俺がうさぎでうさぎが俺で
リビエナルー教の異端審問官、ヒューリックには肉親がいない。23年前に起こったイバリュア村大火災の唯一の生き残りである。
イバリュア村は街道より少し外れた山中にあり、リビエナルー教徒の隠れ里であった。
事件後の検証では火災は村の周りの森から始まったようだと結論づけられた。
ヒューリックは火災跡から軽い火傷のみで見つかり、リードによって育てられたそうだ。
そんな昔話をしていたリードだが、呼吸の一つも乱れてはいなかった。とんでもないな…。
リードの掛け声とともに踏み込んだ俺たちだったが、そこでは血の惨劇が繰り広げられていた。
同士討ち…!?赤い竜巻と化したヒューリックになすすべもなく斬り倒されて行くリビエナルー教徒たち。
「血迷ったか!」
リードが雷光の速さで斬りかかった。
だが、ヒューリックはリードの剣を"後ろから"叩き落とした。回転の勢いはそのままにリードを蹴り飛ばすと唖然とする俺たち、そして体勢を立て直そうにも未だ起き上がることもできず呻いているリードを見下ろし言った。
「目が覚めたのさ、父さん。この世界は汚すぎる。リビエナルー教もマハードラ教も、全て炎の前では平等だ…。オレはこの力をもって全てに平等な安らぎをもたらすと決めた…」
…やめろ!!
ヒューリックの左手にはピンクのうさぎが握られていた。拘束封印されているらしく、身じろぎもしない。無事か否かもわからない。
(…お主そこにおるのか!?…うむ…、一か八か、我の言う通りにせい!)
リミエルの声が俺に響いた。
(我が燃やされたらすぐさま体に戻れ!)
ヒューリックに膨大な熱量が生まれ、部屋のあちこちがくすぶり出した。
(皆を連れて行け!!)
なんとか立ち上がったリード達は扉を蹴破り外へと飛び出した。
室内から溢れ出る熱気と不穏な気配。
俺は俺の体に戻るべく飛んだ。
直後響き渡る轟音、そして襲い来る暴風…
いや、来ない。
体に戻るべく飛んでいた俺の前に俺が立っていた。
「少々お主の体借受けるぞ」
俺の顔が不敵に笑った。
リード曰く、体と離れた魂の魂の糸は、離れている時間が長いほどに細く、脆くなるそうなのだ。しかし、リミエルはその膨大な神の力をもって魂の糸を固定、長期間の離脱を可能としている。
それじゃ俺は…?
「仮の体は我が用意してやろう」
との事で、依り代はリミエルが準備してくれることになったのだが…
「ほれ、見事なものじゃろう?」
翌日、町で買い揃えた生地、綿、ボタン、それに針と糸をもってリミエルが丹精込めて作った俺の仮の体は見事なピンクのうさぎのぬいぐるみだった。
その手捌きは熟練の職人のようで見惚れるほどだったが、なぜその姿に…なぜこの姿に…!!
「想いを込めやすいものの方が、術が成功する確率が上がるのじゃ」
それなら仕方ない…
「嘘じゃ」
おい!
こんな術を失敗などせんわ、と言い、俺の魂をぬいぐるみに送り込むと早速本題に入った。
「その姿、存外に快適じゃろう?」
確かに。疲れも痛みも感じず、汗をかくこともなければ風呂にも入らないで良い。そしてお腹も空かなければトイレにも
「本題に入れよ!」
思わず突っ込んでしまった…。
飛んだ茶番を…そして今度こそ本題に入った。
「我は死んだこととなっておろう。それを利用しヒューリックの凶行を止めるのじゃ」
「具体的には、どうするんだ?」
「リード殿と協力し、カディをはじめ、リビエナルー教徒の穏健派の協力を取り付けよ。強硬派がどれほどの力をもっているかわからぬ。それに、ヒューリックに協力するものがどれほどいるかも、の」
サブタイトルはもろパクリですみません