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オリーブとアクアリウム  作者: チューバ
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少女×太もも=禁断の果実

随分と前のセッションなので、キャラクターの能力表も細かな流れも忘れてしまっています。ので、あくまでも実卓リプレイ「風」として楽しんでいただければ

その後すぐにシトラスと相模は綱手と合流し、メリーゴーランドから少し離れたレストランに来ていた。


「水の中なのに変ですが、いい匂いしますね」

「甘くて香ばしい…なんだろう?お菓子?」

「入りゃ分かんだろ、ほら行こうぜ」


レストランも外と同じく、水と魚で満たされていた。ゆらゆらと揺れる海草に、ウェイトレスの格好をした、やけに腹の大きいクマノミが戯れている。

店内は清潔な雰囲気で、メニューやナプキンペーパー等は濡れていないようだ。


「…ある程度予想はしてましたが、やっぱり魚が店員なんですね」

「そんなこと今更だろシトラスちゃん。それよかほら、何かあるぜ」


綱手の指差した店の中央の方には、何かが山のように積まれている。店の外から嗅いだ甘い匂いは、どうやらあれのようだ。


「アップルパイ…でしょうか?いい匂いですね」

「パイ…夏野菜…うっ!!」

「さ、相模さん!?どうしたんですか急に!!」


急に屈みこんだ相模をよそに、綱手はアップルパイの山に歩いていく。


「ちょ、ちょっと綱手さん!相模さんが急に!!」

「知らん、パイでもお見舞いしておけ」


悶絶した理由は水曜どうだろう見ろ、と言いながら。

ふと歩みを止めた綱手は、山と積まれたアップルパイの前で、テーブルに突っ伏して眠る少女を見つけた。


「………」

「綱手さん?どうしたんで…あれ?」


相模を介抱しながら綱手に続いたシトラスも、その少女を見つける。

雪原を思わせる透き通るような白い肌に、ボサついた白髪。体の線は細く小柄でどこか人間離れしていながら、身に纏うセーラー服がとてもよく似合っている、概ね見たもの全員が美少女と答えるであろうその少女は、スヤスヤと心地よい寝息を立てて眠っている。


「…こいつが大元か?」


ボソリと綱手が呟く。その表情からは先程までのちゃらんぽらんな雰囲気は感じられず、その鋭い瞳はさらに鋭くなっている。


「…とりあえず起こすか。シトラスちゃん、一旦下がって…ん?」


蛇足とは思うが、ここで改めてシトラス・サーバードという彼女を説明しておこうと思う。

アメリカで生まれた彼女は決して才女というわけではなく、平均以下の学力と平均以上の容姿でもって、そこそこに楽しい学生生活を送っていた。

だが彼女は、あまり一般的ではない性癖を持っていた。それは女性の、特に若い女性の太ももに、常人では計り知れないほどの愛と尊崇を抱いていることである。クラスメイトのショートパンツから覗く太もも。ぴっちりとしたジーンズで強調される、柔らかな太もも。運動をしている学校のヒロインのスパッツなど、講義を無視して凝視していたほどである。

そんな彼女が遠く異国の地、日本の「萌え文化」にフューチャーされたのは、ある種の必然だったのかもしれない。活発な学校の仲間たちの服装とは違う、ちょっとした動きだけで中身が露わになってしまうようなミニスカート。ソックスと合わせ、より太ももを魅力的にする絶対領域なる文化。そして学校の指定衣装でありながら、その眩い純白の肌をさらに美しく見せるセーラー服。他にも魅力は枚挙に遑がない。

その魅力に魅せられ、彼女は単身日本に飛んだ。苦労も多かったが、それでも日常会話程度なら問題なく行えるほど日本に馴染み、自身の欲望を満たしていた。


では、ここでシーンをこのレストランへ戻そう。

訳の分からない場所で不可思議な現象に遭い、本人は慣れたような振りこそしていたが、精神は極限状態に近かったシトラス。その彼女の前に突如、純白の美しい太ももが現れた。つまり


「ぬぅんわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「な!?」


綱手は見た、その眼光を。それは最早人ではなく、得物を見つけたケモノの眼光そのものだった。

綱手が止める暇もなく、シトラスは穏やかに眠る少女の椅子を引く。そしてテーブルという支えを失った彼女の上半身が倒れこむ前に、上半身と下半身の間に自分の頭を突っ込み、テーブルの代わりとなった。

その間3秒足らず。残像が見えるほど、鮮やかな流れだった。


「………………」

「………………」

「…なぁシトラスちゃん」

「……何も言わないでください」


誰が悪いわけでもない。強いていうなら、太ももなどという禁断の果実を作り出した神が悪いのだ。


「……もうちょいまともな子かと思ってたんだがなぁ」

「あなたにだけはそんな事言われたくなかった!!」


もごもごと名も知らぬ少女の太ももに顔を埋めながらシトラスは言う。状況も絵面も、そんな事言えるシーンではないのは明白なのに。


「し、シトラスさん…いきなり投げ出さないでくださ……何してるんです?」

「SAN回復だってよ」

「むしろ正気失ってるんじゃないんですかこれ…」


やがて放り出された相模が起き上がり二人がコソコソと話している時である。


「ん……むぅ?」


件の少女が、シトラスの背中で目覚めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗い部屋だった。これからのことが不安だった。

別れた彼女たちはどこだろう、ひょっとしたら別な部屋にいるのかもしれない。

だがこの部屋から出られない。毒を飲まされ、体の自由が利かない。いや、動くことはできるのだが、扉には鍵がかかっている。それに、こんな状況で動いてどうなるのだろうかと、そんなことをぼうっと考えていた。

そんな時だ。扉が開き、誰かがこちらに向かってきた。

光源が弱い豆電球なせいか、顔はよく見えない。何かを叫んで、そして開かれたドアの方へ引っ張られていく。

その手は、とても暖かくて………………


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「びっくりした!!起きたら机がおねーさんになってるんだもん!!」


溌剌とした声がレストランに響く。声の主は、先程まで眠っていた少女である。

太ももに顔を埋めていたシトラスに驚きはしたものの、一同にそこまでマイナスな印象は抱いていないらしい。どころか、この遊園地で自分以外の人に会えて嬉しいと可愛らしく笑みをこぼしていた。


「純粋な子でよかったな、シトラスちゃん」

「良い子でよかったですね、シトラスさん」

「ほんっとうにすみませんでしたぁ!!」


男二人の白い視線の先には、土下座せんばかりの勢いで頭を下げるシトラスの姿があった。


「おねーさんなんで謝ってるの?悪いことしたの?」

「悪いことというかイケナイ事というか…ほんと、急にびっくりさせちゃってごめんね?」

「ううん!膝まくら、よくしてあげてたから!おねーさんも、膝まくら好きなの?」

「ひ、膝枕というか太ももというか・・・」


元気な少女にたじたじになるシトラス。なのになぜかその一線は譲らない。


「して欲しかったら、またしてあげるからね、おねーさん!」

「………………この子天使なのでは?」

「あー仲良くお話ししてるところすまねぇが、シトラスちゃん。その子からは色々聞かなきゃならねぇ」


二人の会話に綱手が割って入る。その雰囲気はシトラスの暴走する前のように鋭く、和やかだった空気が一瞬で変わる。


「綱手さん…手荒なことしないでくださいね?」

「そう睨むなよシトラスちゃん、いくつか確認したいことがあるだけだ…そんなわけで嬢ちゃん、ちょっとお兄さんとお話しようか」

「お話?」

「お話っつーか、あれだ。なんだかんだ、まだ自己紹介とかもしてねぇしな。嬢ちゃん、名前は?」


砕け気味で飄々とした空気は崩さず、綱手はシトラスに聞く。


「お名前?私はシオだよ!」

「どこから来た?」

「えーっとね、分かんない!」

「ここが何処だかわかるかい?」

「ゆーえんちのレストラン!」

「誰と来たんだ?」

「分かんない!気がついたらここにいたの!」

「さっき膝枕、よくしてあげてるって言ってたな」


調子を崩さず、綱手は問う。


「その相手は、誰だ?」

「えっと…えと…あれ?」


その質問にだけ、彼女は答えを詰まらせる。


「嬢ちゃん、ひょっとしたらなんだが…金髪で癖っ毛の、嬢ちゃんより少し年上の女の子に、心当たりは無いか?」

「知らない……分かんないよ……おにーさん、何言って……」

「……いや、分からないならいい」


そういって、少女…シオから離れる綱手。

その表情は落胆とも失望とも違う、曖昧な感情を浮かべていた。


「…綱手さん?」

「いや、なんでもねぇ……所詮は夢の話さ」


そんな表情を浮かべてなんでもないなんて、とは。

間近で見ていたシトラスも、一歩離れて見ていた相模も言えなかった。


「とりあえずその嬢ちゃん、俺らと一緒にいた方がいいだろうな。こんな訳わかんねぇところで一人にしておくのはマズいだろ」

「それは同意見ですが…シオちゃん?は、それでいい?」

「うん!おねーさんと一緒にゆーえんちで遊ぶ!」


先ほどの少し怯えた表情は消え去り、そこには溌剌とした少女の笑顔が戻っていた。


「…大元だったらそれまで、その時はその時で対処すればいい、か」


綱手がボソッと発した言葉は、誰の耳にも届かなかった。


まるで狂信者のような振る舞いですが、シトラスのPLの人は実際にこんな感じです。信じられないけど。

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