六話 依頼
シアー街道に戻って来た。
待ち合わせの廃村はここから約1日程度のところにある。
俺達は急いで廃村に向かう事にした。
ショーシャが来る前に下準備をしなければ。
廃村は民家が崩れずに残っている程度には新しいものだった。多分ここ一、二年で人がいなくなったのだろう。
「お、崖があるな。あそこから村が一望できるんじゃないか?」
「でも、あそこだと何かあった時にすぐ駆けつけられないよ?」
「問題ない。万が一の時は俺が自分で対処する。それよりもパラは崖の上でライフルを構えててくれ」
「ん、わかった」
その他いくつかの確認をする。
襲われた時の脱出ルート、武器の隠し場所、脱出した時の再合流地点。
やれる事は全部やった。後はショーシャを待つだけだ。
「来てくださって安心しました。わたくし、もしかしたら来てくれないのではないかと」
「以前も言いましたが私の仕事は信用第一です。決して約束は破りません」
「そうでしたわね」
一週間ぶりに会うショーシャは変わらず美しかった。
だが前回のような動揺や緊張はない。あれは一体何だったんだろうか。
やっぱり・・・いや、あり得ない。
あり得ないものを考えるのはよそう。
「早速で申し訳ないが、依頼内容をお聞かせ願います」
「はい・・・」
ショーシャの話す依頼内容は、シュミットのところで聞いたものとまったく同じものだった。
フォーサイス家のお取り潰し、自分も命を狙われた事、ユーリ フォーサイスの軟禁。
そして最後に、
「ハリス様には、ユーリ坊っちゃまをウジールから救い出して欲しいのです」
と言うと、ショーシャは深々と頭を下げた。
勿論、即答で受けはしない。
「ウジールですか・・・貴女はウジール国の事をどの程度ご存知ですか?」
「・・・ある程度は」
「ウジールを敵に回すというのはかなりの自殺行為です。その事を分かっていますか?」
「・・・はい」
僅かに声が震えている。
「ユーリ坊っちゃまは・・・とてもお優しい方で、わたくしのような身分の低いメイドにも、分け隔てなく接してくれます。そのような方が、あんな、酷い仕打ちを、考えただけで・・・わたくしは!」
「1つ質問が、宜しいですか?」
「は、はい」
「ユーリ君を救い出した後、どうするおつもりです?」
「フォーサイス自治国には、元自治軍関係者と民間人によるレジスタンス組織があります。その組織の方が坊っちゃまを担ぎ上げて、フォーサイス自治国を取り戻す。と、おっしゃっておりました」
「・・・ほう」
「ですが!わたくしは反対です。フォーサイス自治国に戻れば、待つのは幼くして人々の希望を背負わなければならない運命です。そんな事、どうして坊っちゃまにお願い出来ましょうか。故郷に戻りたい。その気持ちはわたくしも、おそらく坊っちゃまも持っております。ですがフォーサイスを離れ、東に逃げたく思います」
「よくわかりました。・・・そうですね、五千エーブル金貨でどうでしょう」
「え?」
「あ、もしかしてエーブルはお持ちでない?ならゲル金貨でも構いませんよ」
「あ、あの!」
「もし貴女がユーリ君をレジスタンスに引き渡そうとしたなら、私は断っていたでしょう。壮絶な最後が待っているのは火を見るより明らかですからね。せっかく助け出したのに、結果が殺されるだけっていうのは、流石にやる気が起きませんから」
「では!」
「お受けしましょう。ご安心ください、ユーリ君は私が助け出します」
口元を両手で抑え、涙を流すショーシャ。
うーん、ちょっとドキドキした。
「ありがとう、ありがとうございます!」
「ですが相手はウジールです。事前の準備や実行には、かなりの時間がかかります。それに、ここからだとウジールに行くだけで一ヶ月はかかってしまう。申し訳ないが救出まで半年はみてください」
「半年、ですね。わかりました」
「半年後、またこの廃村に来てください。救い出したユーリ君をつれてまいります」
「はい、はい!」
救い出し、再会した時の事でも考えたんだろう、頬を赤らめ嬉しそうにショーシャは頷いた。
「では半年後、またお会いしましょう」
「あ、お待ちください!」
「まだ何か?」
「わたくし、名前をまだ教えておりません・・・」
「ああ!そうでした。名前は依頼を受けてから、そういう事でしたね」
「はい。わたくし、フォーサイス自治国首領、アラン フォーサイスに仕えるメイド長、ショーシャ スタアと申します。以後、お見知り置きを」
「私は、ホーグ、ホーグ パックマイヤーと言います」
「ホーグ様、ですか。素敵なお名前ですね」
その笑顔はどんな物にも変えることの出来ない素敵なもので、この人のために働くのは悪くないな、と思えるものだった。
パラと合流する。
「ねえ、名前のくだり、あれわざとでしょ」
「おまえ、聞こえてなかっただろ?」
崖の上にいるパラに、俺達の会話が聞こえるはずがない。
それを見越してあんなキザったらしい真似したのに、なんでバレてるわけ?
「大体わかるよ。だってアレックスがやりそうなことだもん」
「はは・・・」
ここまでお見通しだと、返す言葉も見つからないな。
名前以外にもショーシャからは色々と教えてもらった。主にユーリ坊っちゃまのことだ。
ユーリ フォーサイス、年齢12歳、男。女と見間違えるほど絶世の美形らしい。
何なんだ?顔が良くないとフォーサイスに関わっちゃいけないのか?
性格は大人しく、非常に聡明な心優しい子だそうだ。
ショーシャの主観がバリバリ入ってるとは思うが、なんか完璧超人みたいで怖い。
後、驚いた事にユーリが軟禁されている場所まで教えてくれた。
「ウジール国首都、石城都市の中心地「石城」の8階にある、上流階級用捕虜収容室にいるはずです」
「その情報を何処で?」
「レジスタンスが放った密偵からです」
そこまでわかっているのはありがたい。
もしかしたら、救出まではそんなに手間ではないかもしれない。
「よし!」
パラは頬を何度も叩き気合いを入れる。
「今回は大仕事だからね、しっかりやらないと!」
数日前、酔っ払って弱音を吐いていた姿は何処にもない。
本当に強い奴だよ。
一度マドセンに戻って旅の準備をしなくちゃな。
なにしろ一ヶ月の旅路だ、色々買い込むものがいっぱいある。