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明けない夜  作者: ケケロ脱走兵
24/40

(24)

 地方自治体の企画した宿泊体験ツアーは、午後一時に現地の最寄駅


に集合しなければならなかったので、出発時間がちょうど早朝の朝の


ラッシュアワーと重なった。


 そもそも自治体は少子化を少しでも食い止めるために企画している


ので、子どものいる家族や独り身でも将来子どもを生むことができる


若い女性を優先して私のような独身男性は敬遠したが、実際、面接で


は将来生活を共にする女性が居るのかと立ち入ったことまで訊いてき


た。そして一度は定員に達したのでと断りの連絡があったが、出発直


前の三日前になって、たまたまキャンセルが出て空きができたので、


担当者は何度も「失礼ですが」を連発したが、始めはムカっときて断


ろうと思ったが、ちょうど仕事を辞めたばかりですることがなかった


ので翻して気晴らしのつもりで参加することにした。


 都心へと向かう電車は一駅ごとに乗客を増やして遂には身動きが取


れなくなった。そして東京駅の2コ手前の駅で停車した時、それまで


乗客を拒むように勢いよく締まったドアがいつまで経っても開いたま


まで動き出す気配がなかった。それに反応してそれまで静粛を保って


いた車内からは話し声やため息が漏れ始めた。誰かが「またか」と呟


いた時、車内放送が流れた。


「先の区間で人身事故が発生したため停止しています。お客様にはお


急ぎのところご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありませんが・・・」


アナウンスが流れると同時に大勢の乗客がスマホを操作しながら慌た


だしく降り始めた。


「どれくらい掛かるの?」


「まあ、最低一時間は・・・」


そんな他人の会話を耳にして、私もさっそくスマホで時刻表を確かめ


ると、「ダメだ!」一時間も遅れると乗り継ぎができなくなって集合


時間に間に合わない。仕方なく電車を降りて地下鉄へと向かう人の流


れに身を委ねて東京駅へ向かった。


 ゆっくりと動き出した新幹線「やまびこ」の車窓からは、並行して


走る在来線のホームを大きくはみ出して停車している電車が見えた。


その周りでは鉄道員たちが慌ただしく駆け回っていた。「あれだ!」


晴れ渡った寒空の朝、数時間前にそこで思い詰めた者が命を絶ったの


だ。ただそれ以上関心は湧かなかった。すでにそれらの原因も分析さ


れて誰も今さら気にも掛けない。地方では自然で生きるタヌキが農道


を疾走する車に衝突して早朝の路上に屍をさらすように、首都東京で


は生きる意味を見失ったヒトが電車に飛び込んで自らを消す。東京で


暮らす人々は排便後の便器のコックを回し忘れないように、失敗をし


ないように細心の注意を払いながら社会に適応しようと自分を殺して


生きている。誰もが九死に耐えながら辛うじて一生を得て生きている


ので些細な躓きさえも一死となって、遂にはコックを回し忘れて汚物を


残したままにしてきたことさえも自信を失くす原因になる。


 車両は都心を離れて流れてくる車内アナウンスを何気なく聞いて


いると、どうやら自分の乗った車両は「やまびこ」ではなく、下車駅を


通過する「はやぶさ」だと気付いた。アナウンスは、


「まもなく大宮です。大宮の次は仙台に停まります」


と案内した。


「えっ、仙台!」


慌てて靴を履き直し上着を着て棚から荷物を下ろして乗降ドアへ向か


った。乗り間違えに気付かづに仙台まで行ってしまえば、もしかすれ


ば私も下りの新幹線には飛び乗らずに、自分自身が厭になって車両


そのものに飛び込んだかもしれなかった。

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