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崩れゆく、根底

皆さま、あけましておめでとうございます! ワセリン太郎です!



※現在進行形で連載中の、お下劣ウンコ小説【ビニール傘と金属バット ~レアさん、やりすぎですよ~】(N2931DD)の続編です。

https://ncode.syosetu.com/n2931dd/


 本作(続編)では、登場人物、世界観等についての基本的な説明を省略して描いておりますので、お時間がございましたら、お手数ですが前作からお読み頂けると幸いでございます。ちなみに本作からお読みになられると、多分、全く意味がわかりません!!



「だってオマエ、戦乙女(ヴァルキリー)だもん」


 うん? 何だって?


「……? バル……切り? って……なに?」


 よくわからん。が、さも当然といった様子の、緑ジャージ師匠。


「だから戦乙女(ヴァルキリー)だっつってんじゃん。天界の“い・く・さ・お・と・め”! いい加減わかれよなっ!」


……この人何言ってんの?


 『あの、すみません、意味がわからないんですけど』と言いかけたアタシは、ある事に気が付いてしまった。


 ああ、多分この人はアレだ。例の男の子が感染しやすい“厨二病”とかいう、はしか(・・・)やおたふく風邪みたいに、子供が一度は掛かる一過性の病気が……残念ながら完治しなかった系の。いや、きっとそうだ。


 とりあえず、ややこしい感じなので、適当に話を合わせておこう。下手に盾を拾ったりすると、まーた木刀でブン殴られかねないし。


「へ、へぇ~、ソウナンデスカー。シ、シラナカッタナー」


「うん、英梨華(エリカ)オマエさ、これまでフツーの人間として生活してきたからなー」


「へ、へえ~。それはシリマセンデシター」


「だよなっ!」


「そっスね!」


 何だろ、この微妙にアタマが痛い感じは……ああ、早く帰りたい!


 アタシがそう考えていると、ジャージ師匠は道場の壁に貼り付けてある大きな姿見を指差し、奇妙な事を言い出したのだ。


「大体さ、エリカ。オマエ自分の目の色見てみ? フツー地球の人間だったらさ、そんな“真紅(まっか)”な瞳とかありえねーし。天界人だとよくある事だから、別にアタリマエなんだけどな!」


「えっ? いやいや、別に紅の瞳を持った子なんて、その辺にいくらでも……あれっ……?」


 そういや日本人の瞳の色って何だっけ? 黒? ブラウン? あっ、アタシは外国出身である母親ゆずりの紅い瞳だし……外国人なら当たり前にそんな色があっても、別におかしくも何とも……いや、カラコンでもない限り、紅なんて……あれっ、そういやお母さんって何処の国出身なんだっけ? ヒゲのじいちゃんだってそうだ、アタシは何も知らない。いやいや、でもでも……


「でも母も紅い瞳ですし……」


「そりゃ、オマエのかーちゃんだし」


「でも……」


──何を必死に“言い訳”を探しているんだろう──?


 急に不安になり、どんどん心臓の鼓動が早くなっていく。混乱するアタシの様子を察してか、緑の師匠は何も言わずにジッとこちらを見つめてくる。


 へたり込んだ道場の床へ、ポタリ、ポタリと何かが落ちていった。


 ハッと気付くと、それはアタシの額から流れ出る“冷や汗”。認めたくないが、まるで否定できない“何か”が形となり、次から次へと吹き出して来るようだ。


 あっ、そうだ! アイリさん! そういえば商店街で書店を営むアイリさんも、アタシと同じ“紅の瞳”だ! そう、別に瞳が(あか)かろうが何だろうが、それはおかしな事でも何でもない!


「ア、アイリさんが! 商店街の本屋さんのアイリさんって方が、アタシと同じ色の目をしてます! だから別に珍しい事では……」


 ジャージ師匠が、真顔でゆっくりと口を開いた。


「エリカ、落ち着いて聞けよな。実はアイリはさ……地球人と違うし」


……は? ああ、やっぱアレか。


 彼女のトンデモ話を聞いた事で一気に熱が冷め、余裕を取り戻したアタシは……徐々にこみ上げてくる笑いを必死に我慢した。


「いやいや、流石にないですわ。地球人と違うとか、ネタを考えるにしても、もう少しこう捻ったやつをですね……」


 笑うアタシの背後から、別の声がかかる。


「エリカや、落ち着け。そやつの言う事は……まことじゃ」


 ん? 鶴千代か? いつの間に来たんだろ。まあヒゲのじいちゃんに電話して、バイトの話を持ってきたのも彼女だし、後から追いかけて遊びに来たとしてもおかしくはないか。


 振り返ると、腕を組んで道場の壁にもたれかかる長身。なーにが『……まことじゃ』だよ。神妙な顔して雰囲気まで作っちゃって、アホくさい。


「はいはい、それは凄いですね! で、この茶番が一時間で二千円のアルバイトなワケ? アタシさ、ファミレスとかコンビニとか、フツーのやつでいいんだけど!」


 少し気になり、再びジャージ師匠の方へと向き直ると、彼女はクリクリした大きな瞳で鶴千代へと何かアイコンタクトを取っている様子。ははぁ、思った様にアタシが騙されずに困ってるな? てか高校生を騙すなら騙すで……もうちょっとこう、内容を考えないとねぇ。


「つるっち、とりあえずエリカがパニクるとダメだし、今日はここまでにしとこーぜ?」


「うむ。そうじゃ、そうじゃの……」


 ちょっと、何なのよ、この微妙な空気は……


 どうもアタシに気を遣う様子の緑師匠はこう言った。


「エリカ、とりあえずジーチャンに言って、今日の“二千円”つけといて貰うからさ! オマエまた来いよな!」


「は、はぃ……」


 こうしてアタシは奇妙な感情のまま、緑のジャージ師匠が用意していてくれた“パンダの絵柄の出勤カード”へと、就業一時間分のスタンプを押して貰い、鶴千代と家路についたのだった。


 てか何なんだろう、この“ミ”ってスタンプ。

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