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明けない夜  作者: ケケロ脱走兵
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23/40

(23)

 年明けにも仕事を辞めるつもりだったが、会社は、正月はイベント


の警備員や駐車場の誘導員の依頼が殺到していて人手不足なので二月


まで待ってほしいと言うのでそうすることにした。


 新年早々からメディアはテロ組織の犯行による痛ましい事件や民族


対立による紛争を伝えているが、それらは「世界限界論」の下で新天


地を失くした資本主義経済が新たな市場を求めて進出したことによっ


てもたらされる拒絶反応である。近代化(西欧化)によって伝統文化が


廃れ民族アイデンティティーを否定された人々が原理主義へと回帰す


るのは何も他国だけの話ではなく、かつて我が国に於いても欧米列強


に開国を迫られた幕末には攘夷運動が起こって原理主義(天皇制)への


回帰が叫ばれ暗殺テロが横行し対立は激化して内乱へと拡大した。つ


まり、来し方を振り返ればわれわれの覚えのない世界のことだとばか


りは言えない。ただ、わが国にとって幸いにも産業近代化の波は起


こったばかりの時期だったことと、多くの識者が指摘するように、


単一民族として統治されていたことや農耕社会で築かれたその国民性


によって器用に転換を果たして、もちろん幾つかの波乱はあったが維


新を成し遂げた。しかし、たとえ国家体制を即席で近代化(西欧化)さ


せたとしても、伝統文化を拠りどころにした民族アイデンティティー


は途絶えることなく深層を潜って流れ、時を経て湧水のように噴出し


て西欧文化に対するコンプレックスが民族意識を甦らせ原理主義へと


回帰させ対米戦争へと向かわせた。そして更に付け加えるならば、近


年になってかつて侵略した近隣国の台頭による危機感から三度、あた


かも何らかの周期性が潜んでいるのかもしれないと勘繰ってしまうま


さにこの時期に原理主義への回帰が湧き上がっている。こうして見る


と、ただイスラム世界だけが何も特異な世界であるとは思えない。そ


の土地柄からなのか宗教による強力な呪縛から脱け出せないでいるの


だが、仮に近代化がもたらす豊かさが宗教的救済に取って代わられる


とするなら、彼らの民族アイデンティティーが失われることへの反動


から原理主義への回帰が声高に叫ばれることには一定の理解が及ぶ。


つまり、近代化とは宗教からの「解脱」にほかならないからだ。


 一月いっぱいで仕事を辞めてから、歯止めが掛からない少子高齢化


と人口減少に頭を痛める地方の自治体が企画した新規就農者を募って


定住してもらうための四泊五日の宿泊体験ツアーに参加した。そもそ


も少子高齢化と人口減少問題は日本全体が今まさに直面している問題


であって何も一地方自治体だけの取り組みで解決できる問題とは思え


なかったが、努々おくびにも出さないように務めた。


 では人口減少がなぜ「問題」なのかというと、それは専ら経済的視


点からの問題であって、つまり商売人たちが客が減るとモノが売れな


くなると騒いでいるだけで、そしてその上前を跳ねる役人や政治家た


ちが提灯持ちしているに過ぎない。そもそもこの狭くて山地だらけの


島国で現人口を越える日本人がかつて存在した例はなく、今まさにそ


の限界を超えたとすれば減少に転ずるのは必然で、ただ闇雲に客、じ


ゃなかった人さえ増せば経済成長できると考えているなら、まるで人


間をブロイラーか家畜などの経済動物と同じようにしか思っていない


経済成長至上主義に毒された経済人の妄想にすぎない。因みに、世界


の国別の人口密度のデータを見ると、日本の336人/Km2は先進国


の中でも抜きん出て高い数値で、加えて居住に適さない山地が全体の


7割以上を占めることを考慮すれば、日本は世界有数の過密国家であ


る。さらに加えてその4分の1以上の人口が、すでに横に収まり切れ


なくなって縦に積み重なって、首都圏域に集中しているのだ。ただ、


その現状だけからも我々の国民性の一端を窺い知ることができる。つ


まり、緊密な社会では統制を乱す言動は窘められて自主性を失い、つ


いには大樹の陰を慕って全体主義が蔓延り、やがて異質な他者を疎む


排他主義が声高に叫ばれる。我々はかつて迷い込んだ道を気付かずに


再び辿っているのかもしれない。おっ、話の方も気付かずに横道に逸


れてしまったようだが、それでは人口の減少はただただ好ましくない


状況しかもたらさないのかと言えば決してそんなことはない。たとえ


ば誰もがすし詰めの満員の電車を見送って次の空いている車両を待つ


ように、人口減少社会は次に生まれてくる世代にとっては決して好ま


しくない環境とばかりは言えない。ところが経済成長のために「産め


よ増やせよ」と言うのはよもや戦前(?)でもあるまいし本末転倒もい


いところだ。経済人や政治家にすれば聞き捨てならないかもしれない


が、私はこの国が平和で安定した社会環境を維持していくためには今


の三分の二くらいの人口がちょうどいいと思っている。世界限界論の


下で徒に人口を増やしてもいずれ賄い切れなくなって有らぬ争いへの


暴走を抑止できなくなる。


 政府が取り組む掛け声倒れの少子化対策なんかよりも地方が呼び掛


けているIターン誘致の方がよっぽど現実的だ。共働き世代に対して


何一つ有効な対策を打ち出せないでいる政治は、未だ男尊女卑の陋習


から抜け出せない企業文化に配慮してか、男女雇用機会均等法や男女


共同参画社会基本法、さらには育児介護休業法と、それだけ聞けば何


と進んだ社会なんだと思ってしまうが強制力のないザル法ばかりで何


一つ実のある成果を上げていない。そもそも公務員にしてからが、育


児休業を申請した男性公務員が上司の無理解と職場での冷たい視線に


苦しんだ様子をネットで綴っているくらいだから況や一般企業におい


てをや、である。保育所の待機児童の問題にしても都市への一極集中


がもたらしたミスマッチで、その反対に地方からは子どもの姿が消え


保育所や少学校は次々と統廃合されている。であるなら地方へ人を呼


び戻す対策を考えればいいのだが、以前には遷都論も真剣に議論され


たが大震災でそれも立ち消えになってしまって、今では専ら地方任せ


になっている。ただ、近代文明都市に憧れを抱く人々に鹿の鳴く音に


目を覚ますわびしい山里への移住を勧めても誰も聴く耳は持たない


だろう。いくら新幹線が日本中を網羅しても便利になるのは結局は東


京であって、つまり東京への一極集中は避けられない。地方は東京イ


ズムに追随している限り地方独自の文化が失われ植民地化し、今や


新幹線の駅前はどこも同じ景観で、東京に本部がある見慣れたフラン


チャイズ店の看板が凌ぎを削り合い、地方色が褪せていくことに侘しさ


を感ぜずにはいられない。ところが政府は国家戦略特別区域法とか地


域再生法だとか相変わらず器を作ることにばかり熱心で中身にはまっ


たく新鮮味がない。結局、東京一極集中の解消だとか地域再生だとかは


それぞれの国民の意識が転換しないことには為し得ないと思う。つまり


、人々がこう嘆くまで待つしかない。


 「山里は もののわびしきことこそあれ


      世の憂きよりは 住みよかりけり    よみ人しらず」



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