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第五章(1)
〈語りかける思い出〉
四階の階段の片隅で初めて語り合ったね。お前が京都生まれであること、兄弟が四人で上に姉さんが二人いること、下は弟であること。後で知ったことだけど実際は兄弟は六人、そして京都生まれではなく山陰の倉吉生まれであったこと。何でもそうだけど最初の出会いはいい加減に言うもの。決してお前を責めてるんじゃないよ。でもその日は溌剌としていて最初、五階で仲間の病室を訪れたときとは違っていたよ。四階の私の病室へ可愛いい人形を持って来てくれたときはびっくりした。そして二十歳になったばかりということと看護学生であること、近く国家試験を受けて合格しなければ正式な看護師になれないことが分かったんだ。
三月になり私はリハビリのため本院から白浜の診療所へ移り、毎朝海岸まで松葉杖を引いて散歩した。まばゆい春の陽ざしを浴びながらのどかな日々を過ごした。既に合格を決めていたお前からもよく診療所に電話をかけてくれてたね。正直言って入社してまだ一年と数カ月しかたっていなかった私にとって電話口に出て話すときその診療所の職員たちの鋭い視線を一斉に受けていて少し緊張した。その診療所もいわば同じ会社の施設だったのでみんな勿論十年以上の職員たちなのだから。




