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生まれて初めて幽体離脱!

風呂を出て体を幾分か冷ました俺はふと何かの予感めいたものを感じ宿の部屋へ急いだ。

部屋の鍵が開いている…!

予想通り部屋の中はもぬけの空だった。

部屋が荒らされた様子はない。無くなったものはピンクのうさぎ…もといリミエルだ。

部屋の中央には円が描かれ、リミエルが何かの術を行おうとしたことが分かった。

それで珍しく風呂を勧めたのか。

部屋が荒らされてないところを見るとリミエルは無抵抗で捕まった可能性が高い。

抵抗したならば部屋の中は大嵐、下手をすれば宿屋自体が倒壊する憂き目にあっただろうから。

相手の検討はつかない。リビエナルー教であろうことはわかるが、数人の暗殺者程度ならば本気を出したリミエルに手を焼くはずだ。無抵抗だった理由は相手が明らかに格上だったか…。

カディか…?その可能性は充分にある。しかし、カディならば昼間でも俺たち二人を難無く無力化することもできただろう。

他に考えられる可能性…。別のリビエナルー教徒、しかもカディに匹敵する者。

5名の異端審問官がいると聞いた。穏健派ならば堂々と交渉にくるだろう。急進派と見るべきだ。

情報が少なすぎる。打つ手がない…。


(…!)

かすかな気配を感じ身構える。

部屋の入り口で立ち尽くす俺に小さく、ただしはっきりと聞こえる声で呼びかけるものがいた。

階段をゆっくり登ってくる男の姿はどう見ても普通の、どこにでもいる商人だ。

「エル殿ですな。私はこういうものです」

懐から聖なる炎の紋章を取り出し俺に見せた。

身構える俺に男は続けた。

「私はリード=ガンドーナス。聖名をリード=リビエナリアと申します。此度は我が同胞が先走ったもので誠に申し訳ない。カディを知っておりますかな?」

「ああ、カディはな。リミエルを攫ったのはカディか?」

「いえ、カディは此度の件には関わっておりませぬ。カディは私と同じ志を持つもの。戦を、争いを好まぬもの。リミエル殿を攫ったのは我が同胞、第一席異端審問官ヒューリック=リビエナリアにございます」

まさか…第一席が出てくるとは…そして気になる点がもう一つ。

リード…?

「御察しの通りでございます。私の表の顔はマハードラ教を信奉する敬虔なマハードラ教徒。そしてリード商会を取り仕切ってもおります」

まさか大陸随一の交易商人として財を成し、一代にして国選商人組合をまとめあげた逸材が他国の国教を信奉するものだったとは…。

「信奉する宗教に違いはあれ、私はこの国を愛しております。あなた方となんら変わりはありません…」

信用、できるものだろうか。ただ、ここで何もせず立ち尽くしていても自体は悪い方にしか転がらない。

「俺はゼントゥール=エル。お見通しだろうがリミエルの従者となった身だ。しかし俺には何の力もない。探す手立てもないんだ」

「私どもの理想に協力いただけるのであればリミエル殿を助け出す手助けを致しましょう」

「協力、か。その理想が俺やリミエルに害をなさないならばな」

「約束しましょう」

「わかった、頼む。俺は何をすればいい」

「リミエル殿とエル殿には契約の糸が繋がっております。それは目に見えぬもの。しかし、それは確かに存在するもの。それを辿れば良いのです」

よく分からないが、そうなのか。

「しかし、その術を使っていられるほどの余裕がございません。少し手荒な方法となりますが背に腹は変えられないでしょう。エル殿、私の正面に立って、目を閉じてください」

半信半疑だが、今はリードの誘いに乗るしかない。他に糸口もないのだ。

「行きますよ」

リードの掌底が俺の胸を強打したかに見えた。

(なんだこれは!?)

俺の目の前には床に崩れ落ちた俺がいた。

(貴様!騙したな!?)

額に汗を浮かべたリードは俺の剣幕を物ともせず穏やかな顔で言った。

「エル殿の魂だけを打ち出したのです。これで貴方は容易にリミエル殿の居場所を見つけることが出来るはずです」

音も立てずに数人の男たちが部屋に入ってきた。どの男も一様に特徴のない姿をしていた。

「私の部下に貴方を運ばせます。貴方は私たちを置き去りにしない速さでリミエル殿の元へ飛んで下さい」

(探せと言ったって…?)

体の一部…いや、俺の魂の左手あたりに細く煌めく銀の糸が見えた。

(これか…)

きっとそうなんだろう。左手。リミエルの右手に繋がっているはずだ。

宿屋を出て夜の街を飛ぶ。

生まれてこの方空を飛ぶ経験などしたことなかったはずなのに、思うように体が動く。

「エル殿。貴方の胸と体の胸が繋がっているでしょう。それが魂の糸。リミエル殿と本体にも同じ様に糸が繋がっているはずです」

リードの言う様に確かに糸が見える。触れることはできないようだが。

(この糸が切れるようなことがあれば…?)

「魂は行き場を失い現世をさまよい、体は朽ちるに任せるのみでしょうな…」

勘弁してくれ…。

俺たちは宿を出て30分ほど走ったのち、町の外れの一軒家にたどり着いた。

ここか…。

奪還するすべはあるのか。

「中にいる者たちの中にも私の部下を潜ませております。決められた符丁で騒ぎを起こす手はずになっております」

リード…。この男、只者ではないな。

遠くで野犬の遠吠えが聞こえた。

「行きましょう」

俺たちは一気に家の中へなだれ込んだ!!


(俺の体は…?)


外のベンチで寝そべっていた…。

勝手にキャラが動いて困ります

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