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笑菓  作者: 千葉焼き豆
救出
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五話 真相

 ショーシャ スタア。それがあのメイド長の名前だ。


  スタア家は代々フォーサイス家に仕える家柄で、フォーサイス自治国、初代首領サミュエル フォーサイス准将の時代から付き合いがあるらしい。


 で、そのフォーサイス家なんだが、最近お取潰しになったらしい。

 理由はウジール国に喧嘩を売ろうとしたから。


「信じられんな。ウジールといえば西端一の大国だし、それに軍事国家だぞ。そこに反旗を翻すとか、無茶にも程がある」

  軍事国家ウジールは経済的にも軍事的にも超大国だ。

 ここと張り合える国といったら、東端の三国連合国くらいだろう。

「それがですね、噂によるとなんか凄い物を掘り出したらしいんですよ」

「掘り出した?」

「はい。フォーサイス自治国は良質の鉄鉱石が取れる事で有名でして、その鉱山で何かを発見したそうです」

「うーん、金脈とか?」

「確かに金鉱石を発見できれば、経済的には優位に立てるでしょうが、ウジールに喧嘩を売る理由にはならないでしょうね。なんだかんだ言ってウジールとフォーサイスは、同盟国の中でも一番繋がりの強い二国ですから」

  自治国の名が示すように、フォーサイスはウジールの一部地域が自治を認められて存在している国だ。

 初代首領サミュエル フォーサイス准将が功績を認められ、その地を治めるようになったという。

 だからそもそもの成り立ちが他の同盟国とは違うし、関係も深い。


  話によると、フォーサイスだけが同盟国の中でウジールに意見できる立場だと言われている。


「じゃあなんだってんだ」

「それが、全く情報が流れてこないんですよ。商人の情報ネットワークはかなりのものです。精度、スピード、カバー範囲、どれも一級品です」

それはよく知っている、俺もちょくちょくお世話になってるからな。

「それなのに全く情報が入ってこない。これは相当な情報統制が敷かれているという事です」

「じゃあ掘り出したものがなんだってのは置いとくとして、それでフォーサイス家が潰された理由は?」

「ウジールはその掘り出した「何か」を欲しがったらしいんですけど、フォーサイスがそれを拒否、で、反乱の疑いありってことでお取潰しになったそうです」

「それだけで潰されたのか。とんでもない暴挙だな」

「「何か」がそれだけのものだったという事でしょうかね」

「で、ショーシャ嬢は俺に何をして欲しいんだ?ウジールとフォーサイスの間に入って取り成してくれとか?」

「それはないでしょうね。現首領アラン フォーサイスとその妻セリア、そしてフォーサイスのお屋敷にいた人達はほとんどが殺されてしまっていますから」

「え!?お取潰しって、物理的にお取潰しじゃねぇか!」


 何がなんでも無茶苦茶だ。


「ショーシャさんも殺されかけたそうですよ。『お爺様と首領様ご夫婦がいなければ、わたくしもここにいないでしょう』と、言っていましたから」

「ほとんどって事はショーシャ以外にも、生き残りがいるのか?」

「流石察しがいいですね。フォーサイス夫婦の御子息である、ユーリ フォーサイス様がウジールに捕らえられ、今でもウジールの本拠地「石城」に軟禁されているそうです」

「国民への警告か」

「はい。フォーサイス夫婦は大変国民から慕われていたそうです。それをある日突然、それも理不尽な理由で殺されたんです。納得しろというのが無理でしょうね。だから何かあればユーリ フォーサイスを殺すぞ、という意味で連れて行ったんでしょう」

「て事は?」

「貴方への依頼は、おそらくユーリ フォーサイス様の救出だと考えられます」

「だろうな」


  大国の本拠地への潜入。そして人質救出。


「はっきり言って無謀ですね。大国ウジールを敵に回すというのは、ほぼ死刑宣告に近い。それに人質救出なんて仕事は、貴方の得意分野じゃないでしょう?」

「よくわかってるじゃないか」

「ホーグさんの仕事振りは、一部の商人や貴族達の間で、それなりに有名ですからね」

「じゃあどうしてショーシャに俺の事を喋った?」

「もしかしたら、貴方なら受けてくれるかもしれない。そんな期待があったから。でしょうかね」

「随分と俺は買われてるな」

「はい。ホーグさんはそれだけの人だと思ってますから。・・・それなのに、さっきは・・・あんな・・・」

「あ、あれは悪かったって!タイミングが悪すぎたんだ!」

  こりゃ当分言われるな。

「で、どうするんです?相手が相手だけに、断っても誰も文句は言わないと思いますけど」

「お前ねぇ、期待してるとか言っておいてそんなこと言うの?」

「純粋にホーグさんとヴェルサさんに死んでほしくないだけです。紹介したということは、死因の1つに僕の名前が刻まれるって事ですからね」

「そりゃどうも。でも、俺は受けたいと思う」

「・・・本気ですか?」


 超大国ウジール本拠地「石城」への潜入。そして人質の救出。

 確かに俺の得意分野じゃない。

 でも、いや、だからこそなんだろうか、今までになかったほど高揚している自分がいる。


  これは間違いなく、「面白い仕事」だ。


「色々ありがとうな。この借りは後で返すよ」

「一度取り付けた契約は、どんなことがあっても履行する。それが商人です。今の言葉、僕は決して忘れないですからね。必ず返してくださいよ」


 実に商人らしい励ましの言葉だな。




 これ以上の事前調査は無理だろう。なにしろ期限が一週間しかない。

 自業自得なのは知っているが、しかしどうにも腑に落ちない。


 パラの言っていた通り、いつも調査の期限は最短でも1ヶ月だ。それなのに何故俺は一週間と言ってしまったのか。

 まるで自分の思考を操作されたような薄気味悪さを感じる。

 勿論そんなはずはない。


 無いんだが・・・何か引っかかる。

 まぁ、調べようが無いから諦めるしかないんだけどな。


そしてもう1つ超えなければならない障害がある。


 パラだ。


  必ずあいつは反対するだろう。何しろ相手は超大国ウジールだ。

  今までウジールとは殆ど接点が無い。

 確か一度だけウジールの特殊部隊と接触したことがある程度だ。

 そもそも自分達で諜報機関も特殊作戦部隊も持っているウジールには、俺達が入る隙間なんてこれっぽっちもない。

 だが噂だけは伝わってくる、どれだけ強いのか、どれだけ恐ろしいのか。

 その事はパラも知っているはずだ。


  さて、どうしたもんかね。




 集合場所には夜の帳が下りた直後ぐらいに到着した。まだパラは来ていない。

 流石にまだ早かったかな。

 野営をして待つことにする。


  パラが戻って来たのはそれからしばらく経ってからだ。

 馬の上でフラフラしてるな、と思った瞬間、落馬した。

「おい!大丈夫か!?」

「・・・・・」

 微動だにしない!やばいかも!

「おい!」

 倒れているパラを起こしてやる。

 うわっ酒くさっ!飲み過ぎるなって言ったのに。

「大丈夫か?飲み過ぎだだけか?誰かと喧嘩してないよな?」

  外傷はないが一応心配なので聞いてみる。

  パラはか弱い声で「・・・してない」と呟いた。

「じゃあ酔っ払ったのをいい事に誰かに襲われたりとかもしてないよな?」

「・・・してない」

「じゃあただ飲みすぎただけか。あんまり心配かけるなよ・・・」

「・・・たくない」

「ん?」

「アレックスだけには言われたくない!」

  いきなり大きな声を出して俺を睨みつける。

「ウジールだよ。次こそは、本当にアレックス、ねぇ、いなくなったら私、どうすればいいかなんて・・・」


 支離滅裂だが言いたい事は充分に伝わった。

  パラは酒場で情報を掴んで来た。多分俺がシュミットから聞いた話と大体同じ事だろう。

  そして俺がこの一件を断らないとわかってしまったんだ。


  断ってくれ、危な過ぎる、死ぬかもしれない、だからやめよう。

 きっと喉が枯れるほど言いたいだろう。

 だが言ったところで俺が断らないのはわかっている。

 俺の事を他の誰よりも知っているから。


「耐えられないよ。そんな事になったら、私・・・」

「パラ・・・」

  パラは俺の胸に抱きついて来た。俺も背中に腕を回す。

  いつものパラの匂い。


ああ、やっぱり俺はこいつを・・・。


「なぁ、俺から離れてもいいんだぜ?」

 パラの身体がピクンと震えた。

「何も俺みたいな屑野郎にずっと付き合う事はない。お前はお前の幸せを掴んだっていいんだ」

「・・・お」

「お?」

「ぉ、ヴォォォ!」

「汚ぇ!俺の服に吐くな!」

「・・・スッキリした。寝る」

「は?」

 焚き火の近くに寝そべってそのまま寝てしまう。

「あの、パラ?」

「触んな!」

  伸ばした手を慌てて引っ込める。

「その、ごめんな」

「謝んな!私が惨めになる!」

「・・・・・」

「もう二度と離れようなんて口にしないで!」

「あ、ああ」

「それから!」

「うん」

「・・・死んじゃ・・・いやだよ」

「・・・任せとけって」


 パラの後ろに寝そべり、顔をパラの頭に近づける。

 さっきと同じ匂いがする。俺の大好きな匂い。


  死ねないって約束はかなりきついなぁ。

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