Ep.3 酒場でバタバタ仲間探し!
前回のあらすじ
道を塞ぐ大サソリをテキパキと倒して次の町「モスウッド」にたどり着いた三人。
しかし、町に着くまでに起こった些細なミスが原因でキアノスが魔物の一種である淫魔だと判明した…が、青年はそれも踏まえて仲間にすることを決めたようだ。
魔物バレから一夜明け、三人は酒場に来ていた。
とはいえ、子供二人連れではお酒など飲めるわけもなく、そもそも青年はお酒というものが苦手。ということで…
「マスター、ハチミツの水割りを3つ」
「あいよ」
「ハチミツ?」
「甘くてすこしドロッとした液体です。ハチ、という生き物が作り出してますね」
「甘くて…ドロっと…」
なにかに反応したらしく、キアノスが呆けてしまった。
「…ん?おーい?」
「…あ、な、なに?」
「今ボーッとしてなかったか?」
「えっと…うん」
「ちなみに、今回は水で薄めるのでドロっとしてませんよ」
「そうなんだ…」
クレムのツッコミに、あからさまにテンションを落とすキアノス。
「ハチミツの水割りだよ」
「よしよし…それじゃ、乾杯しようか」
「乾杯ってなに?」
「最初に飲み物を飲む時に、挨拶することですね」
「キアノスはこういうの初めてか?」
「うん!」
「んじゃ、俺たちが乾杯と言ったら乾杯と言ってくれ。俺たちの旅の平穏を願って!」
「私達三人の結束を願って」
「「乾杯!」」
「か、かんぱい!」
・・・・・
さて、こういうファンタジーで酒場と言えば仲間探しである。青年たちも例に漏れず、仲間を求めてマスターに聞いてみることに。
「マスター、仲間を一人頼む」
「あい…って、仲間を注文してもすぐには答えられないな」
流石にツッコまれた。
「今すぐじゃなくていいけど、なんと言うか戦士が欲しい」
「詳細な注文されても…いや、町にたむろしてる戦士ならいるな」
「本当か!?」
思わず青年が身体を乗り出した。まさかのヒットである。
「ああ。その子はもう少し遅い時間にここに来るから、兄さんたちは戻りな。それとも、宿屋に直接向かわせるかい?」
「いや、俺たちがここに来る。どのくらい後に来れば良い?」
「そうだな…日が沈んで、この酒場が賑やかになってきたらだな。その時にカウンターまで来てくれ」
「分かりました、それではまた後で参ります。これは代金です」
「毎度あり」
お代を支払い宿に戻ろうとした三人だが、マスターが呼び止めた。
「…おっと、兄さんたちは冒険者なんだろ?」
「ああ、それがどうした?」
「なら、町の南に洞窟があるんだが、そこを調べてくれないか?」
「洞窟…わかった、俺たちで調べる」
「ちなみに、魔王に関する情報もありませんか?」
「魔王…その洞窟の近くに、魔物が砦を作ったんだが、そっちも調べてもらえるか?」
「魔物が砦…ボク、そっちを先に調べたいな」
「だな、安全を確保するに越したことはない」
「ですね…情報ありがとうございました、では後ほど」
「あいよ」
・・・・・
情報を手に入れた三人は、町の高台…いわゆるやぐらに登っていた。
そうすることで、話に出てた砦ぐらいは見えるはず…という目論見は大当たり。森の向こうに、木製の建物がそびえ立っていたのである。
「あれは…結構立派だな」
「木製で荒削りですが、高度な知能で作られたようですね…これで不浄の気が異様に放出されてなければ、なお良かったのですが」
「不浄の気…魔物の臭いってやつか」
「うん、ボクにも、すごく嫌な感じが伝わる」
「キアノスも?」
「マブロ、クレム、さん…あそこに行くなら、覚悟しないとだめだよ!」
「…だな。新しい仲間を迎えてから考えようか」
「そうしましょう…そろそろ日も暮れます」
「日が暮れたら、さっきのお店に行かないと!」
「そうだった…よし、行くか!」
・・・・・
夜の帳が降りた頃、改めて酒場に向かった三人。
昼頃とは違い、酒場は活気に満ち溢れていた。しかし、キアノスが入る直前ですくんでしまう。
「キアノスさん?」
「…なんだか、すごく怖い…!」
「怖い、か…大丈夫だ、俺たちが守る。クレム、念には念を…な!」
「大丈夫です、万が一の時は…」
と、ローブの下から杖を見せた。いざとなったら魔法を使うということなのだろう。
「さて、入るぞ」
と、入った直後。
「あーん?お子様たちが何しに来たんだー?」
酔っぱらいである。冒険者らしく、ガタイが良い。
「マスターに頼み事してるんだよ。ほっといてくれ」
厄介事に二人を巻き込みたくない青年は、急いでカウンターへ。
「マスター、仲間を一人頼む」
「あいよ。ポルト、例のパーティが来たぞ」
「本当!?」
と、隣に座ってた女性が青年たちに向き合う。
軽く日に焼けた肌、動きを重視したのか薄めのプレート、そして背中からは結構デカイ斧が見え隠れ。
何より、クレム・キアノスの二人には足りない…大きな胸。
一瞬青年が見とれてしまったのは仕方ないだろうし、それに気づいたクレムに頭をはたかれたのも仕方ないのである。
「いってて…お前がマスターが言ってた?」
「うん!自分はポルト、戦士をやってるんだ!」
「そうか…俺はマブロ、何やかやあって魔王を討伐しに行く冒険者だ。で、こっちは僧侶のクレム」
「クレムと申します」
「こっちは青魔道士のキアノス」
「キ、キアノス…だよ!」
自己紹介が済んだところで。
「それでポルト、俺と一緒に魔王を殴りに行かないか?」
「乗った!」
「よし!」
がっちり握手。あっという間に四人目が加わったのであった。
「しかし、どうしてすぐに決めたのですか?」
「魔物が凶暴化してきてるから、魔王というのを倒せばなんとかなるのかな、って!」
「誘ったは良いけど、結構しんどいぞ?」
「大丈夫、自分はそういうの慣れてるから!マスター!オレンジジュースもう一杯!」
「「「オレンジジュース?」」」
聞き慣れない言葉につい三人がオウム返し。
「オレンジって果実から絞った飲み物で、すっごくおいしいんだ!」
「この町はオレンジが名産でね…その果実もだが、絞った汁も、おいしいんだ…オレンジジュースだよ」
絞りながら器用にマスターが説明する。
「…マブロ、ボクもオレンジジュース飲みたい」
「俺も。クレムは?」
「私もです…ではマスターさん、オレンジジュースをこちらにも3つ」
「あいよ、これで今日のオレンジは品切れだよ」
マスターがオレンジを絞ってるその時…
「おい!オレンジ酒持ってこい!」
「今日の、オレンジは、品切れ、だよ」
「あんだと!?」
「それよりお代、ちゃんと払ってよ…オレンジジュースだよ」
「よーし、それでは」
「ちょっと待ってください、後ろの方がオレンジジュースを求めてるようですが」
「すごく怖い…!」
「マジか…って、さっきの酔っぱらいかよ」
目線を合わせてしまったために、酔っぱらいが三人に詰め寄る。
「テメエ等、そのジュースをよこせ」
「ふざけんな」
「んだと!?」
「俺たちは次いつ飲めるかわからないんだぞ…夜が明けたら出発しないといけないし」
「このやろ…子供は黙って大人の命令を聞けや!」
「俺は大人だ…」
「そこまでだよ!」
青年と酔っぱらいの間に先程のポルトが割り込む。ポルトは酔っぱらいを見据えて…
「この人たちが先に注文した!だからおじさんたちは今日は諦めて!」
「俺はそれより前に言ったんだよ!」
「マスターに聞こえてなきゃ何の意味もない!」
「うるせー、このガキが!」
「人に迷惑かけるおじさんよりはマシ!」
「…早く飲みな」
「…だな、それじゃ」
「「「いただきまーす」」」
三人はそのままオレンジジュースをゴクリ。
「て、てめぇら…!!」
「ごちそうさまでした、お代はどちらに?」
「お代は…そこの酔っぱらいを追い払ってからだね」
「分かった」
青年が剣を抜き、酔っぱらいに突きつける。
「帰ってくれ、せめて外に出ろ」
「上等だ…外に出やがれ!」
「待った!」
またしても割り込んだポルトは酔っぱらいと向き合い…
「一人で…出ていけーっ!!」
「ウゲッ…」
なんと殴り飛ばしてしまった。
「マジかよ…」
「流石、戦士ですね…」
「あわわわ…」
三人はそのさまを見て呆然としてたが、すぐに気を取り戻して、青年が店の外に出た。
その間に、ポルトは酔っぱらいの財布らしき袋を持ってきて
「これ、あのおじさんのお財布だと思う!」
「ふむ…これならツケを払いきれる。ありがとう」
と、勝手に精算してるのであった。良い子のみんなはマネしないように。
・・・・・
一方、酒場の外では。
「ち、ちくしょ…ゲホッ…」
「さて、外に出たぞ…どうする」
青年が先程の酔っぱらいを見下していた。
だが、酔っぱらいはまだやる気があるらしく、立ち上がったと思いきや…
「このクソガキぃぃ!!」
殴りかかってきた。とっさのことで青年は回避できず
「ぐっ…!」
もろに顔を殴られてしまった。
「は、ははは…大人になめた態度取るからだこのやろう!」
「いったたた…」
思い切り殴られたものの、なんとか立てた青年。しかし酔っぱらいの拳が近づいており…
「…よっと!」
「く…クソ…!」
流石に2発目は受け止めた。そしてそのまま
「らっしゃぁ!」
「うぐっ…!」
酔っぱらいを投げた。地面に叩きつけられ、酔っぱらいがうめく。
「…これで大丈夫か?」
「マブロー!」
「キアノス!そっちはどうなった!?」
「こっちは大丈夫ー!」
「そちらはどうでしょうか?」
「こっちも…あ、縄持ってきてくれ!こいつを縛っとく!」
「それなら自分に任せて!」
・・・・・
その後、縛られた酔っぱらいは町の衛兵に引き渡され、四人は宿に戻った。
厄介事を解決したから飲み物代をまけてくれる…ということは別になく、ちゃんと代金を支払ってきた。ちなみにポルトは追加の宿代も自分で払った。
ということで四人での会議。
「改めて…自分はポルト!斧を使う戦士!」
「ああ、よろしく頼む。それで、夜が明けたら例の砦に行ってみようかと思う」
「ポルトさんがいれば何とかなりそうですね」
「よろしくね!」
「よろし…クンクン…あれ、魔物の臭い?」
「おっと、伝え忘れてた。キアノスは淫魔って魔物だぞ」
「しかし、私達や善良な人に対する敵意は一切無いので仲間となってます」
「分かった!」
ポルトが右手を出す。キアノスも右手を差し出し…
「よろしく!」
「うん!」
固い握手を交わしたのだった。
(続く)