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第二章(1)
(第十八回)
風が新緑の隙間から容赦なく吹きすさぶ。
緑が飛ぶ。
遠い青さがまばゆい。
この道は誰も通らない。
ゆっくりと歩を進めていきながら、
これからのことを考える。
考えても考えても、
どうしてもわからないことがある。
常にその壁は立ち塞がっているのだ。
「生」とは何のためにあるのか。
「死」が訪れるのをただ待てというのだろうか。
家人は一言も「死」を語らない。
「死」の悲しさも知らない。
やがて訪れる「最期」も恐らくは認識しないだろう。
ただ、知らず、知ろうともせず
よろける足元に下がった首を少しも気にかけず、それが自分自身の
現世での
現身と…
嘆きもせず、
苦しいとも、
弱音を吐くことも…
すべての記憶をあの透き通った青空のかなたに葬り去るように
ただ、それが家人の「人生」であったかのように微笑んでいる。
やがて特別養護老人ホーム「I」の建物が見えてきた。
k病院を退院してからやがて二週間になろうとしていた。