七話 潜入
ウジール国。
西端最大の超巨大国家であり、周辺諸国と同盟を結ぶ事により、その影響力を未だ拡大し続ける国。
軍の上級大将又は元帥クラスの人間が、国のトップに付く軍事国家でもある。
現在の最上級指揮官はファブリック元帥。
国民には人気があるらしいんだが、合理化と冷血な手法をとることで知られ、ついたあだ名が「機械化ファブリック」
おお、怖い。
「マズイな・・・」
ウジールの首都、石城都市に入って一ヶ月。
予想していたこととはいえ、全くなんの成果も得られていないのは、流石に応える。
世界三大都市の1つ石城都市。世界最大の石作りの城壁に、世界最大の石作りの街、そして世界最大の石作りの城だ。
お前ら世界最大言いたいだけだろってくらい、最大だらけだ。
確かに大きい。大き過ぎる。
一ヶ月前に石城都市に到着した俺たちは、ひとまず都市の全景を見ようと、小高い丘に登った。
「・・・」
言葉を失ってしまった。
大きいなんてもんじゃない。外壁を一周するのに1日以上はかかるだろうと思うほど、兎に角でかい。
「ねぇ」
「ん?」
「もしかしたら、三国連合本部の都市より大きいかも知れない」
「かもな」
俺達が他に知る唯一の三大都市、「三国連合本部都市」
あそこも相当なもんだったが、ここは下手したら世界最大かもしれん。
「とりあえず、コードブック買いに行くか」
「・・・うん」
石城都市には勿論別々に入る事になる。
今までの街や都市だったら、滞在期間は長くて3日、早ければ半日で移動することが多かった。
だからパラとの連絡方法は、街や都市を離れて、人影のない森や林で直接報告するという方法を取ってきた。
この方法、あんまり褒められたやり方じゃない。
直接会う、というのはやってはいけない事の中でも上位に来るくらい駄目な事だ。
ただ滞在期間が短い場合、安全策よりスピードを優先した方が良い。だから最大期間3日で、情報は直接としてきた。
だが今回は違う。滞在期間は最大で4ヶ月だ。
それに都市を出ようにもあまりに大きく、時間と労力の無駄になってしまう。
だから今回は「正しいやり方」を採用する。
デッドドロップボックスを使うやり方だ。
これはあらかじめ場所を指定して、そこに伝えたい情報を書いた紙を特殊な箱に入れて隠しておく。
で、その後相手が紙を回収、情報が伝わるわけだ。
この方法の利点は、直接会わないという事だ。
だが欠点もある。情報が紙として残ってしまう。
回収された後なら破るなり焼くなり出来るが、箱に入っている時に第三者が見つけてしまった場合、かなり厄介な事になる。
だから暗号化が必要になってくる。
暗号化は俺達がよく使う、コードブックを使用したコード暗号にした。
同じ本を二冊買い、情報を伝えたい者同士がそれを持つ。そして伝えたい情報は数字で暗号化する。
例えばAという文字を伝えたいとする。そうしたら本の中からAが書いてあるページを見つける。
それが18ページの51行目の3番目だとすると、伝える情報は「18.51.3」となる。
簡単だが安全確実な方法だ。
石城都市の手前にある街で、コードブック用の本を買う。
「淫乱巨乳メイド夜の御奉仕」か「石城都市完全グルメガイド」かで意見が分かれたが、最終的にパラが蛆虫を見るような目で俺を睨んだ事で、無事グルメガイドに決定した。
まったく、本気なわけないだろ・・・
石城都市に入って早々、大問題が発生していた。
都市全体がスパイ天国になっていたのだ。
予想していなかったわけじゃない。
フォーサイス自治国が潰された事で、他の同盟国がウジールに押し寄せていた事は事前にわかっていたからな。
フォーサイスはウジールに遺憾の意を伝えられる唯一の国だった。
そこが潰されたんだ。他の連中は生きた心地がしないだろう。
だから特使を派遣してウジールの真意を確かめたいんだろうが、なにも正攻法だけが解決策じゃない。
街には同盟国のスリーパーが大勢潜んでいる。
スリーパーは元々街の住民として生活している諜報員の事だ。
何か掴みたい情報がある時だけ活動し、何もなければ普通に生活している。
そいつらが一斉に動き出したんだ。
他の諜報員がわんさかいるって状況は、メッチャクチャ動き辛くてメッチャクチャやり辛い。
同盟国の目的は大体一緒だ。だからスリーパー達も多少協力し合ってる様だが、俺達はそもそも目的が違う。
そしてスリーパー達は地の利がある。なにしろ元々この街で暮らしている連中だ。
どうしたもんかね・・・
3日後、デッドドロップボックスを使い、石城都市から歩いて一時間ほどの森林地帯にパラを呼び出した。
明らかにグッタリしている。
「どーすんの・・・」
「どうしようね」
「情報収集はあんたの得意分野でしょ?なんとかしなさいよ!」
「とりあえず情報収集は諦めるか」
「は?!なにそれ!正しい行動は正しい情報から!あんたがいっつも言ってる事でしょう?」
「下手に動いて俺達のことがバレる方がヤバイ。今はそれだけの状況だ」
「う、確かに」
「とりあえず協力者を作ろう」
「そっち先?」
「そうだ。順番はおかしくなっちまうが仕方がない。警備兵や軍服を着ている連中は無視して、オフで街にいる軍関係者と仲良くなるんだ。女性兵士も多いらしいから、パラはそっち方面からアタックしてくれ」
「ん、わかった」
そして1ヶ月後、俺達は何の成果もあげられないまま、途方に暮れていた。