human rights!!
こんにつわ! ワセリン太郎です!
※現在進行形で連載中の、お下劣ウンコ小説【ビニール傘と金属バット ~レアさん、やりすぎですよ~】(N2931DD)の続編です。
https://ncode.syosetu.com/n2931dd/
本作(続編)では、登場人物、世界観等についての基本的な説明を省略して描いておりますので、お時間がございましたら、お手数ですが前作からお読み頂けると幸いでございます。ちなみに本作からお読みになられると、多分、全く意味がわかりません!!
「ああ、空が青くて高い……」
休日の午前中。そう、折角の貴重な休日の午前中、ロッタ姐さんから緊急かつ重要な呼び出し、要は強制連行されたアタシは……何故だか河川敷の浅瀬で膝まで水に浸かり、訳のわからない水遊びをさせられていた。
ケタケタと笑いながら水を蹴り、こちらへと飛沫を飛ばしてくる鶴千代。
「エリカや! 水遊びは楽しいのう、こんな事をしたのは一体何十年ぶりであろうか! この様な場所ではしゃぐのも、まさに女子高生の特権と言えような!」
もうホントホント! これがもし夏のビーチとか、最新の施設の綺麗なプールとかならねっ!
顔に掛かった川の水が……舞い上がった川底の泥で微妙に生臭い。あと、足元が水底のコケで滑っておぼつかない。しかも足の指に至っては、小学校の体験学習でさせて貰った“田植え”の感触だ。泥が便所スリッパの中へニュルリと入り込み、何かこう、ネチョネチョする。
それより鶴千代、水遊びは“何年ぶり”の間違いでしょ? 何十年ぶりってアンタ……
げっそりして溜息を漏らしつつ、水面に揺れる己の格好をジッと見つめた。
……とてつもなくダサい。
こんな格好、学校の知り合いにでも見られたらどうしよう?
膝まくりした師匠のお古の緑ジャージに、令和も二十年代に突入しようかというこのご時世、農家の人でも使わないようなデザインをした年代物の麦わら帽子。あと、借り物のTシャツの胸元には……“宇宙がヤバイ”の謎プリント。
緑のジャージに至っては古すぎて、白い……というか“当時”は白かったであろう、カピカピに変色してヒビ割れた“白っぽいライン”がパリパリと剥がれはじめており、ああ、何かこれ、よくわかんないけど、すっごく平成の香りがする……てか師匠のズボン、何で片方だけでっかい安全ピンが付いているのだろう? 彼女は何故かいつも、片脚だけ膝までジャージを捲り上げて留めている。
そう言えば師匠っていったい何歳なんだ? 見た目はアタシ達とそう極端に変わらない様な気もするんだけど……
本業は女子大生なんだろうか? いやでも、この人が学校に通っているのを全く見たことがないし、講義を受けている姿は想像も出来ない。そもそも知り合う前は、公園のジャングルジムの上から逆さまにぶら下がっていたり、鉄棒の上で逆立ちしているのをよく見かけていたし。うーん、どうも働いている様子もないし、本当に謎だ。
そう考えていたアタシに、河原の方から激が飛んだ。
「おいエリカ! おまえ遊んでないで、ちゃんと“探せ”よなっ!」
“はんしんタイガース”と太めのマジックで手書きされた、微妙なプラスチックメガホンを持ち、空いた片手をブンブンと降って大声を上げる師匠。
アタシは呆れた様に、そちら側へと視線を移す。
「ねえ鶴千代」
「ん? なんじゃ?」
きゃっきゃと騒ぎながら、小魚を追っていた鶴千代がこちらを振り向いた。てかこの子、よくこんなコケだらけの川で転ばないわよね。アタシなんてもう、二度も尻餅ついたってのに……
とまあ、それは置いといて。
「あのさ。師匠とロッタ姉さんが『探せ』って言うけどさ」
「うむ! ミストとロッタはそう言っておるの!」
あまり期待はせずにアタシは問う。
「アタシ達は一体、“何”を探してるわけ??」
腕を組み、暫く考える様子の鶴千代。それから……
「うむ、ウチらは“何を探しとる”のじゃろうな? よう知らぬ!」
やっぱりか。まあ、あまり返答に期待はしていなかったのだけれど。
具体的に何を無くしたのか聞いても教えて貰えないし、せめてその“探し物”が何色だとか、このぐらいの大きさだとか……ふつー言うよね?
そう思いながら……河川敷にビーチパラソルをおっ立て、ビール缶を片手にアウトドアチェアへと座り込んだロッタ姐さんを見る。
目立つ蒼い髪でサングラスを掛け、アロハシャツに短パンで昼間っからビールを煽る姿は……まるでチンピラだ。そういやあの人の髪も……あれって地毛なんだよなぁ。染めてなくて綺麗な色だから違和感がないけど。待って、地毛で蒼い髪って……あれっ?
あっ、何か姐さんが双眼鏡でこっちを見てない??
こちらもジッと見ていると……何やら彼女はジェスチャーをし始めた。なになに……?
「えっと……『はよ』、『しろ』、『ころ』、『すぞ』……」
うっげぇ……大体“何”を探せって言うのよ? 何度聞いても『いいから探す』しか言わないし。
今朝、師匠の道場に呼び出されてジャージに着替えさせられ、そのまま河川敷へと連行された挙げ句突然、『……ん。エリカ、ちょっとその辺に“落とし物”をしたから今すぐ探して。はりあっぷ。あくしろよ』などと言われて、今に至る。
ちなみに鶴千代は、『ウチも水遊びをしようかの!』などと言って賑やかしに川へ入って来ただけだ。つまり先程からアタシに水をブッ掛けて楽しんでいるだけで、特に何かを一緒に探してくれているわけではない。
ジリジリと肌を焼く太陽を見上げ、滴る汗を首に掛かったタオルで拭く。ああ、日焼けしそうで嫌だなぁ……アタシは母の影響で白人系だし、焼けると健康的な肌……というより赤くなっちゃうんだよ。
そうして訳もわからずに川底を覗いていると、ジャブジャブと流れをかきわけ、メガホンを持った師匠がこちらに近付いて来た。
「あの、師匠。アタシは一体、何を探せばいいんですか? そろそろ教えてくれても……」
彼女はその問いには答えず、ジッと周囲の水面へと視線を這わせている……ってか鶴千代、後ろから首筋に水掛けてくんな。
ボソリと呟く師匠。
「うーん。やっぱロッタが言う通り、“夜”じゃないとダメなんかもなー」
は……? 夜?? 凄く嫌な予感がする。
「ちょっと師匠! アタシ絶対に嫌ですよ!? 夜中にこんなアブナイ場所で水遊びさせられるとか!!」
「何で? ただ暗くなるだけじゃん」
アンタの感性が全く理解出来ない。
「嫌やわ! 夜中の川中とか不気味じゃわ!」
「そっかー?」
「ぜったい無理!!」
そう騒いでいると……誰かが河原の方で大きく手を振っているのが視界の隅に入った。ふと気になり、そちらへ顔を向けてみる。
あ、あれはフリストさん! ようやく常識のある大人の登場だ、もしかしたらこれで助かるかも知れない。
手を振り返し、彼女が“戻っておいで”とするのを見て安心する。誰かの許可も無しに河原へ戻ると、そこに待っているのは恐ろしいロッタ姐さんだし。
ジャブジャブと川の流れに逆らい、転ばないように河原へと近付く。新しいタオルを用意し、こちらを気の毒そうに覗き込むフリストさん。彼女は川から這い上がるアタシへと、優しく手を差し伸べてきた。
「エリカちゃん、本当にごめんね……? またロッタやミストさんから無茶な事を言われたんでしょう?」
グラサンを額に押し上げ、新しい缶ビールをプシュッとやったロッタ姐さんが……不満気に呟いた。
「うーん、やっぱりエリカじゃダメか。“エサ”にもならない……っと」
んっ……? 今この人、何て言ったの??
「え? 姐さん、今、何て?」
「……ん。エリカじゃ“エサ”にならないって言った」
エ……? サ……?
「エサ……? エサってあの餌? 魚釣りとかする時に使う……“餌”??」
ロッタ姐さんはチラリとこちらを一瞥し、鼻で笑う。
「……ん。エリカじゃ“撒き餌”にもならなかったか」
おい! アンタ何をする気だった──!?
「ちょっと待てえぇぇぇ! よくも捜し物とか騙したなぁ!? アタシを“生き餌”にして、一体“何を釣ろう”としてたあぁぁあ!?」
「……ひみつ」
これアレだ! 絶対にアブナイ“何か”だ!
憤慨するアタシを『本当にごめんね?』となだめるフリストさんが、ロッタ姐さんへの苦情を代弁してくれる。
「もうロッタ! もし本当に危ない事が起きたらどうするんですか! そもそも今回の件は、敵が“一体何なのか”すら解っていないんですよ? それをエリカちゃんをルアーか何かの代わりに使うなんて……」
ちょうっと待て! それって何なの!? もしかして本気で危ない、凶暴な大型生物か何かなんじゃないの!?
「まったく。もしエリカちゃんが、水中に引きずり込まれでもしたらどうするんですか……」
こ、この川、人間を引きずり込むほどヤバイ何かがいるの……?
「……ん。大丈夫、つるっちがマナで編んだテグスをエリカの腰に結んであるから。流石にテグスも無しに、ルアーだけ投げ込む様なバカはしない。それじゃフィッシングにならない」
そっかぁ……でもどちらにしろアタシ、その“恐ろしい何か”に間違いなく“喰われる”よねっ?
「姐さん、っざけんなぁあ! 抗議するっ!!」
いつの間にか川から上がって来た鶴千代が、こちらを見て笑いながら言った。
「どれエリカや、此方へ来るがよい。ウチが命綱を外してやるでの!」
何だ、命綱? 一体何なの? い、命綱ってナニ!? 誰か教えて──!?
半分パニックを起こして言われるままに近付くと、鶴千代はアタシの腰へと手を伸ばし、いつの間に結びつけていたんだろう? 漆黒の細いテグス……というより髪の毛に見える、とにかくその異様に長い髪の毛の様な糸をスルリと外し、ニカッと笑った。
「うむ、これでもう良い。外れた」
「そ、そう……?」
本当に結びつけられていた、糸の様な何か。
この状況を落ち着いて考えると……やはり一つの“結論”に達する。こ、この連中……
「ア、アンタら! こ、この川に一体“何が居る”のかは知らないけれど、アタシを使って本当に“釣り”をしてやがったなあぁぁぁあ──1?」
憤るアタシ。いや、これは怒っていいはず! 人権侵害だっ!!
双眼鏡を覗き込んで水面を観察しながら、ゲラゲラと大声でと笑う師匠。
彼女はそれから、先程川の中で呟いたのと同じような言葉を……今度はロッタ姐さん達に向けてハッキリと伝えたのだ。
「あのさロッタ、フリスト。やっぱこれってさ、“夜中”に“男”を餌にして“フィッシング”しないとダメなんじゃね?」
ちょっと、まだやる気なの……?
師匠の言葉に頷く、ロッタ姐さんとフリストさん。
「……ん。やっぱりそうかも。仕方ない、釣り場と時間帯と“餌”を変える」
「おっけー」
だが、フリストさんが首を横に振った。
「でも……やはりこんな“危険な事”は一般の男性には頼めません。下手をすると昏睡状態になって意識が戻らなくなるんですよ?」
そっかぁ……えっ!? 昏睡して意識不明!? そんなんアタシ聞いてない!!
だが、それを聞いた師匠とロッタ姐さんが、鶴千代と三人で顔を見合わせてニヤリと笑ったのだ。
「何言ってんのさフリスト。ちょーどいいのがいるじゃん?」
「……ん。確かに“彼”が適役。私も推薦する」
「そうじゃの! こういう事であれば……“ヤツ”なら間違いないじゃろうな!」
皆の顔を見回して溜息を吐いたフリストさん。彼女も半ば諦めた様に……『あの方……ですね?』と呟いたのだった。
この十数時間後、アタシは“初めて見る恐ろしい光景”を目撃する事となってしまったのだ。