ライブ会場を機動隊が囲んでるんだよ。ライブを中止させようとしてるのかもしれない」

「そうなの……どこまでも卑劣な人間ね、片田は」


「でも、ファンはあきらめてないよ。会場の周りに1、2万人はいるんじゃないかな。ファンが動画で呼びかけてるんだよ。国がライブを中止させようとしてて、レイナを会場に入れないようにしてるって。だから、余計にファンが集まって来てるみたいだね」

「もう国民を抑えられないってことね。ようやく、ここまで来られた……」

 美晴は感慨深げに官邸を見つめる。

「もう一息で壁を崩せるかもしれない」


*****************


 レイナはクルーズ船の上からお台場の埠頭を見つめていた。

 道路や鉄道が封鎖されていると知り、アリソンに相談してクルーズ船でお台場まで行くことにしたのだ。そのためにあちこちで渋滞している道路を走って、何とか本牧まで戻った。

 ライブ開始まであと1時間を切った。

 だが、埠頭には巡視船が待ち構えていて、とても近づけない。


「海から来るかもしれないって読んでいるってことだな」

 スティーブは舌打ちする。

「これだと近づけないな」

「ねえ、ライブ会場のまわりはポリスが取り囲んでるみたいよ」

 アリソンが動画を見せてくれた。

「そうまでして、ライブを中止しようとしてるのか」

「物騒ね。ライフルまで持って」

「まさか、日本のポリスが市民に発砲はしないだろ」


「ねえ、声が聞こえる」

 レイナは耳を澄ませる。

「私を呼んでるみたい」

 スティーブとアリソンも耳を澄ませると、潮風に乗って「レイナ、レイナ」と呼んでいるファンたちの声がかすかに聞こえた。


「そうか。みんな、レイナを待ってるんだな」

 アリソンは感激した様子で、「OH……」と胸に手を当てた。

「行かなくちゃ。絶対に、あそこに行かなくちゃ」

 レイナは唇をかみしめる。



「レイナ、レイナ、レイナ」

 ファンは声を枯らして、レイナの名前を呼んでいた。

 ファンの数は時間が経つにつれて膨らんでいき、会場のまわりだけではなく、会場から駅に続く橋の上にも人があふれかえっていた。


 機動隊がいくら「本日のライブは中止です。即刻会場から離れてください」と呼びかけても、かき消されてしまう。機動隊もファンの人数に圧倒されて、身動きが取れなくなっていた。


 会場の入り口で、機動隊とファンはにらみ合っていた。

「レイナちゃんが到着したら、私たちが体を張って会場に入れるしかないから」

 茜は紅潮した顔で、住人たちに言う。

「もちろん。その覚悟は決めてっからさ」

 住人は親指を立てて、にいっと笑う。



「私たちは、ここを離れる気はありません」

 ステージの上では、裕や笑里を始め、支配人やバンドのメンバーが機動隊とにらみ合っている。


「支配人が中止を決めるのならまだしも、権力者に、何の理由もなく一方的に決める権利はないはずです。さっきから危険だという根拠を出してほしいと言っても、何も出さないじゃないですか」

「そんなこと言っても、強制的に退去させるだけですよ?」

「強制的にとは?」

 

 裕と機動隊が言い合っている様子をアンソニーが撮影し、動画で生配信している。

「ちょっとちょっと、撮るのはやめて!」

 機動隊にさえぎられても、「いやーん、暴力はやめてえ」と逃げ回り、一向にやめる気配はない。


「強制的に排除したら、外のファンが怒り狂うんじゃない? これだけの人数が暴動を起こしたら、あんたたち止められんの? それとも、国民に銃を向ける気? 国民はみんな丸腰なのに」

 アンソニーの言葉に、機動隊は黙って下を向く。


「官邸からの指示はまだなんですか?」

 機動隊の一人がリーダーにこっそりと聞く。

「まだだ。官邸も混乱してるみたいで、何度問い合わせても、何の返事もないんだ」

「このまま待機してるのはつらいですよ」

「分かってる……」

 機動隊のリーダーはうんざりした表情でため息をつく。


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