呉越同舟ティータイム
リビエナルー教徒に居場所が筒抜けになっていることに危機感を覚えた俺たちは翌朝早く出発することにした。
「昨日の審問官…カディの様子からすると俺たちは完全に監視されていると思って良い感じだな」
「うむ。そうであろうな」
「しかし、リビエナルー教徒は何がしたいんだ…?」
「わからぬ。しかし、一も二もなく我を狙って切りかかって来たあやつらが、我の場所を知って手を出してこぬのもおかしな話じゃ」
その通りだ。
昨日の訪問がカディの独断だとすれば納得も行く。リビエナルー教の方針がリミエルの殺害だとすれば昨晩ほど好都合なタイミングではなかったか。末端であろう暗殺者達でさえあの人外ぶり。第三席異端審問官ならば例え巫女姫の加護を受けていた俺だとしても瞬殺されるだろう。
「俺よりも腕の立つ奴を王都から派遣させたりできないのか?」
交易路を旅する旅人を主な客にする馬車に揺られながら俺は聞いた。護衛ならその方が確実じゃないか。俺のようなどこの馬の骨ともわからぬような…。
「それも考えたがの。侍女がの、うるさいんじゃ」
「…それは個人的都合じゃ」
「侍女がの、うるさいんじゃ」
…お忍びで半身(というか魂のほとんど)を預けたぬいぐるみが危険にさらされているとか知ったら二度とそんな真似はできないよう、文字通り幽閉されるだろう。しかし、それはそれ、これはこれ。
「リミエルの本体は…無事なのか?」
「全くもって不自由なき生活をしておるぞ。仕事もこなしておる。我は有能だからの」
心配して損した気分だ。便利すぎるだろ。
「だが我にも限界があるでの。こちらに気を取られればあちらでポカをすることもある」
おい。
「そこでじゃ。このままエヴァニアス市に行き、エヴァナ港より王都へ海路にて戻ろうと思うのじゃ」
たしかに、海路ならば襲われる心配もないしな。
「それにエヴァニアスには未だ食したことのない未知の海産もあるであろう!」
それは…魅力的な…しかし
「リミエルは食べられないだろう?」
「はっはっは!気にするでない!お主が美味そうに食したものをいずれ王都に取り寄せようぞ」
さすが王族だ。やることがえげつない。
停車場で2人の男達が降り、1人の女性が乗ってきた。旅支度というには些か軽装で、荷物も手提げの鞄のみ。
「ご一緒させていただきますわぁ。わたくしエヴァニアスに行きますのぉ。」
思わず剣のつかを握り締める。
「あらぁ、どうかされましたぁ…?」
「カディ…!」
「名前、おぼえてくださったのねぇ…?嬉しいわぁ」
「一度ならず何用じゃ?リビエナルーの審問官よ」
「わたくしもたまたま同じ方角へ行くだけですわぁ…。徒歩ではヘトヘトになってしまいますしい…」
冗談も大概にしろ。手下でさえあの人外ぶり、その言葉を鵜呑みになどできはしない。
「わかった。単刀直入に聞く。お前は何をしたい?あいつらとは目的が違うのか?」
「ほほほ、答える義理はございませんわぁ…けれどぉ、名前をおぼえてくださったお礼ですわぁ、教えてあげましょう…」
カディ曰く、リビエナルー教は大きく2派閥に別れ、争っている。穏健派と急進派。その急進派である異端審問部にも穏健派と急進派がおり、5名のうちカディを含め3名が穏健派であるという。
カディはバランスを取るべく急進派の体を装いながら穏健派の擁護、保護に働いているという。
「わたくしはぁ、平和がいいのよぉ。居もしない、見えもしない何者かの手駒に成り下がってぇ、したくもない争いなんてしたくはないのよぉ…」
急進派の心変わりは…
「八方手を尽くしましたわぁ…。でもぉ、教皇の手に余るくらいにぃ今の急進派の力が強くなってるのぉ…」
教皇は元来穏健派だったそうだ。しかし、側近や上位者に急進派が多く、制御ができていないらしい。
「我も何か出来ると良いがの…」
下手に他国の宗教者、しかもトップが関わろうとするならば戦争が起きるだろう。
こればかりは巫女姫にも叶わぬ願いだ。
「カディ、お前はエヴァニアスで何をするつもりだ?」
「わたくしはぁ、各地にあるリビエナルー教支部を回って根回しよぉ…穏健派が多数になれば上位者の横暴にも立ち向かえるようになるわぁ…きっとぉ…」
程なくして馬車はエヴァニアスに到着した。
先に馬車を降りたカディはまた緊張感のない声で俺たちに向かって宣言した。
「ここではわたくしたち敵ですわぁ…。せいぜい寝首をかかれないように気をつけてねぇ…」
笑顔でウィンクして寄越す自称敵。
仲間の前で猿芝居も打てないだろうし、心せねばならないな。
「リミエル、考え事か?」
しばらく静かだったリミエルを顔の前でぶら下げて聞いた。
「うむ。この紅茶はうまいの。王都に戻ったらエルにも飲ませよう」
ティータイムかよ!
リビエナルー教も一枚岩ではなかった
信用は置けないがカディとなんとなく仲良しに…?
次はエヴァニアス市編です