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第十二回
(第十二回)
映画「赤ひげ」の中に出てくるセリフが何度も頭をよぎる。
「治る病気は治る。治らない病気は治らない。医者の知ったことではない」
さらに、
「そうすると何ですかね。名医もそこらのやぶ医者も関係ない。高価な薬もそこらの売薬も関係ないっていうことですかね」
…
K病院は違う。
そこらのクリニックとは違う。
「光」がある。
確信がある。
でも…
昨日は病院から電話があり、
「患者様が夜奇声を上げられ部屋の周りを歩かれるので個室に移動しました。現在は点滴で治療中です」とのことだった。
入院当日の夜の出来事だ。
就寝前、洗ったハンカチにアイロンをかけながら
よく家人がハンカチにアイロンをかけていた姿が浮かんだ。
今はこうして自分がかけているのだと思うと涙があふれてきた。
「菜の花」の絵は完成した。
明日は家人が移されたという「個室」にこれを持って行くのだ。
バロック音楽の音色は静かに真夜中のリビングに鳴り続けた。