第十五回
(第十五回)
シンチ検査の「画像」を主治医は「この隙間が原因です」と言った。
「明らかにこの空間が正常な脳に比べて開きすぎています」
と、得意そうに説明した。
「人間は誰でも齢を取ると委縮し、また隙間も広がってきます」
「ですから平均的に高齢者になればなるほど認知機能が衰えてくるのです」
…
…
なぜ隙間が広がっていくのか、その原因については述べない。
異質なたんぱく質が「脳」を侵すため、としか解明できない。
極論として「手当のできないものは治療ができない」
つまり赤ひげの「治る病気は治る。治らない病気は治らない。医者の知ったことではない」
である。
頼ったのが間違いなのである。
「光」を信じたのが幻だったのである。
余命何年なのか。
「文献」どおりに症状が進むと…あと二年。
もう頼るものはない。
幻視、妄想、幻覚。
支離滅裂な会話…
一緒に居てこれで正常でいられるはずがない。
かといって隔離するにはあまりにも家人が可哀そうになる。
K病院での三週間にわたる検査入院が間もなく終了する。
その間一人で生活をしてみて初めて家人の存在の大きかったことを知る。
狂人でもいい。
二年は早すぎる。
もっと時間をと言いたい。
昔、友人が「癌」の宣告を受けたとき、
「神様、どうかもう少し生きさせてください」
と泣き叫んだという。
今、自分が同じ心境に置かれるとは思ってもみなかった。
家人の症状は教科書どおりに進行し、入院期間中に二度も転倒し、
最初の転倒では左の眼の上を二センチ切った。
まるでお岩さんのような顔面を上げて、
今日も
「おいしい」
と持って行ったアンパンを食べた。