知性の片鱗
こんにつわ! ワセリン太郎です!
※現在進行形で連載中の、お下劣ウンコ小説【ビニール傘と金属バット ~レアさん、やりすぎですよ~】(N2931DD)の続編です。
https://ncode.syosetu.com/n2931dd/
本作(続編)では、登場人物、世界観等についての基本的な説明を省略して描いておりますので、お時間がございましたら、お手数ですが前作からお読み頂けると幸いでございます。ちなみに本作からお読みになられると、多分、全く意味がわかりません!!
月曜日の午後、アタシは憧れのアイリさんの書店に立ち寄って暫く談笑した後、特に何をするでもなく商店街のアーケードの中をぶらついていた。
すれ違いざまに『おいエリカ! オメー学校は? まさか不登校になったんじゃねぇだろうな?』だとか、『あらエリカちゃん、授業サボってお買い物?』などと疑いの声を掛けてくる顔見知りのガサツなオジサン、オバサン達が非常にうっとおしい。んな事してないっつーの。
つーかアンタら、いい大人なんだしカレンダーぐらいしっかり見て下さいよ! そもそも今日は“祝日”だっつーの! 大体サボリとか、アタシがそんな不良学生みたいな大それたマネが出来るハズもない。
もし本当にそんな事でもした日には、父親ゆずりの“ノミの心臓”が急激に鼓動を早め、アタシの寿命が削れに削れ……いや、もういいや。
ある意味諦め、ふと通りにあるペットショップのショーケースを覗く。
そういえばここは、ウチの両親が出会った頃に出店したお店だとか……母が言ってたっけ? まあアタシも知る限り、商店街の中ではそこそこ古い部類だと思う。そもそも自分が生まれる前から存在しているので、古いのが当たり前だと言われるとそれまでなのだけれど。
ただ、最近改装されて随分と今風になってしまい、絶妙なレトロ好きのアタシとしては、何だか微妙な気分だ。建物でも何でもそうだけど、昭和時代、平成時代って味があってホント好き。
まあ特に用事がある訳ではないけれど……ちょっと入ってみよう。うん、動物を見て癒やされよう。
そもそも我が家はペット禁止だ。
実は昔、アタシが生まれてすぐ……ってお父さんが言ってたっけ? とまあその頃に犬を飼った事があるらしいのだけど、当時ウチに住み着いて居た“何か”が、その犬を“食べて”しまったらしい。
いや、“飲み込んだ”だっけ? とにかく、その事件で母がショックを受けてトラウマ化し、それ以来我が家ではペットを飼う事をしなくなったとか何とか……てか何なの、その昔住み着いていた、“犬を飲み込む何か”って。訳がわからない。
ふとそういう事を思い出しつつ、アタシはペットショップの自動ドアをくぐる。
そしてショーケースの中から必死に尻尾を振る子犬、子猫に目尻を垂らしてゆっくりと歩き……店舗の一番奥付近まで辿り着いた時だった。
小鳥やオウムなどの鳥カゴが並べてあるコーナー。そこでアタシの目に、意外な人物の背中が飛び込んで来たのだ。
オウムのカゴの前で腕を組んで仁王立ちする、特徴的な緑色のジャージ姿。彼女は先日会った時と同様、何故か片足だけジャージの裾を膝下までまくり上げていた。ああ、嫌な予感がビンビンする。
声を掛けようかどうしようかと迷うが、少し気になる事があるので……いや、あれを少しと言えるだろうか? 多分違う、今アタシの頭の中は“その事”で一杯だ。そう、それは先日この人が口にした厨二病的な内容。
普通に考えると、全てこの変わった女性の妄想……と片付けるのが適切なんだろうけれど、どうも何かが引っかかる。それが具体的にどういう事かと問われると、ハッキリ答える事は出来ないのだけれど。
とにかく! このままモヤモヤしていても仕方が無いし、馬鹿馬鹿しいと笑われてもいい。この人は何かを“知って”いそうではあるワケだし、まずは色々と聞いてみよう。
「あの、もしかして、師匠……ですよね?」
チラリ。
彼女はこちらに気付くが、『あ、エリカか。アタシ今、スゲー大事な事してるし。ちょっとだけ待ってろよな!』と言って、何やら真剣な表情。
そういやこの人、さっきからこんな高そうなオウムのカゴの前で、一体何してんだろ? あれ、このオウム“半額”セールなのか。師匠、もしかしてこのオウムを買うつもり? いやでも……
あっ、ポケットから何か出した。あれは……お菓子??
彼女はそれをオウムに与えつつ、ボソボソとカゴに向かって何かを呟いている。いやいや、ホント何してるの? ダメでしょ、お店の動物に勝手に餌をあげたら。
店員さんに見つかる前に止めようとするアタシに気付き、サッとそれを後ろ手で制するジャージ師匠。
彼女は再びカゴの中のオウムへと小声で何かを囁く。首をゆっくりと傾げ、それに聴き入る立派なオウム。その光景はまるで、種族を越えた意思の疎通をしているかの様な……ある種の幻想的なものにも見えた。
師匠がゆっくりと頭を揺らし、カゴの中のオウムへと何かを語りかける。それに呼応するかの様に、彼もゆっくりと身体を揺らし、その言葉へと耳を傾け……それからしばらく経ち、ゆっくりと鳥カゴから離れる緑のジャージ。
「ん、おっけー。で、どしたんエリカ? アタシに何か用か?」
「え、ええ。実は、昨日師匠が仰ってた事が少し気になりまし……」
アタシがそこまで言いかけた時だった。
「……リガニミテー……ナ、ニ……スンゾ」
「……んっ?」
何だろ? 突然、耳に飛び込んで来る奇妙な声。それは当然、目の前の師匠が発したものではない。うんにゃ、今はそんな事どうだっていい。それより……
「えっと、昨日仰っていたお話を、もう少し詳しくお聞きできたらなぁ……と思いまし……」
「オメー・ノ・ア・ソコ」
……は?
絶対に今のは聞き間違えなんかじゃない。アタシは、その声の発生源……要はオウムの鳥カゴの方へと、ゆっくり視線を移した。
こちらの顔を見上げ、悠然と翼を広げて見せる、立派なオウム。そしてヤツはこちらを向き、はっきりとした口調でアタシにこう言ったのだ。
「オメー・ノ・アソコ……ク・セーヨ」
「……は?」
「オメー・ノ・アソコ・クセーヨ」
時が、止まる。
「オメー・ノ・アソコ・クセーヨ」
理解が追い付かない。
「……えっ」
な、何を……言ってるの?
「オメー・ノ・アソコ・マジデ・クセーヨ!」
突然、興奮して羽をばたつかせ始めるオウム──!?
「オイ! オメー・ノ・アソコ・クセーヨ! オメー・ノ・アソコ・ザリガニ・ミテーナ・ニオイ・ガ・スンヨ──!?」
「は、はあぁぁぁぁあ──!?」
ちょ!? 何なんこのクソオウム!!
「オメー・ノ・アソコ・マジデ・クセーヨ!」
アタシは言葉を失い、ゆっくりと緑のジャージ師匠へと視線を移す。
その彼女は……腕を組み、満足気に『ウンウン』と頷いていた。
「オメー・ノ・トーチャン・チン・ポ・チイサイデスネ! チンポ・チイサイ! チンポ・チイセェヨオォォォォォオ──!?」
えっ……そうなの? いやいや、じゃなくて!
「なっ? トメキチさん、メッチャあたまいいし!」
バカじゃねーの、この人!?
「ちょっと黙ってろ、このクソオウム! てか師匠、アンタ一体、何て事をしてるんすか!?」
「“エリカ”! おまえ、勝手にクソオウムとか失礼な呼び方すんなよな! コイツはアタシの弟子で、“きんぐトメキチさん六世”って立派な名前があるし!」
──何が弟子だ、店の商品に勝手に名前付けてんじゃないよ──!?
アタシはこの瞬間、とっさに理解した。要はこのオウム、いつも遊びに来る師匠から餌付けされた上で卑猥な言葉を教え込まれ……その結果、えらく立派な見てくれとは相反する“半額札”をぶら下げられているのだ。つまり、このお店の店員さん達は、その事を……知った上で、いや、重々承知で客に売りつけようとしている。
「いやいや師匠、それより何より……あの、ダメでしょ、あんな……えっと、その、卑猥な……言葉を教えたら」
クリクリした大きな瞳で、不思議そうにアタシの顔を覗き込む彼女。
「ん? “エリカ”、ヒワイ……って何?」
ああ。と、アタシは悟った。
この女、己の所行を全く理解していない。そうだ、きっとこの件には黒幕がいる。要はこの師匠に対して、まるでオウムに言葉を教え込むが如く、卑猥な単語を教え込んだ犯人がいるのだ。
そしてこの師匠も、『何か単語の響きが面白いから』とかそういった単純な理由で、何も考えずに行動に移してしまう、非常に残念な類いの人なのだろう。
そして起こるべくして起こる、最悪な事態。
「エリカ! エリカ!」
ちょっ!? マズイ!!
「あっ、やめて! アタシの名前覚えんなぁっ!」
しかし、容赦のないクソ鳥。
「エリカ! エリカ! オメー・ノ・アソコ・クセーヨ!!」
「に、臭った事ないけけど臭くないわ! このクソオウムっ! 焼き鳥にしてやる!!」
「エリカ! エリカ! オメー・ノ・アソコ・ザリガニ・ミテーナ・ニオイ・ガ・スンヨ──!?」
まずい! このまま連呼されると本当にコイツに“覚えられて”しまう!
「う、うわああぁああぁああっ!?」
そうして錯乱したアタシは……なりふり構わずペットショップを飛び出したのだった。しねっ、このウンコ鳥っ!!