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剣はペンより堅し

こんにちは! ワセリン太郎です! 早いもので大晦日ですね!

皆さま、来年もどうぞよろしくお願い申し上げます!



※現在進行形で連載中の、お下劣ウンコ小説【ビニール傘と金属バット ~レアさん、やりすぎですよ~】(N2931DD)の続編です。

https://ncode.syosetu.com/n2931dd/


 本作(続編)では、登場人物、世界観等についての基本的な説明を省略して描いておりますので、お時間がございましたら、お手数ですが前作からお読み頂けると幸いでございます。ちなみに本作からお読みになられると、多分、全く意味がわかりません!!

 日曜日の早朝。アルバイトを希望したアタシは……何だかよく解らない状況に立たされていた。


 目の前には、日本家屋の縁側にあぐらをかいて座る、緑色のジャージを着たちっこいお姉さん。いや、多分アタシと同じ位の背丈だろうか? てか何なの、あの胸元に“地球がヤバイ”ってプリントされたTシャツは……


「こ、こんにちは」


 彼女は頬杖をついたまま、そのクリクリとした大きな瞳で、こちらを値踏みするかの如く無言でジッと見つめてくる。


 あれ、アタシこの人知ってる。


 知人という訳ではないんだけれど、よく公園で暇そうにジャングルジムから脚で逆さまにぶら下がっていたり、子供達と野球やサッカーなんかで遊んでいる姿を度々見かけるのだ。あと確か……記憶が正しければ、サトシさん率いる社会人野球のチームに所属してると聞いた事もある。


「あの、アルバイトをさせて貰えると聞いて来たんですが」


 アタシは困惑しつつ、そう訪ねるが……


 この雰囲気はどう考えても“通常のアルバイト”に思えない。良くわからないが、何かヤバイ。これは早々に退散し、コンビニやファミレス等のありきたりなヤツに切り替えて……などと思案していた時だった。


 突然、緑のお姉さんが口を開いたのだ。


「おっけー」


 え……? 何が“おっけー”なのだろう? 彼女は立ち上がり、アタシに付いてこいと手招きする。雰囲気に気押され、促されるままに廊下を進むと……


「えっ……なにこれ」


 アタシの目の前に広がるのは、どこからどう見ても“道場”。あまり広くはないが、数名で武道なんかの訓練をするには、まあ丁度良い広さなのかも知れない。


 じゃなくて! いやいや、アタシをこんな所に連れてきて一体どうするつもりなんだ??


 道場の入口に立って両手を腰に当て、あんま大きくない胸を自慢気に張って見せる緑のお姉さん。


「あの。もしかして、ここのお掃除がお仕事……とかでしょうか?」


 いや、自分で口にしておいて何だが、多分それはないと思う。

 

 ヒゲのジイちゃんから提示されたアルバイトの時給は……何と二千円。最低賃金とかいう基準があるのはアタシでも知っているし、本来そのラインに近い筈の高校生バイトが通常貰える金額ではない。

 という訳で、多少嫌な予感はしつつも、高額の報酬に釣られてホイホイとやって来たのだけど……


 そう色々と考えるアタシに向かってニヤリと笑い、お姉さんは元気よくこう言った。


「今日からオマエを訓練してやるから、アタシの事は“師匠(ししょー)”って呼べよな!」


 はぁ? 訓練? 師匠? 何言ってんのこの人……


「あの、アタシ、アルバイトをしに来たんですが……」


「うん、だからジーチャンが時給出すって! あんま細かい事は気にすんなよな!」


 いや、なるわ。気になりまくるわ。どこの世の中に“何かの訓練”をしながらお金を貰うアルバイトがありますか。だいたい何で普通の女子高生が謎の訓練をしなきゃいけないんだ? 普通じゃない。よし! 変な人に関わらずに……さっさと帰ろ。


「す、すみません。申し訳ないんですが、アタシ別のバイトを……」


 がしゃん。


 そう言いかけたアタシの足元に、竹刀と丸い木製の……何だこれ? 鍋蓋? とにかく良くわからない物体が放り投げられる。てか、あっぶな! 一体何すんの、この人。


「おっけー。そんじゃキホンからいってみよー! んじゃ英梨華(エリカ)、さっさとソレ拾って構えろよな!」


 ダメだ、人の話を聞いてない。


「いえ、だからアタシは別のアルバイト先を探しに……」


「心配すんなって! ちゃーんとこの“天才師匠”が、イチから“ケンドー”教えてやっからさ!」


 はぁ? ケンドー? 県道? ああ、剣道? いやいやいや、アタシはアルバイトをしに来たってさっきから……いや、この人にはいくら話をしても通じそうにない。


 ちょっと切り口を変えよう。


「あの、剣道って言うと、あの汗臭そうな防具をつけて、竹刀で叩き合うアレですよね?」


 その質問に対し、“オマエ何言ってんの?”といった表情のジャージ師匠。彼女はアタシの足元に転がる丸い木製鍋蓋を指差し、不思議そうに首を傾げた。


「英梨華、おまえ頭ダイジョーブ? ケンドーって言ったら、剣と盾を使って戦うヤツに決まってんじゃん。ジョーシキとして解れよな!」


 どこの国の常識だよ……ダメだ、この人は間違いなく“変人”の類い。しかし場の空気からして、そう簡単に帰してくれそうにもない。まあ何か飽きっぽそうな人だし、少しだけ遊びに付き合ってから逃げるとするか。


 未だに状況は飲み込めないけど、とりあえず一時間あたり二千円の時給は貰えそうだし、竹刀で素振りをしてダイエットしていると考えれば……案外悪くない話なのかも。


「わ、わかりました! とりあえず一時間あたり二千円! “アタシが貰える”これだけは忘れないで下さいね!」


 この人の勘違いで、後から一時間あたり二千円を“請求”されたらたまったものではない。先に言質だけは取っておこう。


「おっけー! 最初からそー言ってるし!」


 あ、何か大丈夫っぽい。よくわからないけど、それでは……


 そう考えつつ、“盾”と呼ばれた木製鍋蓋へと手を伸ばす。あれ、案外重いな。


 裏を返して見てみると、そこには腕を通す為なのか、厚い革の輪っかと鉄の握り手が備え付けられていた。とりあえず、そこへ手を突っ込みグリップを握る。それから利き手の左手で、床に転がったままの竹刀を拾い上げて感触を確かめてみた。


「あれ、この竹刀、少し短いんですね。何か学校の武道場に置いてあるのは、もっと長かった気がするんですけど」


 腕を組み、『うむっ』と頷くジャージ師匠。


「片手用だし、狭い部屋の中とかで襲われたら、長い剣とか邪魔で使いにくいだけだし!」


……何言ってんのこの人。


 百歩譲って、この盾を使う訳のわからないスポーツが剣道だと認めたとしても、それがどう転べば“狭い部屋の中で襲われる”事を想定する事態になるのか意味がわからない。まあいいや、聞くだけ無駄か、面倒くさいしテキトーに話を合わせとこ!


「なるほどですねー。それでアタシはこれから何をすればいいんですか?」


「うーん、まずは防御かな! どーせ何の技術もねーし、先ずはどーぐに慣れて、当て勘養っていこー! よし、そんじゃ今からアタシが木刀でブン殴るからさ、それを全部盾で防いでみて!」


「はーい……」


 そう言って、道場の壁に掛けた長い木刀を取りに行く、ジャージ師匠。


 は? えっ!? ちょっと待って!? この女、今“木刀”とか言わなかった!? 殴る……?


 慌てて竹刀を盾に打ち付けてみる。うん……普通に芯を感じる衝撃。そりゃそうだとも、盾の内側には布製のクッションらしき物も何もないし、叩くと振動が直に響いて来る。てか剣道どころか、生まれてこの方叩き合いのケンカすらした事がないのに、いきなり木刀でブン殴られるとか──!?


「無理無理無理無理! 木刀とか無理!!」


「ダイジョーブだって! アタシはさ、日本で言う幼稚園生ぐらいから木刀で殴り合いの訓練してたし! 英梨華もいけるいける」


 アホか!?


「アンタ何言ってんすか!?」


 この人、何か頭部に重大な欠陥を抱えているのでは……?


「おっけー、んじゃ“一発目”いくぜ!」


 そういうと彼女は、片手で振りかぶった木刀を……アタシの頭上から勢いよく叩きつけてきた──!!


 し、死ぬっ!!



 ガキンッツ──!!


 防いだ右手から感覚が消え、吹き飛ばされた盾が道場の床に転がる。


「痛ったああああああぁ!?」


 も、もしかしたら折れたのかも……


 叫んで右手を庇い、床にうずくまるアタシ。涙をこらえ、必死に目を瞑っていると、頭上からジャージ女の声が降って来た。


「ちゃんと盾を握れよなっ! あと……英梨華、オマエ何で今の攻撃ぐらいで泣いてんの?」


「そ、そんなの痛いからに決まってるじゃない! それに無理! あんなの防いで盾握ったままとか絶対無理!!」


 て、手が……


 折れたかも知れない自分の右手をそっと見る。多分さっきの感じだと、もし折れていなくても、ひどい内出血なんかが……あ、あれ?


「な、痛くねーだろ? 大体あのぐらいで痛いワケねーし!」


 見上げると、そう言ってアタマの上で掌を組むジャージ師匠。落ち着いて自分の身体をチェックしてみるが、確かにどこも怪我をした様子は無かった。


 な、何で??

 

 それより、何故だか竹刀を握っていただけの左手首が“熱い”。


「な、何なのこれ……」


 笑うジャージ女。


「だから英梨華さ、アタシさっきも言ったじゃん? オマエは木刀で殴られたぐらいで死なねーって」


「いや、普通に死ぬでしょ……」


「うんにゃ、死なねー。だってオマエはさ……」


 彼女がこの後に続けた言葉を聞き、アタシは更に困惑する事となった。

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