ふとももに惹きつけられて
幸せはことごとく、私を絶望に追いやる。
元々私に意識なんてなかった。ただそこにある、身動きさえ取れない。生い茂る木々の匂いも、新緑の鮮やかさを見ることさえもできない。私はそういうものだった。
だから。
だからこの世界が開けた時、私はとても嬉しかったんだと思う。文字通り、言葉でなんて言い表せないほどに。
自分の足で歩けた、色鮮やかな世界を認知できた、他の人が私に話しかけてくれた。
全部、全部が新鮮だった。あの時の私に心はなかったけれど、今思い出してもあの瞬間は忘れられない。
なのに、なのにどうして・・・
あんなに辛く苦しい目に遭わなければいけなかったのだろう・・・
こんな思いをするくらいなら、いっそ・・・
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吉良邸、炎上。ガスパイプの暴発が原因か?
昨日未明、投資家の吉良 沙羅さん(34)の家が火災により炎上し、搬送先の病院で死亡が確認されました。
出火原因はガスパイプの破裂とみられており、警察が確認を急いでいます。
また、同居していた三人の女の子の行方がわかっておらず、警察が引き続き捜索を続けております。
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「はい、OKでーす!お疲れ様でしたー!」
ディレクターの声がスタジオに響く。それと同時に、あちこちがざわざわと騒ぎ始めた。
「いやぁお疲れシトラスちゃん!今日も可愛かったよぉ!」
着ていたジャケットを脱ぐ女性に、監督らしい男が声を掛ける。
「ありがとうございます!次もよろしくお願いしますね!」
「おうおう、むしろこっちからお願いしたいよ!シトラスちゃんが表紙だと映えるんだよね!」
その発言にシトラス、シトラス・サーバードは少し照れて答える。
「そんな私なんて…こうしてお仕事貰えるだけでありがたい限りです」
「またまたぁ!おっと、そろそろ次の撮影か。じゃあシトラスちゃん、また次もよろしくね!」
新しいモデルが入って、また慌ただしくなるスタジオを尻目に、シトラスは挨拶をしてスタジオを後にした。日はまだ高く、さらに今日はもう予定は無い。
「どうしよう、あんまりお金使いたくないんだよね…」
残念ながら売れっ子モデルといっても駆け出し。貧乏とは言わないが、生活にそこまで余裕があるわけではない。
「うーん、晩ごはんだけスーパーで買って帰っちゃおうかな…ん?」
と、そこに。
学校帰りなのか、女子高生の二人組が道を歩いていた。
どこの学校かは分からないが、膝の上まで切り詰めたスカートに、ストラップがジャラジャラ付いたスマホを弄っている。
シトラスはそんな二人を凝視して、ポツリと呟く。
「細いスラッとした太もももいいが、むっちむちの太もももまた捨てがたい…ムムム…」
そんな、鼻の下を伸ばして、一歩間違えば犯罪者扱いの発言をして女子高生をみていた彼女は、前から来る人に気付けず肩が当たってしまった。
「あっとっと、すみません、あまりにもあのJKの太ももがグンバツでつい…」
そんな言い訳にもならないような発言は、しかし口から発せられることはなかった。
(あ…れ?)
(なんか、目眩が…)
世界が急に揺れだし、目がチカチカする。まともに立っているのかさえ不明瞭になる。
そんななか、ふと耳元で声がした気がする。
『もう一回、遊んでいってくれよ』
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「な…」
目が覚めると、
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
シトラスは、水の底にいた。
初めまして、KPです。
散々血を吐いたセッションを「これ小説にしたら面白くない?」と言う理由で書きました。
拙い文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです、




