第十四回
(第十四回)
「死」というものを真正面から向き合うこと意識する。
家人が「いなくなる」世界はこれまで想像してこなかった。
たった今それが「夢物語」に過ぎないことを思うと寂しさで張り裂けそうになる。
K病院に賭けた「光」は幻に終わった。
愚かだった素人考えは最初から証明できる。
「文献」の世界に生きる現代医学になぜ「光」が見いだせよう。
宇宙には目に見えない時間が最初から予定されているのだ。
数々の歴史がそれを証明している。
一昔前までは「結核」は不治の病だった。
時空百年を経て現代では「結核」は治る時代を迎えた。
家人の「脳」を侵した病も時空の経過を待たなければならず、それが「指定難病」と
言われなくなるころ自分はもうこの世にはいないであろう。
宇宙の「予定された筋書きとは」そんなものなのだろう。
「天」のみぞ知る。
最初に入院した担当医、セカンドオピニオン、そして今回「脳」の画像だけを撮ったk
病院の主治医、いずれも過去のデータの集積で作り上げられた「文献」を頑なに守り通す姿勢を
固持した。
それが現代における医学界の実態なのだ。
真理は時空にあり。
「文献」なんかにあるわけはない。
血の出るほど大声をあげて叫びたい。
知らぬ間に家人は個室に移されており、足にはひもがついており、ひもに鈴がつけられていた。
そして先端をたどってみると部屋のドアの取っ手に括り付けてあった。
その惨めさに思わず絶句する。
「今日はお前の好きなりんごを買ってきたよ」
と言うと首を戻すことができず下を向いたまま、
「ありがとう」と言い「おいしい」と言って食べた。
ただ一度も顔を上げることなく。
その腕と腿は骨だけのようにやせ細っていた。