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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第4章 もう、夢なんて見ない~ミハルの闘い~
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白石の裏切り

「あなた、怜人を殺したの⁉」

 白石は顔をゆがめる。

「人殺し!」

「いや、俺じゃないよ」

「だって、あなたさっき、ここから出てきたじゃない」

「手をかけたのは俺じゃない。ここに入ってた囚人だよ」

「じゃあ、あなた、ここで何をしてたの?」


「とにかく、ここから逃げよう。あんたも危険なんだから」

 白石は美晴の腕をつかむ。

「いや、離して!」

 美晴は白石の手を振り払って、怜人にしがみつく。


 白石はなおも二人を引き離そうとする。美晴が思いきり突き飛ばすと、白石はよろけて、しりもちをついた。


「ねえ、いつから裏切ってたの? いつから? ねえ、なんで? なんで怜人を裏切ったの?」

「仕方なかったんだ……っ!俺だって、こんなことしたくなかったっ」

 苦しそうに顔をゆがめる。

「借金が……賭けで負けて、1000万の借金を抱えることになって。ヤクザに脅されてたんだ。それを全部肩代わりしてくれるって言われたんだ」


「誰に?」

「……片田さん」

 美晴は全身に鳥肌が立った。

「何……どういうこと? 片田さんとつながってたの?」

 白石は頭を両手でかきむしる。


「だって……どうしようも、どうしようもなかったんだ! マンションも車も取り上げられそうになって、それしか……」

「1000万の借金のために怜人を裏切ったってこと? たかだか借金のために? 怜人の命を奪ったの?」


「オレは奪ってない。断ったんだ、オレは怜人を殺せないって。そしたら、手伝うだけでいいって言われて……それを断ったら、オレが殺される。オレ、ホントもう、ダメなんだよ。クスリをやってるところも撮られちゃったし。たぶん、あの賭け麻雀も片田さんが仕組んだんだろうし。あの人は怖い人だよ、ホントに。あんな人に歯向かっちゃいけなかったんだよ。だからこんなことにっ」


 美晴は白石を冷たい瞳で見下ろした。


 ――こんな……こんな人のせいで、怜人は。


 怜人の身体を持ち上げる腕が、しびれて感覚がなくなる。


 ――早く下ろさなきゃ。早く、早く。


「もうやめろって、ムダだってば」

 悲痛な声で、美晴の腕をつかむ。

「お前は生かしておいてもいいって言われてんだよ、片田さんから。これから片田さんのところに行こう。そうしたら、保護してもらえるから」

「触らないでよっ、離して!」


 もみあっていると、急に白石の動作が止まった。白石は目を見開いている。

「何?」

 白石は振り返った。その背中にはダガーナイフが刺さっている。

 白石の後ろに、ゆずが震えながら立っている。ゆずは涙を流しながら、「あんたなんかを信用するなんてっ……」とつぶやいた。白石は崩れ落ちる。


「美晴さん、逃げようっ」

 ゆずは美晴の手をつかんだ。

「ゆずちゃん、手伝って。怜人を下ろさなきゃ!」

「下ろしたいけど、もう時間がないよ。下から大勢の人がこっちに向かってるの」

「ダメ、怜人を助けないと」


「美晴さんっ」

 ゆずは美晴の肩を揺さぶる。

「しっかりして! 怜人さんはもう、死んでるよ」

「ウソ、ウソ」

「ううん、ウソじゃない。手が冷たいでしょ?」


 ゆずは美晴に怜人の手を触らせる。

 さっきまで、握り合っていた手。国会議事堂を逃げ回っている時は、確かにしっかりと手をつないで、そこから怜人のぬくもりが伝わって来た。


「怜人……っ。いや、いやあっ」

 美晴は泣き崩れる。

「私はここにいる。ずっと、怜人のそばにいる。離れない。離れないからっ」

「美晴さん、気持ちは分かるけど、怜人さんのためにも逃げなきゃ! 怜人さん、何のために美晴さんを逃がしてくれたの? 美晴さんに生きていてもらいたいからでしょ!」


 白石がうめきながら、ゆずの足首をつかむ。ゆずは「触るな!」と白石の腕を蹴り飛ばす。

 美晴は怜人を見上げる。この表情を忘れないように。目に焼きつけるように。

 怜人の手に口を押し当てる。零れ落ちる涙が、冷たい手の平を濡らす。


「ごめん、ごめんね、怜人」

「早くっ、足音が聞こえる!」

 ゆずは美晴を引っ張り出した。

「怜人っ」

 美晴はなおも怜人に手を伸ばす。


 すると、何人もの消防隊が「人がいるぞ!」「大丈夫か?」と留置所に入ってきた。

「私は看護師です! これからケガ人を搬送します」

 ゆずは美晴の脇の下に体を入れて、抱え上げるような姿勢をとった。いつの間にか、腕に赤十字の腕章をつけている。


 消防士たちとは逆の出口に、二人は向かった。消防士たちは一つずつ房を確認している。

「おいっ、人が首を吊ってるぞ!」

「誰か倒れてるっ」

 背後で怒号が飛び交う。


 ――怜人。怜人。


 廊下には美晴の涙が点々と続いた。 


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