ピンクうさぎの物語
翌日は情報収集に専念するということになり、リード達リビエナルー教徒は宿を出て行った。
部屋を去り際リードが俺に向かって一言言っていったのが印象に残った。
「エル殿。巫女姫様を頼みます」
ただし、その顔には歳に似合わぬいたずら小僧のような笑みが浮かんでいた。
…その理由がわかったのは食事の後だった。
「エル!!お主!!股に、股に変なものがついておる!!デキモノじゃ!呪いじゃ!!お主!!お主とってくれぃ!!」
俺の体で海の幸をふんだんに使った豪華晩飯をたらふく食べてご機嫌だったリミエルは、脱衣所での未知との遭遇にひどく狼狽ていた。
(あー…そういうことか…)
納得した俺はしばしその狼狽振りが面白くて眺めることにし
「こんなもの、我が神の力で消し去ってくれる!」
「待て待て待て待てっ!!」
危うくピンクうさぎどころか女の子にされるところだった。
半ば恐慌状態のリミエルに必死で保健体育を教授した俺、偉い。息子の命がかかってるからな。
風呂を出たリミエルのご機嫌をとるのに要した時間は20分、消費した精神力は9割だった…。
翌日町へ出た俺たちは情報が集まる場所、飲み屋や食堂、公共浴場などを歩いた。
銀行はリードの庭だろうし。
リビエナルー教徒の集会所にも足を伸ばしたが、カディは去った後だった。
カディはヒューリックの乱心を知っているのだろうか。リードの言葉もあるしカディはきっとこちらの味方になるだろうとは思うところだが。
だが新しい情報もあった。
5人の異端審問官の残り3人の名前と敵性の有無だ。
第一席はかのヒューリック。言わずと知れた大一級危険人物だ。
第三席はカディ。おそらく味方である。
第二席となるカービーナ。彼はカディの従兄弟であり、カディを溺愛しているそうだ。
第四席、ビナルノ。彼女は明確な意思を持ってヒューリックに付き従っている。
そして第五席、エンケルト。彼はヒューリックと同じくリードに育てられた孤児だ。
兄であるヒューリックと並び称されるほどの剣の腕を持ちながらも五席に甘んじているのは、リビエナルー教徒ではごく稀にしかいない水の加護を受けし者であるからである。
彼はそれ故に兄を慕いつつも敵視しており、おそらく袂を別つと思われる。
第一席ヒューリックと第四席ビナルノが今考えられる障害ということになる。
ただし、良くない情報も手に入った。
リビエナルー教徒の一部に蜂起の誘いがかかっているようなのだ。ヒューリックが目論むのはマハードラ教のみならずリビエナルー教も含めた宗教の一掃。その尖兵としてリビエナルー教徒も利用しようという考えなのだろう。
「ふむ、一刻を争うようじゃ…」
リード達からの情報も欲しいところだが
「昼食をとることにしようかの」
じゃじゃ馬姫に追加して腹ペコ姫と広めようそうしよう。
「ばか者。お主の体が言うておるのじゃ。我のせいではないわ」
あちこちの露店で一種類ずつ買い、港が見える高台に昼食の場所をとることにした。
エヴァナ港を一望するベンチに座り、早速包みを開き一本の串をとる。
サシャヤ貝の焼き貝柱串。
貝などは傷みやすい。乾物にされて流通はしているし、出汁をとるのに良いと人気の海産物だが、生のものを食べる機会などまず無い。それは王国でもサシャヤ貝が採れるのはエヴァナ港が面する西ラード海だけなのである。
「うむ、これは香ばしい!」
特製のタレをつけ火で炙ってあるのか、食欲をそそる香りが広がる。
ペロリと一本平らげると次に取り掛かる。
次は蒸した白身魚を塩胡椒をきかせたパン…のような生地で包み、パン粉をつけて揚げたもの…名前は聞きそびれた、にかぶりつく。
「これもうまいの!少し腹に重そうじゃが、塩加減がちょうど良い!」
俺の体なのだが…なんとなく、仕草が、うーむ…。
やはり巫女姫か。改めて見ると、うーむ…。
「我は満足したぞ!お主にも食べさせてやりたいのぉ!」
心の中で苦笑いする。それは昨日俺が思ったこととまるで同じだ。
18になる俺。
そういえばリミエルって幾つなんだっけな。
俺が小さい頃にはすでに現巫女姫だった。
「気になるか?我の歳が」
考え込んでいたのか、リミエルが俺を覗き込んでいたのに全く気づかなかった。
「あ、ああ。俺よりは歳上、だよな」
「…」
一瞬の沈黙の後
「我は27歳…であり…」
空気が張り詰めた。
「800歳を超えてもおる」
どこかで見たような設定が…!
リミエルの言う800歳とは…
そして…?