八話 告白
関係者立ち入り禁止な場所に入る方法は、大きく分けて3つある。
1つ目、人目に晒されないようにこっそりと侵入する。
2つ目、内部の人間になり堂々と侵入する。
3つ目、内部の人間と仲良くなり、協力してもらって侵入する。
1つ目ってのは、まぁ最後の手段だな。
本当にどうしようもない時、仕方がなく嫌々やるもんだ。
2つ目は確実だが問題も多い。時間がかかったり、前工作が面倒だったり。
1番の問題は、内部の人間に顔を知られてしまう事だ。
やっぱり1番のオススメは3つ目だ。これなら、顔は仲良くなった1人にしかバレないし、そこまで面倒じゃない。
それに内部で見つかったとしても、協力者が庇ってくれる。
ただし・・・協力者が作れればの話だけどな。
予想外にも程がある。まさか軍関係者がオフで街に出てこないなんて・・・
石城で働く兵士の休暇は週に一度ある。だが、外出許可が下りるのは月に一度だけだそうだ。
それだけなら多少は城外に遊びで来てる人がいても良いもんだか、殆どいない。
なんで?ねぇなんで?
色々調べてわかったんだが、理由はあの大きな石城らしい。
軍隊ってのは自己完結能力が高ければ高いほど良い軍隊だ。それは兵站だけではなく、兵士の娯楽も含まれている。
そして、石城にはその娯楽がビッシリ詰まってる。という事だ。
酒場は勿論、劇場、サウナ、賭博場、簡単な運動施設、遊戯場、流石に娼館は無いが、男女の兵士、いや男女だけでなく同性同士でも色々出来ちゃう部屋まであるらしい。それも軍公認だぞ!
更に追い討ちをかけるのが、オフで城外に出た兵士は軍関係者だとバレてはいけない規則があり、破ると減俸処分になってしまう。
そりゃ出てこないわな。
規則や施設を作ったのは、現最上級指揮官ファブリック元帥だ。
城外で問題を起こす兵士が多かったらしく、街の住民には概ね好評だ。
まぁ、俺には大不評だけどな!
森林地帯にまたパラを呼び出した。作戦の練り直しをしなければならない。
「ねぇ、帰る時間を考えると、後3ヶ月だよ」
「・・・そうだな」
「どーすんの?」
「どうしようね」
「・・・あーっ!会話が!1ヶ月前と!」
「わかってる!」
「あのさ、言わないでおこうと思ったんだけど、今回は・・・」
「俺が依頼を受けて失敗したことあったか?」
「無い、とは言い切れないような」
「・・・少なくとも依頼人を失望させるような事はしてこなかった。違うか?」
「う、うん」
「諦める事はしない。まだ方法はある」
「え・・・まさか」
「軍関係者に変装する」
2つ目、内部の人間になり堂々と侵入する。これしかない。
「!駄目だって!そんな事したら顔が割れちゃう!上手くステルスエントリーすれば!」
「あの石城に?あれだけ厳重な警備体制で、完全な隠密行動は無理だ」
「でも・・・」
パラは言葉を続けられない。他に方法が思いつかないからだ。
長い沈黙が続く。
俺は今が言うべき時だと思った。
「あのな、これは今回の仕事が終わってから言おうと思ってたんだが」
「ん?」
「・・・引退しようと思う」
「!」
「引退すれば顔が割れようが関係ないだろ?まぁウジールの追っ手から逃げなくちゃならないからそこはちと問題だが、そうだな、昔の知り合いにでも匿ってもらうさ」
そしたらさ、お前俺についてきてくれるか?と、続けようと思った瞬間、パラが襲いかかってきた。
「な!」
「冗談で言ったんならぶっ殺してやる!」
「お前!なに言って!」
仰向けに倒されて、上に乗っかられる。マウントポジションってやつだ。
「なんで?!なんでそんなこと言うの?!答えて!答えてよ!」
「落ち着け!俺が引退するってのに、なんでそんなに怒ってんだよ!」
「怒ってない!聞きたいだけ!なんで引退なんて言ったの!」
「それは・・・」
「それは?」
「その、パ、パラと一緒に生きていたいと思ったから、かな」
ああ、ついに言っちまった。
ずっと思ってたことだった。
ベルダンの言葉や、俺を心配して弱音を吐いた顔、それはきっかけに過ぎない。
出会った時から、そして一緒にフリーランスとして仕事をこなしてた時も、ずっと思っていた。
パラと共に人生を過ごしたいと。
俺だけの人生から、俺達の人生になれたらいいなと。
だが言えなかった。いや、言わなかった。
俺の我儘でずっとパラを苦しめてきた。
彼女は幸せにならなければならない。
もう十分なはずだ。
答えは出た。俺はその答えに全力で向かい合わないといけない。
きつく抑え込んでいた体から、力が抜けるのがわかった。
そのままパラは俺の上へ倒れ込む。
顔を俺の胸に押し付け、表情を見せないようにしている。多分恥ずかしいんだろう。
全く、恥ずかしいのはお互い様だろ。
「うれし、くない」
「は?!」
「もっと雰囲気のある場所で言って欲しかった」
「・・・いやぁ、俺達には似合わないだろ」
「それってどう言う意味?」
ちょっと拗ねたような声で聞いてくる。
「別に、深い意味は、無い。です」
「私、アレックスの好みと違うよね?」
「そこら辺の男心は女にゃ難しいさ」
「・・・訳わかんない」
パラの体が一瞬固まるのがわかった。
ん?どうしたんだ?
「それに・・・それにさ、私・・・身体に・・・」
「身体に?」
「身体にいっぱい・・・汚い傷跡あるよ?」
なんだ、その事か。
「知ってるよ。裸見たことある」
「え!いつ?!」
顔を上げて迫ってくる。
「まだ連合がスムースボアと戦争してた時かな、お前、腹撃たれたろ。そん時治療と看病してたの俺なんだよ」
「・・・知らなかった。てっきりフォーちゃんがやってくれたとばっかり」
「ああ、それはフォスベリーに俺から頼んだんだよ。男に裸見られたの知ったら悲しむかもしれない。お前がやったことにしといてくれって」
「アレックスってそういうとこ変わらないよね」
「駄目か?」
「ううん、そういうところが、好き、だから、変わって欲しくないかな」
「そうか」
「で、どう思ったの?私の裸見て、その、嫌じゃ、なかった?」
なにを心配しているのやら・・・
「教えて欲しいか?いやぁ、興奮しちゃてさ!その場でズボン下ろしてイデデッ!」
やめて!弱点だから!そこ男の弱点だから!
「それくらい魅力的だったってことだよ!」
「ほんと?」
「・・・正直ムカついた。こんなになるまでパラをほったらかしにしてた奴らをぶん殴りたくなった」
俺が言えたことじゃない。そんなことはわかってる。でも本当の気持ちだ。
「そっか。嬉しいな」
また顔を胸に埋めてしまう。
「泣いてるのか?」
「うれし涙なんて初めて流したかも」
「そっか。じゃあ思い切って気持ちを伝えた甲斐があったな」
優しく頭を撫でる。パラも抵抗せず為すがまま撫でられる。
こんな気持ちになったのは、俺も初めてかもしれない。
「ねぇ」
「ん?」
「救出作戦、絶対成功させようね」
顔を上げ、涙で濡らした顔を笑顔にして俺の目を見つめてくる。
「・・・任せとけって」
出会ってから四年、俺達は初めて唇を重ねた。