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笑菓  作者: 千葉焼き豆
救出
4/43

四話 想い

 馬を引いてマドセンの街から出た俺達は、出てすぐの所にある、小さい広場で銃の弾込めをすることにした。


 この広場は「弾抜き場」と呼ばれている。

 大きな町や都市では、中に入る際、銃から弾を抜かなければならない。

 理由は色々あるが、大きな理由としては、よく暴発事故を起こして問題になるからだ。

 でも弾を抜くのは意外と時間のかかる作業だから、専用の場所を設けて、事前に弾を抜いておくってわけだ。

  で、俺達は逆に長旅に備えて弾を入れる作業をする。弾抜き場だからと言って弾込めしちゃいけないってことはない。


 俺達が持つ銃は全部で3種類ある。2つは俺とパラがそれぞれ二丁ずつ同じ物を持っている。

 1つは6連発+1の回転式拳銃。+1ってのはシリンダーの真ん中に大きな穴が空いており、そこが散弾銃になっているからだ。撃鉄の先端が可動式になっており、普通の弾と散弾を撃ち分けることができる。

 市販品じゃない。ちょっとしたコネである変態のガンスミスに作ってもらった一点、いや、二点ものだ。いつでも出せるように腰に吊るしてある。

 もう一丁が単発式の小型拳銃。いざという時の予備で、足首に隠してあるから素早くは出せないが、最後の頼みの綱だ。

 最後の3つ目は長物ライフル。

 これは拳銃とは違い、弾が球体ではなくタケノコみたいな形をしている。

 そして一番の特徴は弾の底部にあり、円錐型に空洞がある。


銃ってのは、大きかろうが小さかろうが仕組みは一緒だ。

 片方が塞がれた筒(銃身)の底に火薬が入っていて、弾がその火薬を塞いでいる。

 火薬を発火させると高温高圧のガスが発生する。するとガスの圧力で弾が押し出され、銃身内部で加速、発射されるわけだ。

 だが加速の過程で問題が出てくる。高圧ガスは弾を加速させるだけでなく、弾と銃身の隙間から抜けてしまうのだ。

 すると弾がうまいこと加速できないばかりか、隙間から回り込んできたガスが、加速を邪魔してしまう。

 では弾を銃身の内径より少し大きくすればいいんじゃないか?てことになる。

 確かにそうすればガスは抜けないし、銃身内部には弾を回転させ、弾の飛び(弾道)を安定させる為の螺旋状の溝(施条)が彫ってあるが、その溝に弾が食い込んで綺麗な回転を与えることができる。

 いい事ずくめだ。


 ところがだ、世の中そう簡単にはいかないように出来てるんだよな。

  弾は銃身の入り口(銃口)から入れなければならない。

 でも銃身の内径より弾の直径が大きいと入れる事が出来なくなってしまう。

  その解決策の1つが「円錐窪み付きタケノコ型」弾ってわけだ。

 こいつは銃身の内径より小さくできているが、円錐の窪みにガス圧がかかると弾の底部が圧力で広げられ、銃身内部にぴったりと張り付いてくれる。

 だからガスも逃げないし施条にも食い込んで上手いこと回転してくれる。

 誰が考えたか知らないがよく出来た弾だ。


  ちなみにもう1つ解決策がある。弾を銃身後部から入れる方法だ。

 銃口から弾を入れるものを前装銃、銃身後部から弾を入れるものを後装銃という。

 後装銃は装填する手間がかなり軽減されるので便利といえば便利だが、銃身後部に蓋をする必要がある。

 これがなかなか難しいらしく、どうしても隙間からガスが抜けてしまうらしい。

 それに前装銃よりも構造が複雑になってしまう。


  回転式拳銃は後装銃の一種で、拳銃の中でもスタンダードな存在だが、長物ライフル銃では前装銃が今でも主流になっている。

 タケノコ弾と施条銃のコンビネーションは素晴らしく、威力、有効射程、命中精度全てにおいて他の銃をはるかに凌ぐ性能だからだ。


  弾抜き場に設置されているテーブルに、装填用の道具一式を広げる。

「これがめんどくさくてなぁ、もっと簡単に出来ないもんかね」

「私は好きだけどな」

  パラは細かい作業が好きだ。銃もよく分解整備している。

 というか俺の銃もよく整備してくれている。

 自分でやれって感じだが、本人がやりたいみたいだから口は出さない。

 あれ?じゃあ弾込めもやってくれないかな?

「なぁ、俺の銃も弾込めしといてくれよ」

「はぁ!?自分でやんなさいよ!」

「好きなんだろ?」

「あんたが楽できるってのが気に食わないの!」

「なんだよそれ」

「ほら、ととっとやる!かわいいかわいいメイド長さんとの待ち合わせに間に合わなくってもいいの!?」

  それは言わないでくれよ・・・


  しょうがない、自分でやるか。

 火薬の容器には計量する仕組みが付いていおり、注ぎ口が細長いパイプ状になっている。

 パイプ一杯分が適量だ。

 容器を振りパイプに火薬を入れたら、パイプと容器の間にある仕切りを閉じる。

 この状態でシリンダーの穴(薬室)に注いでその上から弾を載せる。

 薬室の内径より弾の直径の方が大きいから、銃に付いているテコの原理を利用した弾込め用の棒で詰めてやる。

  弾込めが終わったら、次にグリスを使ってシリンダーの穴を塞いでやる。

 これをやらないと、発砲した時に他の薬室に引火し暴発する可能性があり大変危険だ。

  次は雷管を取り付ける。ニップルと呼ばれる小さな突起がシリンダー後部にあり、そのニップルはさらに小さな穴で薬室に繋がっている。

 雷管は衝撃で発火する薬品を銅や真鍮の小さなカップに入れたものだ。これをニップルに取り付ける。


 兎に角これがめんどくさい!


  まず雷管は物凄く小さい。豆粒程の大きさしかない。だからニップルに上手くつけられない。

  後、取り扱いを間違うと暴発する。弾の推進用火薬は安定した薬品で、誤って発火する事は早々無いし、更に多少湿気でやられても発火できる。

  だが雷管用の発火薬は非常に不安定なものだ。なにしろ叩いただけで発火してしまう代物だ。

 でも慎重にやらないとシリンダー内の弾が一気に暴発して、自分の指を吹っ飛ばす程度で済めばいいが、下手したら他の人間を巻き込みかねない。


  見知らぬ他人、家族、一番大切な人。事故は絶対に避けなければならない事だ。


  回転式拳銃は6連射だが、一ヶ所だけ弾も火薬も雷管も付けない場所を作っておく、つまりは5連射+1だ。

 撃鉄をこの空のシリンダーに落としておく事で暴発を防ぐ訳だ。

 本当はシリンダーに撃鉄を落としておく為の溝が彫られているが、シリンダーを空にしておく方が安全確実だ。

 さっきも言ったように、事故は絶対に避けなければならない。


  単発拳銃は火薬と弾を入れてあるが、雷管は被せていない。

 いざという時は雷管を被せてから撃つことになる。これだと咄嗟の時に時間がかかるが、暴発するよりはマシだ。

  ライフルも火薬と弾を入れて雷管は被せない。

 ライフルは護身用というより狩用なので、本当は火薬も弾も入れる必要はないのだが、何があるかわからないので一応入れておく。


  作業を終えて2人で安全確認する。

「撃鉄のシリンダーは?」

「空」

「単発拳銃の雷管は?」

「無し」

「ライフルの雷管は?」

「無し」

 よし、準備完了だ。


  馬は一頭だけだ。

 名前は「マイラ」とパラが勝手に呼んでいる。

 俺は別に名前なんていらないと言ったんだが、どうしても付けたいと言うので、勝手にさせている。

  俺にとっては今でもただの「馬」だ。情がうつるといざって時に困るからな。

  俺は中肉中背、パラは小柄でどちらかと言うと痩せている方だ。なんとか2人で乗ることができる。

 身長差の問題でパラが前、俺が後ろだ。


  少々急ぐ旅だ。馬には悪いがちょっと無理してもらう。

  直接ボーアへ行く道は無い。

 シアー街道をベルグマン王国方面へと少し移動し、脇の道へと逸れる。

 そこからいくつかの村を経由し、何度か道を変えて、1日半程度でバーレル街道へと出る。

 半日も掛からずにボーアの町に到着だ。


  まぁ、何にもトラブルが無ければ、って話だけどな。




  移動を始めてから暫くは、今日は人のいるとこで寝たいだの、夕飯は何を食べたいだの他愛無い会話をしていたが、街道を離れ細い脇道を通る頃になると、会話は途切れていた。

 別に苦にはならない。特に話すことがないから話さない。ただそれだけだ。


  目の前にパラのつむじが見える。

  さっきベルダンにあんな事を言われたからだろうか、俺はパラの事を考えていた。


  こいつと出会って4年。コンビを組んで3年だ。

 国は違うが2人とも前職は諜報機関の諜報員だったし、フリーランス後も勿論諜報員だ。


  じゃあ、人間同士として、俺達はどういう存在なんだろう。


 仕事の相棒、友達、恋人、家族、どれでもあるようで、どれでもない。随分と曖昧な関係だ。

  はっきり言えば、パラは俺に惚れている。

 そして俺もパラを憎からず思っている。

 そしてお互いにわかっている、と思う。

  だが決して俺達はそれを口に出さない。

 それが分かりきった事だから言わないとか、恥ずかしくて言えないとかそう言う事じゃ無い。


  多分パラは俺が言うのを待ってるんじゃないだろうか。それまでは自分の気持ちを表に出さないようにしている、いや、出せないんだと思う。


 はっきりと言ったことはないが、あいつはこの仕事が好じゃない。

 4年間ずっと側にいた俺がそう思うんだから間違いない。

  でも、俺がやめないからパラは付き合って、相棒をしてくれている。

  もし俺に気持ちを伝えたら、自分の事を考えて引退してしまうかもしれない。

 そう考えているんじゃないかと思う。

  もしかしたら全部俺の勘違いで、好きでもなんでもないのかもしれないが、それならそれでいい。

  俺はパラが好きなように生きるのが一番だと思っているから、出来うる限りのサポートをしてやるだけだ。


 だが、もし勘違いじゃなく本当に惚れているとしたら、俺はどうしたらいいんだろうか。


 退屈だなんだと言っているが、それなりに楽しんで今の仕事はやっている。

 まだやめたいとは思っていない。でも、それで彼女が苦しんでいるとしたら・・・


 まだ答えは出ない。


  正しい答えが出て、もしそれがパラにとって幸せな人生を歩める答えならば、俺は全力でその答えに取り組もう。




 バーレル街道に到着した。今までの田舎道とは打って変わって幅広い道が続く。更に街の周辺は石畳で舗装され、とても歩きやすい。


 ここからは別行動だ。いつもなら付かず離れず、お互いを監視しながら行動するが、今回は時間があまりない。

 普通に二手に分かれて別々の情報元から同じ情報を集めてくる。

「早ければ今夜、遅くとも明日の昼迄にはここに集合だ。いいか、あんまり飲み過ぎるなよ」

  パラは人の一番集まる酒場で情報収集だ。酒場だから当然飲む事になる。

 こいつは飲み過ぎると暴れるところがあるからちょっと心配だ。

「仕事で飲むんだから、口につける程度しか飲まないって」

「ならいいけど。じゃあ気を付けてな」

「お互いにね。じゃあ、マイラは借りてくから」

 パラは馬にまたがり先に行ってしまった。




 ボーアに着いた。

 弾抜き場で弾を抜いて大きな城門を潜る。

 流石にお金のある街は違うな。立派な城壁で囲まれ、警備兵の人数もマドセンとは比べ物にならないくらい多い。そして何処もかしこも活気に溢れている。


  目的地は大規模商会の支店や商業組合の施設が連なる商業街だ。

 知り合いの商人がいるのでそこで情報を集める。


 大通りを外れて宿屋街を通り抜け、商業街に入る。

 他の区域と同じように、ここも随分と賑わっているな。

  さて、知り合いの商人は何処の支店だったかな?

「あ!ホーグさん!」

 いきなり呼び止められた。

 警戒しながら声のした方向へ顔を向ける。


 笑顔の優男が立っていた。


「シュミット・・・?」

「お久しぶりですね!何か入り用ですか?それとも知りたいことがあるとか?」

 シュミットの肩をがっしりと掴み歩き出す。

「ちょっ、な、なんですか?」

「まぁまぁ、色々と積もる話もあるだろうしさ、ちょっと付き合ってくれよ」

「え、いや、まぁそうですけど、何処行くんです?」

「いいところさ」


 裏路地に入りそのまま進んで行く。途中でちょうどいいゴミの入った麻袋があったので、拝借する。


  ここら辺でいいかな。

「随分とふざけた真似してくれるな。俺をバカだと思ってるのか?」

「はい?」

 ゴミの入った麻袋をシュミットの頭に思いっきり被せる。

「ぎゃ!くさ!や、やめて、これ取って!」

悪臭と格闘しているシュミットを押し倒し、馬なりになってナイフを喉に突きつけた。

「ひっ!こ、殺さないで」

  首に感じる冷たさでナイフと気が付いたシュミットは、震える声で命乞いをする。

「まさか、殺すわけないだろ。俺とお前の仲だ、じっくりと悲鳴を楽しんで、激痛にもがき苦しみながら、お願いですから殺してくださいと懇願するまで殺してたまるか」

「い、や、やめて・・・」


  ふざけてやがる!俺をなんだと思ってんだ!

シュミットが裏切った事に怒ってる訳ではない。というかこいつも騙されている可能性があるしな。

 それよりも俺が許せないのは、ここでシュミットと鉢合わせて、俺が警戒しないと思われてる事に腹が立つ!曲がりなりにもこっちはプロだぞ!


  可能性は2つだ、俺をからかって遊んでいるか、何にも知らない素人の仕業か。

 それと確実なことが1つ!あの女もシュミットも罠だ!間違いない!


「おまえの裏にいる奴に会いたい。何処にいる」

「裏!?何のことで・・・」

 麻袋の上から思いっきりぶん殴る。

「俺は怒ってるんだ!ありふれた押し問答なんかするつもりはない!」

「本当にわらかないですよ!」

「本当に殺されたいのか!?」

「じ、じゃあ殺してください・・・僕は・・・僕は、貴方を尊敬していた。一体何があったのかは知りませんが、きっと貴方のことだ、訳ありなんでしょう。理由がわからないのは悔しいが、尊敬する貴方に殺されるなら、きっと犬死じゃないと信じていますから・・・」

「・・・」

「さあ!殺してください!僕は信じています!僕の死で多くの人々が、大切な何かが守られるということを!ですから!さあ!」


  暫く沈黙の時間が流れたが、その沈黙を破ったのは俺の方だった。


「・・・はっ、呆れて物も言えねぇな」

 麻袋を取ってやる。生ゴミだらけの顔は涙でグシャグシャになりながらも、覚悟の決まった顔をしていた。

「殺さないん・・・ですか?」

  俺はとんだ甘ちゃんだ。きっと正しい答えは、四肢を切断してでも本当のことを聞き出す。だろう。だがシュミットを信じてみようと考えてしまった。

 これだけ覚悟の決まった人間が、人を騙しているとは思えない。

  きっとおっさんは鼻で笑うだろうな。おまえバカなの?とか言って。

「金髪のウェーブ、程よい大きさの胸、大きい尻」

「・・・ショーシャさん?」

 そうか、あの人はショーシャというのか。

「まさか、ショーシャさんが何かしたとか・・・?」

「いや、何をしたいのか知りたいだけだ」

「そうでしたか・・・じゃあ何でこんな!」

「あんたの名前はショーシャから聞いていた。で、情報を集めようとボーアに来た途端に鉢合わせだ。仕込みだと思うに決まってる。それも相当バカにした仕込みだとな」

「・・・なるほど。で、他には?」

「それだけだ。いつものことなんだよ、事前に裏を探って依頼主の意図を探る。シュミットの時だって、」

「違います!他に言うことありますよね?」

  ・・・本当に世の中お人好しばかりだな。まぁ俺もその中に含まれているっぽいが。

「ごめん。疑って悪かった」

「じっくりと悲鳴を味わって、激痛にもがき苦しみながら、お願いですから殺してください。でしたっけ?」

「うっ、それは・・・効果的な脅迫で・・・基本的な・・・」

「はぁ、いや、ちょっとからかっただけです。気にしないでください」

「で、あんたはショーシャ嬢に何を?」

「詳しい話は僕の事務所でしましょう。早く身体を洗いたいんでね。ゴミ臭くて我慢の限界です」

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