第七回
(第七回)
家人の長い髪の毛が茶碗のご飯に触れる。
いくら頭をあげなさいと注意しても首は垂れさがる。
白いご飯のうえに髪の毛が覆うのである。
訪問リハビリの指導員が言っていた。
「首の筋肉が硬直しています」
首だけではなかった。
腕はまるで細い金棒のように凝固し、ふくらはぎは押さえると同じく延べ棒のように硬かった。
当然介助なしでは立ち上がることも横になることも出来なくなっていた。
夏の終わり、「介護認定」を申請した。
「要支援2ですね」
訪れた市の係員はそう言って帰って行った。
秋風の吹くころ審査結果が届き、書面には「要介護1」とあった。
「要介護」は「要支援」より重大でそのランクも1から5まであった。
早速「要介護1」とはどんな状態を指すのか調べてみることにした。
概ね「日常生活ではほとんど自力で行えるがたまに介助を必要とする程度」と、あった。
どこをどう審査したのか審査の基準に納得がいかなかった。
それよりも…
「脳」の異常。
これは別ものでこれまで指定難病の主な特徴である手足のふるえ、筋肉の硬直以外の症状なのだ。
担当医はそれまで投薬していた一種類の薬の副作用が出たと判断して中止した。
中止して治ればいいが…
しかしその後も、
相変わらず家人は
「ペンギンの赤ちゃんがいる」
とコップに注いだ水を眺めながらつぶやくのだった。