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恭太は、3人兄妹の2番目の子供として生まれた。上に兄、下に妹。兄とは5歳、妹とは2歳の年の差。
物心が付いた頃にはすでに妹がいて、まだ乳飲み子だった妹に母は付ききりで、甘えたくても甘えられなかった。
「お兄ちゃんなんだから我慢してね。」
その一言で、何も言えなくなった。自分の我が儘や望みは押さえる物。
そうして過ごすうちに、恭太は自分を押さえる事、諦める事を覚えた。そんな恭太の対外的な評価はいつだって、「物わかりの良い、聞き分けのいい子。」
身に付いた習慣は家の外に出ても同じで、どこに行ってもそう言われ続けて。気がつけば自分の事には無関心で周りの意見を優先させる事が多かった。
けれど本当は、もっと親にだって甘えたかった。欲しい物を欲しいと言いたかったと、そうだだをこねる、我が儘で底意地の悪い自分がいる。
十数年間かぶり続けた猫は、気がつけば恭太自身が自分の真意がわからなくなるほどに大きくなって、最近では自分の本当の望みすら見失ってしまいそうだったのに。まさか優衣にそんな自分を見透かされているとは思っていなかった。
『海野さん、でしょ。』
まさか、たった一つ譲れないと思っていた想いまでが、見透かされていたとは。
「めんどくせぇ……。」
あの場面をあれだけの人間に見られていた事も、妹の突然の指摘も。
明日からの学校生活の事も何もかもめんどくさいと。
そう呟くと、恭太は瞳を閉じた。