第四回
(第四回)
最初は奇跡を信じた。
そのうちきっと元通りになると。
突然にしてなったのだからそれはまた知らぬ間に治るはずだと。
医学なんかで解明できない事象が数え切れないほどあるではないかと。
しかし。
恐るべきこの「脳」にその兆しは一向に見られず、もうすべてが最近では投げやりで家人に対してもぶっきらぼうで時には怒鳴りつける始末だ。
六か月間、朝昼晩、思いもよらなかった三度の食事の用意をしなければならなくなり、洗濯、買い物、ゴミ出し、etc。
これまでの罪滅ぼしかと思い当たることもあり、それにも増して家人がもう笑ってくれないのかと思うと無性に胸が痛んだ。
皮肉なり。
残酷なり。
病魔の原因はすべてこれまでの己にも責任があると思ってしまう。
今朝がたのリハビリに来た指導員が言っていた。
「相方の人も二週間で発狂しました」
発狂するほど面倒が見れなくなってしまう「指定難病」。
しかし。
奇跡は起きて欲しい。
発狂しないで今夜は「肉じゃが」を作るのだ。
「ねえ、私のスマホと財布がないの」と家人が尋ねるのを忘れるくらいに美味しい「肉じゃが」を。
今夜は水は減らせて減らせて500CCで挑戦してみようと思う。