魔女
彼女は焔の中で踊り、血の中で踊る。
ジュリアーヌは男の睾丸を踏み潰す。絶叫。ジュリアーヌは女の眼を抉り取る。嗚咽。ジュリアーヌは男の皮を剥ぐ。悲鳴。ジュリアーヌは女の腸をゆっくりと引きずり出す。慟哭。ジュリアーヌは子供の頭蓋を砕く。軽快な音。ジュリアーヌは老人の舌を切り取る。滂沱とした血により窒息するコミカルな音。ジュリアーヌの周りには死体しかない。血と肉しかない。肘まで血に染めた彼女は両腕を広げ華麗に踊る。「ここがアタシの舞台」と魔女は高らかに宣言し「アタシはここで舞踏をするの」と不気味に嗤う。焔が舐める。すべてを舐める。生きとし生けるものすべてを呑み込み、苦痛と絶望で世界を焦土にかえる。「アタシは魔女」ジュリアーヌは焔の中で踊り、血の中で踊る。「アタシは獣」ジュリアーヌは異形の杖を振り回す。熟練の踊り子のように杖が踊り出す。「そう、獣」歯を剥き出し、魔女は絶叫するように嗤う。あらゆるものを殺し、鏖し、戮す。彼女の二十歳の誕生祭に集まった人々は彼女へのプレゼント。生け贄といってもいい。極大魔法。死体、死骸、遺骸。黒い焔が魔女を包む。燃え盛るその姿はおそろしい。まるで夜叉。まるで羅刹。まるで獣。
魔女は人を棄てた。
人を棄て何になったのだろう?
少なくとも彼女は踊る。
そして獣とは踊るものだ。血に酔って踊るものだ。踊らない獣は獣ではない。
ジュリアーヌは今日も踊る。焔の中で踊り血の中で踊る。
魔女に後悔などあり得ない。
なぜなら彼女に過去などないから。