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それから二人は、示し合わせているわけではないのに校内で出会う機会が増えた。

 学食で出会えば、当然のように一緒に食事をし、登下校の最中に出会えばたわいのない事を話ながら一緒に歩いた。

 中等部と高等部、不思議な取り合わせの二人に、周りの人間は首をかしげたが、当の本人達でさえ、何故こうも接触が多いのかわからなかった。

 付き合ってみれば、匠が自分と正反対な性格である事はすぐに知れた。先ず、言いたい事をいい、人に遠慮などしない。気が向いた事には全力でぶつかっていく。納得のいかない事は絶対にしない。

 二言に目にはめんどくさいと呟き、すべてにおいて適当に手を抜く恭太から見れば、疲れる性格に見えた。

 なのに、何故かウマが合う。

「しいて言えば、偶然なのかな。」

「何が。」

昼食を食べ終わり、ジュースを飲みながら呟く恭太に、匠はうどんを食べる箸を休めず視線をあげて問いかける。

「いや、良く会うよなぁ、と思って。」

「世の中本当の偶然なんてそんなに転がってねぇよ。」

どんぶりを空にして、箸を置くと匠はそんな事を言った。

「じゃぁここで一緒に昼飯喰ってるのも全部必然だって?」

「DNAに組みこまれてるんだってさ。生まれてから死ぬまでの行動。なんかの雑誌に書いてあった。」

「……それ、女口説く特に使った方ががいいと思う。」

憎まれ口を言う恭太に、うるせ、と言い返した時、

「相変わらず仲がいいわねぇ。」

座っている二人の頭上から声が振ってくる。

「なんだ、古居か。」

清美が学食のトレーを持って立っていた。

「やんなっちゃう、混んでて。藤崎、隣空いてるならすわっていい?」

断る理由もなくて、恭太はうなずく。しかし本当は、匠と二人で話していたかった。

「海野先輩、失礼します〜。」

恭太には見せないような笑顔で、清美は女の子らしく笑って椅子に座った。

『あたし、海野先輩ってタイプかも知れない。』

 そんな事を、いつだったか清美は本人を前に言ってのけた。

 その場にいた恭太はこいつはいきなり何を言うのだと焦ったが、匠の方は動揺もせずに

『でも俺古居みたいなタイプって女として扱えないわ』

ときっぱり返していた。

 速攻失恋てどうなのよ、と清美は冗談っぽくぼやいていたが、それでもその後匠を避けるでもなく、恭太と共にいる時などに話しかけている。

 匠の方も時に意識する様子もなく、普通に対応していた。

「お前、良く喰うな。」

コロッケ定食に素うどんがのったトレイの上を見て、匠が呆れ顔の匠。

「あら、だって私部活もあるし結構カロリー必要なんですよね。大会近いし、しっかり食べてしっかり練習しなきゃ。」

けろっとして言い返す清美に、匠はなるほどと頷いた。

「所で先輩、さっきのDNAの話、本当ですか?」

「俺は専門家じゃないし、そんなの知らないよ。雑誌で見ただけ。古居そんなの興味あるの。」

「だってロマンチックじゃないですか。それっていつか出会う恋人も生まれる前から決まっているって事でしょ?」

こういう所は女の子らしく、清美はうっとりした顔をする。

「女ってすぐそういう事言うなぁ……。たとえば明日学校遅刻したりとか、古居が風呂入るときどっちの足から入るとか、そんな事もDNAで決まってるとしたら、全然ロマンチックじゃないんだけど。」

「風呂……って、やだ、先輩……。」

真っ赤になる清美を横目で見ながら、恭太はおもしろくなかった。

清美の事は嫌いじゃないが、彼女が匠との間に入ってくると何か疎外感を感じてしまう。

今もこの会話に割って入りようがない。清美は食事をしている間席を立つ事はないだろうし、ここにいてももう、何か話す事もないような気がした。

「俺、先行きますね。」

他の生徒がいるときは先輩扱い。そのルールに則って敬語でそう言って席を立つ。

昼休みも半分の時間が過ぎたとは言え、ごった返した学食の中。席に座って友達と談笑をしている生徒達を見ると、少し寂しくなるけれど、ここにいたら清美に邪魔だとか言い出しそうだから。

「藤崎?」

いきなりどうしたんだ、と言いたげに呼びかける匠を無視して、その場から足早に立ち去った。



 学食や図書室、職員室などがある棟から中等部へ向かう渡り廊下を、恭太は足早に通り過ぎる。

(なんで俺、こんなにムカムカしてんだろ……)

清美とはずっとそれなりに仲が良かったし、友人を挟んで話を事は、なんて事無いはずなのに。

 自分には見せない「女」の顔で匠に接する姿に、本気で虫酸が走った。

(俺……古居が好きなのか……?)

と考えてみて。恭太は知らず首を振る。考えるだけで背筋が寒い。あり得ない。

「ちょっと待てよ!」

首を振っている恭太を、誰かが呼び止める。振り返ると、匠がいた。寒くなりかけた気持ちがその顔を見るだけで暖まる。

「お前、いきなり勝手に行くなよ。どうしたんだよ一体。」

「え……いや、別に……」

「嘘付けよ。」

「本当になんでもないって……てか古居は?」

いくら何でも食事を一人でさせているのはかわいそうでは、と言いそうになった時。

「あのさぁ!」

匠が声を荒げた。

「言いたい事があるなら言えよ!」

「は?」

「自覚無いわけ? いつもいつも何か言いたそうな顔をして、でもあきらめた表情で、そうやって一人でなんでもないって言ってるけど。言いたい事があるなら言えよ。」

「別に、言いたい事なんて……。」

「嘘付けよ。今だって思い切り不満たらたらな顔してしてるくせに。なんでそんなに自分を押さえてばっかなんだよ。欲しい物があるならあきらめるな! 俺ら子供はもっと我が儘でいいはずだろ?!」

匠らしく言い切った言葉に、恭太は目を見張る。

 今まで物わかり良く、聞き分けよく、そう育ってきた中で、だれもそんな事をいってはくれなかった。

 初めて言われたその言葉に、なんと返していいかわからなくて、恭太は絶句する。

「ってお前、何泣いてるんだよ?!」

「あ……え……?」

指摘されて初めて気がついた。しかし止めようと思っても止まらなくて。

「しょーがねぇなぁ。肩貸すから5限始まる前に涙出しきっちまえ。」

いい年して、と蔑むでも笑うでもなく、匠は恭太の頭を抱いて自分の肩に乗せた。

 恭太は、声を出さずに肩をふるわせて泣いた。誰かに見られているかもとか、そんな事は一切考えずに。

 たぶん、こんなに泣いたのは赤ん坊の時以来だっただろう。

 そしてこの時気付いた。この人が、好きだと。



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