表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

 ダーン、という激しい音とともに木製のドアが蹴破けやぶられ、ごついS&Wスミスアンドウエッソンのマグナム拳銃を持ったオオカミが室内に押し入って来た。

 オオカミは、薄汚うすよごれたデニムのズボンに、元は白かったであろうTシャツを着ている。灰色の毛におおわれた顔面から、二つの目だけがギラギラと光って見えた。

 毛むくじゃらの両手で拳銃を構えたまま、素早く左右に体を振って室内を確認すると、奥に向かって咆哮ほうこうした。

「いるのはわかってるんだ! 両手を上げて、大人しく出てきやがれ!」

 反応がないことにイラ立ち、オオカミは大きくけた口からきばをむき出した。

「おれはあんまり忍耐強くねえんだ! 早くしねえと、あたり構わずブッぱなすぞ!」

「わ、わかった。つな。今、出て行く」

 奥のソファーの後ろから、先が二つに割れた短い手を上げて出てきたのは、野ブタ三兄弟の次男、風次郎ふうじろうだった。でっぷり太った体に、仕立てのいい背広を着ている。

 オオカミは、ピタリと銃口を風次郎に向けた。

「出たな、悪徳高利貸こうりがしめ。おまえから借りた金が返せず、おれの仲間のケモノたちが、もう何匹も自己破産のき目にあってるんだ。覚悟しやがれ!」

 だが、風次郎はおびえる様子もなく、ブブブと上を向いた鼻で笑った。

「金は、借りたら返すものだ。それも、ちゃんと利子を付けてな。あんたは高利と言うが、うちの金利はきっちり法律の範囲内だよ」

「うるせえ。法律なんぞ知ったことか。おれは、このダークファンタジーランドの世直よなおしをしてるんだ。借金はすべて棒引ぼうびきにしろ!」

 風次郎はウブ毛の生えたピンク色の顔をゆがめた。

「無茶を言うな。それじゃ、商売あがったりだ。そういえば、あんた、武太郎ぶたろう兄貴の農場へ行って、農産物を全部無農薬にしろと言ったらしいな。そんなことしたら、農家は全滅だよ。兄貴がイヤだと言ったら、文化財に指定されているワラぶき屋根の家を、メチャクチャにこわしたらしいじゃないか。あんたの世直しは、逆にこの世界を悪くするだけだよ」

「黙れ悪党!」

 耳をつんざくような轟音ごうおんが響いた。

 だが、マグナム拳銃の銃弾が貫通かんつうしたのは、部屋の天井だった。

 悲鳴を上げ、先のとがった耳を押えてうずくまっている風次郎に、オオカミは再び銃口を向けた。

「いいか、次はないぞ。おれに同じことを言わせるんじゃねえ。借金を棒引きにするんだ!」

「わ、わかったよ。借用書はすべてそこの金庫の中だ。カギを渡すから、勝手に持って行ってくれ」

 そう言って机の引き出しを開けようとした風次郎に、オオカミは「動くな!」と命じた。

「どうせ引き出しの中に護身用の拳銃があるか、防犯用のブザーがあるか、どっちかだろう。両手を上げたまま、後ろに下がりやがれ!」

 渋々しぶしぶ机から離れた風次郎と入れ替わりに、オオカミが引き出しの中をのぞくと、案の定、ワルサーの小型拳銃と防犯ブザーの両方があった。

 オオカミは念のためワルサーをズボンのポケットに落とし込むと、金庫のカギを出して引き出しを閉めた。

 さらに、オオカミは拳銃で威嚇いかくしながら風次郎の手足をまとめてしばると、そのまま奥のソファーの上に転がした。

「動くんじゃねえぞ。痛い目にあいたくなかったら、金庫のダイヤル番号を言え」

 風次郎はあきらめたようにブーと鼻を鳴らし、「4126だ」と告げた。

 ダイヤルを回し、カギを差し込むと、カチャリと小さな音をたてて金庫の扉が開いた。

 ニヤリと笑ったオオカミは、借用書だけでなく、中に入っている現金や貴金属もすべてうばった。

「おいおい。あんた、本気で世直しをするつもりがあるのか」

 あきれたように言う風次郎に、オオカミは牙をむきだして笑って見せた。

「本気だとも。世直しには金がかかるんだ。それより、不動産屋の三男坊の住所を教えろ」

「やっぱり、卯三郎うさぶろうのところにも行くのか」

「もちろんだ。あいつの紹介した欠陥住宅で、ヒドイ目にあったヤツが大勢いるんだ。あいつの宅建業たっけんぎょう免許を燃やしてやるぜ!」


 そのころ、卯三郎の不動産事務所のあるレンガ造りのビルには、珍しい客が来ていた。

 客は、フード付きの真っ赤なレザーコートを着た、若い人間の女だった。女は勧められたイスには座らず、壁を背にして立っていた。スラリと背が高く、美貌びぼうだが、表情にややけんがある。

 三兄弟の中でも一番の巨漢きょかんである卯三郎は、女の正面にあるマホガニーのデスクに座っていた。ワイシャツのボタンが今にもはじけ飛びそうだ。面倒くさそうに女から渡された名刺を見ていたが、「ほう」とつぶやいた。

「『よろず始末屋しまつや本舗ほんぽ』か。聞いたことはあるよ。で、その始末屋がわしに何の用だね」

「オオカミが来るわ」

 それだけ言うと、女はまた黙った。

「だろうな。武太郎兄貴のところで、弟二人もやっつけるとほざいたらしい。案外、今ごろ風次郎兄貴がやられているかもしれないよ」

「やけに落ち着いてるじゃないの」

「まあ、このビルの防犯設備は鉄壁てっぺきだからな。あいつがろうがなぐろうが、ビクともするもんじゃない。その間に、わしが警察に通報して、あいつは御用ごようさ」

 自信たっぷりにブブブと鼻を鳴らす卯三郎に、女は冷たい視線を向けた。

「確かに、建物は立派よ。でも、中に住んでるブタはどうかしら」

 卯三郎は露骨ろこつにイヤな顔をした。

「面と向かってブタと言うんじゃない。社長と呼べ」

 女の顔に皮肉な笑みが浮かんだ。

「じゃあ、ブタ社長。あんた、古ダヌキの市長に、賄賂わいろをつかませてるそうじゃないの」

 卯三郎の顔色が、サッと青ざめた。

「バカなことを言うな。根も葉もないウワサだ。だが、まあ、万が一、そうだとしても、それがオオカミの話と何の関係がある」

 女は腕組みをし、卯三郎をにらんだ。

「オオカミはその証拠を握っているらしいの。だから、どんなにこのビルが頑丈がんじょうでも、あんたは自分からドアを開けざるを得ないわ。そして、オオカミを中に入れたが最後、あんたは……」

 卯三郎は急に不安そうになり、ソワソワと左右を見た。

「わしは、どうすりゃいい」

 女はニコリと笑った。

「だから、あたしが来たのよ。さあ、どう。あたしに始末をまかせる気はない?」

 卯三郎はうたがわしそうに目を細め、女の体を上から下まで見た。

「おまえに、あのオオカミが倒せる、とでも言うのか」

 組んでいた腕をほどき、右手をヒジから直角に立てると、女の指先にキラリと光るものが現れた。

 そのまま腕を振ると、光るものはビュッと空を切って卯三郎の頭上を飛び越え、カツンと音をたてて後ろの壁に突き刺さった。

 手のひらにかくれるぐらいの大きさの、刀子とうすと呼ばれる武器である。

 突然の出来事に、卯三郎は目を白黒させている。

「な、何をするんだ!」

「心配しなくても大丈夫よ。あたしがオオカミを恐れていないことを見せたかっただけ。でも、あたしの本当の武器はここよ」

 そう言うと、女は人差し指で自分の頭の横をトントンとたたいて見せた。

 卯三郎は、恐ろしいもの見るように、改めて女の顔に目を向けた。

「おまえ、いったい何者なんだ」

 女は不敵ふてきな笑みを浮かべた。

「もちろん、あたしが赤ずきんよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ