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奇妙な事件

こんにつわ! ワセリン太郎です!

もうすぐガリガリ君の美味しい季節がやって来ますね!


※現在進行形で連載中の、お下劣ウンコ小説【ビニール傘と金属バット ~レアさん、やりすぎですよ~】(N2931DD)の続編です。

https://ncode.syosetu.com/n2931dd/


 本作(続編)では、登場人物、世界観等についての基本的な説明を省略して描いておりますので、お時間がございましたら、お手数ですが前作からお読み頂けると幸いでございます。ちなみに本作からお読みになられると、多分、全く、間違いなく意味がわかりません!!

「ほれエリカ! 木刀でも当たるとまあまあ(・・・・)痛てーし! ちゃんと盾でガードしろよなっ。ほれ、いっちに! いっちに!」


 笑いながら得物を振り回す、緑のジャージ師匠(ししょー)


──ガコン、ガコン! バッキャーン!!


「ぎゃあああああああ──!? 死ぬ! 死ぬ、まじ死ぬから!?」


「ほれ、逃げてばっかじゃ修行になんねーぞ! ちゃんと盾でガードして受け流せよなっ! だいじょーぶ! 木刀ぐれーじゃ当たっても人間死なねーって!」


「いやいやいやいや! 死ぬに決まってんでしょ!?」


「へへへ、オマエどんだけヤワな身体してんだよ、豆腐かよ! だいたい木刀ってのはさ、刃が無くて安全だし、アタマぶん殴っても相手が死なねーように、半分は優しさで出来てんの! ほれ、次いくぞ──!!」


 当たれば間違いなく死ぬ。


 ブンッ──!!


「た、助けて──!?」


「ほら、当たると死ぬぞー?」


──ガキインッ!!


 飛んできた木刀を必死に盾でブロックしつつ、大声で抗議する金髪女子高生。


師匠(ししょー)、さっき“死なない”って言ってたじゃん!?」


「アタシ、んな事言ったっけ??」


「言いました!!」


「エリカお前、ほんとカーチャンに似てきたよな-。マジでギャーギャーうっせ」


──ブウンッ! ガキンッ!!


「そりゃ命掛かってるから騒ぎますわ!!」


「喋ってると舌噛むぞー。ほれっ!!」


「ぎゃあ!?」


 そうしてエリカが、ミストの振り回す木刀から必死に逃げ回っている頃……




 そこは神丘市内の海沿いにほど近い居合道道場、“興門館”。


 しんと静まるその静寂の中、燃えるような(あか)い瞳をそっと瞑り、白銀の長髪を微動だに揺らさぬ少女が……すっと左手の親指で腰の得物の鯉口を切り、ゆっくりと呼吸を整え……


──“一閃”──


 空を切った白刃は再び音も無く、ゆっくりその白鞘へと納められた。とても年頃の女性のものとは思えぬ膂力。それに加えて少女のもつ繊細な技術が、それを“一流の技”へと昇華させる。しかし……


「……ダメだわ」


 一人、己の太刀筋に不満を漏らす彼女。


(集中できていない)


 そう思い、道場の隅に置いてある自分の鞄の上を見る。そこには……


 “うまい棒、チーズ明太味”と書かれた駄菓子の空き袋。


……そう。


 それは忘れもしない、昨日商店街で出くわした“仇敵一味の女(ヴァルキリー)”にネジ込まれた“屈辱”。


(あの時の私は……背後を取られた事にすら気付けなかった。それにあんなジャージのチビ女が一瞬、ああも大きく見えてしまうなんて)


 その際、彼女は畏れを抱き、その場から本能的に飛び退いたのだ。溜息を吐きかけ、ハッと息を呑む。


(いけない……)


 丹田に意識を落とし込んで深呼吸し、浮わついた重心を落ち着ける。それから頭を空っぽにして……そっと刀の柄に手を添えた。


──再び一閃──


(やはりダメ……)


 その時、彼女の背後から声が掛かった。


亜里砂(アリサ)、心に乱れを生じているな。何があった?」


 振り返り、ゆっくりと“父”の顔を見る。


「昨日、商店街で……天界(ヴァルハラ)の者と出くわしました」


「ほう。そうか」


 彼女は紅の瞳をそっと閉じ、悔しそうに続ける。


「私と年端の変わらぬ天界の者らしき女生徒を見つけ、力試しにと少しからかった(・・・・・)のですが……」


 彼女の父は、興味深そうに頷いた。


「その女生徒自体の力量はどうという事もなく、相手にするまでもありませんでした。あれは多分、自身の出自さえよく理解していないのではないかと思います」


「ふむ、それで?」


「ですがその直後、突然別の小柄な女に背後を取られたのです。その時私は背筋が凍る様な恐怖を覚え、その場から逃げ出しました。よもやあの様な“ふざけた相手”に……」


 亜里砂(アリサ)はそういって唇を噛みしめる。


 だがパンツのお尻に“うまい棒の袋”をねじ込まれ、暫くそれに気づけなかった事は口にしない。流石にプライドが許さないのだ。


 怒り、悔しさ、不甲斐なさ。様々に渦巻く感情を堪えて目を伏せる娘。それを見た父は……歩み寄り、彼女の肩にそっと手を置く。


「亜里砂よ、お前はまだ若い。今はまだ修行を詰んで力を蓄え、何時の日か我らと共に“奴等”を根絶やしにしてやれば良いのだ。その日はそう遠くない。十八年前、街を支配していた我が一族の栄光に陰りを落とし、無茶苦茶にしてくれたあの“天界人共”を駆逐し、再び実権を我らの物とする」


「……はい、父様」


 先程まで父が触れていた肩を、ポンポンと手で払いながら頷く亜里砂。


 父は、道場の窓から遠く覗く空を見つめながら想う。娘よ、最近母に、“私の洗濯物、父様のと一緒に洗わないで”とか言い出したらしいな……父さん、悲しいぞ、と。


 彼は、目尻に薄っすらと浮かんだ輝くものを人知れず拭って振り返り、諭す様に娘へと言い聞かせる。


「なに、“人間”とは違い……我らには悠久の時がある」


 そうして父の言葉に再び頷いた亜里砂は……意識を集中し、静かに腰の刀へと手を添えたのだった。




 午後十一時四十五分。



 河川敷の公園には複数のパトライトが音も無く回転し、現場は慌ただしい様相を呈していた。


 しゃがみ込んで被害者の容態を確認し、眉をひそめるフリスト。彼女は隣でクッチャクッチャとガムを噛みながら見下ろすロッタへと、アイコンタクトで何かを伝えた。


「……ん。私もいい加減に何かおかしいと思う。今回も多分、前回、前々回のホトケさんと同じ。消防が来て病院に搬送しても、恐らく意識は戻らない」


「ええ。しかも今月に入って三件目ですよ? 先月は……二件でしたっけ? あとロッタ、この方亡くなってませんから。勝手に殺さないで下さい」


「……ん。これで被害者の合計は五名、別の視点から疑いを持つべき。もしかしたら科学的な捜査じゃダメかも。こないだのも刑事課に聞いたけど、やっぱり証拠……どころか、現場から何の痕跡も出てこないって」


「そうですね……」


 二人がそうしていると、刑事課の面々がロープをくぐって足早に近付いてくる。彼女達を視認し、新米の刑事が大きく息を呑んだ。


「うげ、暴力婦警(ロッタ)がいるよ……あっ、フリストさんこんばんは! 今日もお綺麗っすね!」


 ギロリ。彼を睨むロッタ。


「……ん。アンタもそこの被害者と仲良く“意識不明”になりたいの?」


「おま、半分本気だろ……」


「躊躇する理由がない」


 背後から、ベテランの刑事が声を掛けてくる。


「おうロッタ、新人潰すなよ? これ、お前らが現場に急行したのか? それで第一発見者はどの人だ?」


「ん……。通報あった時に私達が近くにいたからすぐに来た。発見者は今、パトカーの中で聴取してる」


 こんな深夜に婦警二人が現場近くに居た理由は……ロッタの一存で巡回と偽り、二人して近くのラーメン屋で熱々の麺をすすっていたからに他ならない。


「救急車は呼んだか?」


「さっき呼んだ。もう来ると思う」


「そうか、だがこりゃ気の毒に。消防じゃねぇから余計な事は言えねえが、俺の素人目に見た感じ……いつもの如く持病等の疾患、及び外傷なし、それで意識のみが戻らない……ってヤツか? 一体何なんだろうな? この一連の事件は」


「……ん。根拠もナシに、刑事が“事件”って断定して言うの良くないかも」


「んな事言ったってよオメー。毎回こうやって同じ様な現場を見せられちゃあな」


 そう言ったベテラン刑事は、『ちょいと失礼』。そう言って倒れた男性の腰に掛けてあるバスタオルを少しだけはぐって中を見る。


「ほれ、やっぱ同じじゃねえか。今回も被害者はズボンとパンツを膝まで降ろされ、河原で横倒しになって白目を剥いていた……と」


 隣に立つ若い刑事も、首を傾げた。


「連続昏睡事件か。まさかこんな田舎で謎の多い事件が起こるとか……そういや毎回ズボン降ろされてますよね? 暴行目的……なんかな? しかしそういった証拠は出てないっスからね。あ、でも“そういう目的”でオッサンを襲う奴なんて……流石にいないか」


 ベテランの刑事が煙草に火を付け、彼を鼻で笑う。


「わっかんねーぞ? 世の中、色んな趣味持ったヤツがいるからな」


「うげ、やめてくださいよ……」


「……ん。アンタも尻に警棒ブッ刺されないように気をつけな」


「この暴力女……」


 フリストは不安気に、投光器で照らし出された周囲を見回す。


「何故、事件はいつも河原付近に集中して起きるのでしょう? 確か、もう少し下流の堤防でもありましたよね?」


 頷くロッタ。


「……ん。被害者は深夜ランナー、もしくは釣り人ばかり。一人は白子密漁のチンピラだったけど」


 そうこうしていると救急車が到着し、消防隊員達が被害者男性の健康状態をチェックし始めた。それを横目で見つつ、ベテラン刑事がボソリと言う。


「この件、最近じゃ一般にもウワサのレベルでハナシが広がりつつあるからな」


 頷くフリスト。


「そのうちメディアも嗅ぎ付けて騒ぎ出すでしょうね……」


「いったい鑑識は何やってんスかね?」


 そう言ってしゃがみ、被害者に手を合わせる新米刑事。それを見てギョッとしたフリストが、慌てて彼へと抗議した。


「な、何をされているんですか! 被害者の方は昏睡しているだけで亡くなっていません!」


「あ……すんませんフリストさん、つい。でもいい加減、現場から何か不審な点が出てもいいんじゃないっスかねぇ」


 溜息を吐くベテラン。


「それがよ、鑑識もやっきになって調べてるみてぇなんだが……結局、どの現場からも全く何も出ねぇんだとよ。こんなぬかるみ(・・・・)だ、せめて足跡か何かありそうなもんだがな」


 彼の言葉を聞き、ロッタとフリストが顔を見合わせる。


(ロッタ、全く痕跡が出ないというのが逆におかしくないですか?)


(……ん。もしかして何かの“魔法”とか?)


(いえ、それなら私達が残滓を見逃す筈は無いでしょう?)


(でもこのままだと、間違いなく捜査は進まないと思う)


(そうですね、何とか私達で調べてみましょうか……)


(……ん。そのつもり。面白そうだし。それに、どうせそろそろ署長(ババア)から私達に特命おりる)


 こうして神丘市河川敷における、連続昏睡事件の調査が始まったのである。

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