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第十六回
(第十六回)
k病院の前に広場があって
ベンチに腰掛け、都会のネオンを眺める。
入院時にはこれから始まる期待に胸ときめかせ
「光」は家人の笑顔と重なっていた。
シンチ検査が終わり、長かった三週間も終わった。
いつも眺めたネオンは今や「絶望」のモノトーン色に覆われ
いくら奇跡の色合いを探っても、
めぐりくる結論は「闇」の色に包まれる。
やがて訪れようとしていた春。
その光のなかを通ってきたこの広場とも決別の日も近い。
自然は定期的に訪れるのに、
家人のあの肉体はもう二度と目の前に還ってこないのか。
「脳に悪さする異常なたんぱく質が…」
「残念ながらその広がりを見守るのみで…」
主治医の声が繰り返される。
家人は必ず
「おいしい」
と言って毎回持参した果物やパンやおかきを子供のように貪って食べた。
反省する。
これまで家人の作った数々の料理に対して
「おいしい」
と言ったことがあったろうか。
この一言だけがせめてもの「救い」だった。
「絶望」というネオンと違った「光」だったともいえる。