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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第1章 さよなら、大切な日々
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突然の、別れ

「近寄るなっ!」


 追いついたジンがレイナを制し、人垣に駆けて行った。クロも後を追っていく。


「ウソだろ、タク、タクマがあ」

 息を切らしたトムがレイナにすがりつく。

 アミもようやく追いつき、マサじいさんは息をぜいぜい言わせながら、人垣に向かった。


 アミが「あー? あー?」とレイナの腕を引っ張る。レイナは何も答えられない。自分の心臓の音が、やけに大きく耳に響く。

 ダンプカーの運転手も降りて、車体の下を見ている。


「救急車を呼べっ、早く!」

 ジンの声が響き渡るが、誰もそこから動こうとしない。


 マサじいさんは人垣の向こうで何が起きているのかを一目見ると、戻って来た。トムに、「マヤさんを呼んできてくれ。早くっ」と指示する。トムは飛んで行った。


 レイナはフラフラと人垣に近づいた。まるで夢の中で歩いているような感覚だ。

 人垣の足元から、大量の血が流れているのが見えた。そして、タクマの腕。

「お兄ちゃん……?」


「見るなっ、見るんじゃない!」

 ジンが鋭く制する。マサじいさんがレイナの前に立ちはだかり、レイナを抱きとめる。


「見ないほうがいい。見ないほうがいい」

「お兄ちゃん? お兄ちゃん!」


 レイナが見ようとするのを、マサじいさんは必死で押しとどめる。アミはレイナの腕をつかみながら、ガタガタと震えている。


「救急車を呼べっ、呼べったら!」

 ジンが何度も叫ぶが、みんな遠巻きに見ているだけだ。タクマを突き飛ばした男も眉間にしわを寄せて見ているだけで、助けようとしない。


 ――あの男。あの男の顔、忘れない。

 レイナはその男の顔を凝視した。


 その男がその場から離れようとしたので、「クロ! あの男っ」とレイナは指差した。ジンの隣にいたクロは呼ばれて、レイナを見る。


「あいつが、お兄ちゃんを突き飛ばしたの!」

 ジンが何か言うと、クロはその男に向かって突進した。男は大声を上げながら逃げたが、あっという間にクロに飛びかかられ、倒れ込んだ。


「イタイイタイ、やめてくれえっ」

 男は叫ぶが、クロは腕を噛んで離さない。

 他の作業員がクロを引き離そうとすると、クロは唸り声を上げて睨むので、誰も近寄れないようだ。男はのた打ち回る。

 

 やがて、マヤや他の住人も駆けつけた。

 作業員の事務所から背広を着た肥った男が出て来た。

「ちょっと、困るんだよっ。こんなところに転がったままだと、作業をできないだろ? 早くどかしてくれ!」


 怒鳴りつけたとたんに、ジンがその男につかみかかった。

 ジンの手は血だらけで、男のシャツに血がつく。ジンの剣幕に、男は「わわわ分かった、落ち着け、落ち着こう」と慌てふためく。


 マヤは人垣を分けてタクマのもとに駆け寄り、絶叫して崩れ落ちる。

「タクマ、タクマッ」

 悲痛な声が響き渡る。


 トムも後に続こうとすると、「子供は行っちゃいかん!」とマサじいさんが腕をつかんだ。

 レイナは、マサじいさんの体越しに人垣の向こうを見ようとしたが、ますます人が多くなって見えない。


「早く救急車を呼んで、早く、早くっ。なんで呼んでくれないのお?」

 マヤは泣きながら訴えている。


「奥さん、もうダメだよ。死んでる」

 作業員が声をかけると、マヤは「ウソ、ウソよおっ」と泣き叫ぶ。


「ウソでしょ……?」

 レイナは震えながら、マサじいさんを見上げる。

「お兄ちゃん……死んだなんて……ウソでしょ?」


 マサじいさんは何も言わずに、顔をゆがめる。

 レイナは身体の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。

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