第六回
(第六回)
そうだ。
あの日は今から考えると異常な四日間だったのだ…
梅雨の後半だった。
病気で伏していた母を見舞うため田舎へ帰った。
ところが一泊のつもりが折からの豪雨で交通は全線不通になり予定していた帰宅が三日間も足止めとなってしまったのだ。
一人にされた家人があのときからおかしくなったのだろうか…
そしてその翌日、豪雨の梅雨は明けカンカン照りの夏が訪れることになる。
しかもその夏はこれまでに経験したこともない暑さだった。
あれから家人はおかしくなった。
「脳」が狂った。
幻視が頻繁に起きてきたのである。
コップの水を見ると
「ペンギンの赤ちゃんがいる」
廊下を通ると
「ここにもウンチが落ちている」
シーツカバーを広げると
「汚いものが付いているから洗濯して」
「何も汚れていないよ」と言っても毎日洗濯した。
担当医に告げると、やっとこれまで二年間投薬していた一種類の薬の処方を中止した。
そして付け加えて言った。
「見えないものが見えているのです。決して威嚇してはいけません。黙って聞いてあげてください」
そのときは「そんなものなのかなあ」と思い、言う通りにしようと思った。
ただ変貌した家人が哀れだった。