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明けない夜  作者: ケケロ脱走兵
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(4)

 道路工事につき合って交通規制をしていると、何もわざわざ道路


の真下に上下水道のヒューム管を埋設しなくたっていいのじゃない


かと思えてくる。それを言うと「ばか、土の中じゃないと凍っちゃ


うんだよ、冬は」と言われた。あっ、「ヒューム管」とは土管のこ


とで、何でもオーストラリアのヒューム兄弟が円筒形の型枠を回転


させ遠心力によって強度を高める製造方法を考案したことからそう


呼ばれてて「何だ人の名前だったのか」と思ったが、どうせ今埋め


戻している道路もまたすぐに掘り返すことになるだろうという思い


が継ぎ接ぎだらけのアスファルトを見ていると予測できる。たぶん


、土地の所有権とかがあって埋設できるのは道路の下しか残されて


いないからだろうが、それならもっと弄りやすい路側帯か歩道の下


に敷けばいいのにと思いながら、通行規制の停止線で止まっている


先頭の車に白旗を上げて発進を促すと、ドライバーはスマホに夢中


でまったく気付かない。スマホが出てから誰もが現実から遁れて架


空の世界へ逃げ込む。「ロマンチシズム」を現実逃避と訳するなら


、ネット文化とはロマンチシズムそのものだ。スマホは退屈な現実


からワンタッチで「ここ以外の何処かへ」誘ってくれる夢の装置な


のだ。遂に人間は「退屈」を克服したのだ、ただ、目の前の現実を


犠牲にして。仕方なく先頭の車に注意しようと車の運転席側へ近寄


ると、後ろの車がクラクションを鳴らした。運転手はすぐに気がつ


いて車を急発進させた。そして目の前に居る私に気付くと咄嗟にハ


ンドルを切った。すると進入を防ぐために並べてあるカラーコーン


に接触して5本ほどなぎ倒して、それでもスピードを落とさずに走


り去った。幸いにもコーンは工事車線に飛び散ったので後続車の妨


げにはならかった。すぐに無線で相方に連絡して止めさせようとし


たが、


「ああ、今走って行ったわ」


間に合わなかった。相方は、


「そんなことより、監督が今日はもう終わりだってよ」


「えっ、何で?」


「そんなこといちいち教えてくれないさ」


「何かあったのかな?」


「そうに決まってるだろ。5時までの予定だったんだから」


「またですか」


2週間前から始まった工事はこれまでにも二度途中で中止になった


。一度は測量ミスが原因でもう一度は何か教えてくれなかった。相


方は多分事故に違いないと言った。どの作業者もその原因について


口を開かなかったから、隠そうとするのは事故以外考えられないと言


った。


「いいじゃねえか、日当分は出るんだから」


「まあそうですけど」


「じゃあ午前12時から全面規制解除して本日の作業終了。会社の


方には俺が連絡しておく、以上」


「はい、了解しました」


おそらく三十はすでに超えていると思われる相方は、この仕事に就


く前は自衛隊にいたらしい。朝礼の前に少し話すだけでそれ以上の


ことは知らなかったし、知りたくもなかった。駐車場の片隅で制服


から私服に着替えてると、相方は、


「一杯付き合わないか、奢るよ」


「いやあ、自転車なんで」


「いいじゃないか、自転車なら。車じゃないんだし」


そこから自分の部屋までは自転車で優に一時間は掛った。そ


れに、見知らぬ街並みを自転車で走ることは決して嫌いではな


かった。だから覚束ない意識でペダルを踏みたくはなかった。誘


いを断ると、


「なんだ、付き合いの悪い奴だな」


「すみません」


実際、他人と付き合うことが鬱陶しかった。それどころか毎日


のニュースでさえも見出しが目に入ってもまったく関心が湧か


なくって記事を読む気にならなかった。いつの間にか自分だけ


が置いてけぼりにされたような、社会を共有しているという実感


がまるでなかった。だったら、いまさら社会に従って自己変革を


迫られて自己喪失するよりも、自己本位に従って自己満足して


いる方がずっと健全だ、と思った。 

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