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笑菓  作者: 千葉焼き豆
襲撃
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三十八話 大動

 パラと別れてから約30分後、廃村の入り口に到着した。


 馬車を止め御者台から降りる。

 ショーシャのいる小屋は、ここから100メートルほど行った村の中心地だ。

「さ、行こうか」

「はい!」

 目を輝かせユーリが荷台から降りて来る。

 早く会いたくて仕方がないみたいだな。

「ちょっと緊張してきた」

 少しだけ硬い笑顔のままユーリが言う。

 安心してくれ、俺も緊張してんだ。


 ユーリとショーシャを合わせた時、何か動きがあるのは間違いないだろう。

 それがどんなものなのか、全くもって予測出来ない。

 最悪の場合はパラに2人を射殺するよう言ってある。

 ・・・出来るかどうかはわからないが。


 まぁ俺だったら間違い無く躊躇するだろうな。


 廃村の中は崖上から監視していた時と同じ様に、人の気配は無かった。

「最初に何言おう・・・ありがとう?うん、なんか違うかな・・・」

 さっきからユーリはずっと独り言を呟いている。


 あれから注意してユーリを観察しているが、ナイツから聞いた「人が変わった」ような言動は一切見られない。

 そしてショーシャも怪しい動きは一切無かった。


 俺はナイツに一杯食わされたのか?

 いや、そんな筈は無い。

 あの時の話は間違い無く真実だ、それは俺の過去が証明している。


 そんな答えの無い自問自答を繰り返している内に、目的の小屋に到着してしまった。


 一呼吸置いて軽くノックする。

 『・・・はい』と、ドア越しに控え目な声が聞こえてきた。

 間違い無くショーシャの声だ。

「依頼を受けたホーグです。ユーリ君を連れて来ました」

『・・・本当ですか?!』

 小屋の中からドアに近付く足音が聞こえる。

「ショーシャ!僕だよ!」

 前に出ようとするユーリの肩を掴む。

 もしかしたらいきなりドカン!なんて可能性もあるしな。

『坊っちゃま!今開けます!』

 慌ただしく鍵を開けるガチャガチャと言う音が響き、勢い良く扉が外側へと開いていく。


 目の前にいるのは間違い無くショーシャだった。

 俺好みの体型をした美しい女性。

「坊っちゃま!」

 嬉しそうにショーシャが叫ぶ。


 ユーリは・・・


 不思議そうな顔で目の前の美女を眺めていた。

「どうした?」

「・・・この人・・・誰?」


 次の瞬間、ショーシャの顔面が吹っ飛んだ。




 ショーシャさんが撃たれた!

 狙撃手は二人か!


 地面に倒れて動かない男を見る、たった今首筋にナイフを突き立てて殺した相手だ。

 無力化した敵は今の所二人、目の前の狙撃手と少し前に倒したライフル銃の男。

 幸いにも銃を使わずに倒す事ができた。


 でも時間切れだ。

 廃村から複数の連続した銃声が聞こえてくる、アレックス達が襲われているんだ。


 早くしないと!


 倒した狙撃手が持っていた銃を手に取る。

 さっきまで肩に担いでいた狙撃銃と同じ物だ、使い方は分かっている。

 今いるのは半月状の頂点、後一人は・・・あれだ。

 もう1つの頂点に膝立ちで杖のような物を構える男、あいつがショーシャさんを撃った狙撃手だ。

 伏せた状態で狙撃銃を構え、照準器の線を対象に合わせる。


 呼吸を整え・・・

 今だ。


 引き金を引く瞬間。

 目の前が真っ赤に染まった。

 



「!」

 頭を吹き飛ばされたショーシャは、棒立ちのまま背後に倒れて行く。

「ユーリ!中に入れ!」

「は、え?・・・」

「待ち伏せだ!」

 呆然と立ち尽くすユーリの腕を取り、小屋の中に飛び込んだ。

「伏せろ!」

 頭を抑え、突き飛ばすように床に転ばせる。

 俺がユーリに覆い被さるのと、爆音と共に小屋の中が暴れ回るのはほぼ同時だった。

 小屋の外壁にいくつもの穴が開けられ、室内の椅子が吹き飛び、ベットが踊り狂い、空瓶が粉々に弾け飛ぶ。

 やたらめったら撃ってくる、間違い無くレッドロックだ。

 もしアイソセレスなら標的を目視せずに撃ちまくるなんて事はしない、もっとスマートに襲ってくる筈だ。


 それにしてもパラは何やってんだ?

 上から狙撃してくれてもいいのに・・・


 まさか・・・そんな事・・・


 いや、あり得ない。

 あり得ない事を考えるのはよそう。


 数十秒続いた銃弾の嵐は、何の前触れもなくいきなり途切れた。

 多分、全員が一斉に射撃したもんだから、一斉に弾倉の弾が無くなったんだろう。

 今の内に状況確認と戦況の立て直しだ。


「ユーリ、大丈夫か?」

「・・・」

 うつ伏せの状態で体を強張らせ動こうとしない。

「ユーリ!」

「は、はい!」

「怖いのはわかるが生き残る為にやるべき事がある。このまま動くんじゃないぞ」

「・・・わかりました」

 体を起こし布に包んでいたライフル銃を取り出す。

 弾倉は2つ、その1つを取り付けレバーを引く。


 敵はどこから来る?

 膝立ちの状態で銃を構える。


「ギャンッ!」

 ユーリが物凄い悲鳴を上げた。

「・・・あ」

 ユーリの横にあったテーブル、どうやらさっき銃撃で足がボロボロになっていたようだ。

 天板が倒れてユーリの後頭部に直撃していた。

「・・・おい、大丈夫か?」

 ユーリを見ている暇はない、今は敵の動きを見極めなければ。

「・・・いてて・・・」

 どうやら問題ないようだな。

「いやぁ、随分なお祭り騒ぎだな!」

「・・・何だって?」

「まぁ状況は大体把握してるから安心してくれよ」

 ・・・ユーリ君?

「あんたの56式貸してくれ、俺が何とかする」

 ごーろく・・・何だって?

 いや、それよりも、

「・・・お前、誰だ?」




「やったぞ!」

 真横から声が聞こえる。

 どうやら私はまだ生きているらしい。

 右目は・・・駄目だ、全然見えない。

 でも左目ははっきりと見えている、大丈夫みたいだ。

 後はどこを撃たれた?

 あ、お腹が熱い、多分ヘソの上あたり。

「クソッ!2人も殺しやがって!なんて女だ!」

 叫びながら近付いてくる。

 どうにも戦い慣れてはいないらしい、相手を完全に無力化したってちゃんと確認しないと。

「死んだよな?」

 起き上がりライフルで腹をどつく。

「な?!」

 そしてそのまま、

「お返し」

 引き金を引いた。

「ゴッ・・・」

 よろめく男に向かって立て続けに撃つ。

 胸に、首に、頭に。

 男は膝から崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 首筋にもう1発。

「ここまでして初めて安心するんだよ」

 て、もう死んでる奴に言ってもしょうがないか。

「うっ・・・つっ・・・」

 それに私だって安心出来ない。


 もう1人の狙撃手を見る。

 こちらに気付いたのか、慌てて銃の向きを変えていた。


 不思議と痛みはそこまで感じない。

 死への恐怖も・・・無い。

 待ってな、今仕留めてやる。


 私の命と根比べだ。




「俺が誰かなんてそんなこたぁどうでもいい、それよりもこの状況を何とかするのが先だ。違うか?」

 全然口調が違う、でも声はユーリのものだ。

 男の子とは思えない、澄んだ美しい声。

「お、おう」

 どうやら敵ではないようだが・・・どうなってんだ?二重人格?


「言っちゃ悪いがそいつの扱いは俺の方が長けてる。渡してくれ」

 素直に従って大丈夫だろうか・・・でも・・・こいつは・・・


 あーもうメンドくさい!どうにでもなれ!


「わかった」

 ライフル銃と予備の弾倉を差し出すと、それを受け取って不気味に顔を歪ませる。

 こんな顔初めて見るぞ・・・整った顔の分おぞましさ三倍増しだ。

「本当に渡しちゃったよ〜いいのかな〜」

「何だと?」

 ユーリは顔を元に戻し溜息をつく。

「ここに来るまで俺とショーシャさんをそれなりに警戒してただろ?そんならもっと気を付けないと」

 ごもっともな意見だが・・・何故だろう、滅茶苦茶ムカつく!


 ユーリは手慣れた手つきでライフル銃のあちこちを操作し始めた。

「悪いけどショーシャさんどかしてくんない?ドアの前に居られると邪魔なんだよね」

 頭から血液とは違う、黄ばんだ液体を飛び散らせて倒れているショーシャを指差した。

「ああ・・・」


 結局正体が掴めないまま殺されてしまった。

 以前の「ユーリ」はこいつの顔に見覚えが無い様な口ぶりだったな。

 多分本当のショーシャ スタアでは無いのだろう。

「可哀想だが死んじまった人間は生き返らない、後で埋葬してやろうぜ」

 考え事をしている俺を見て、勘違いしたのかユーリが静かに言う。

 だが、そんな気持ちもなかったわけじゃ無い。

「・・・そうだな、何処か静かな所に、」

「あー」

『うわぁ!』

 同時に悲鳴をあげる。

 う、動いた!

「おい、どうなってんだ?」

 そりゃこっちのセリフだ!


 ショーシャは上半身を起こし、俺に顔を向けた。

「流石に死ぬかと思ったぞ」

 ショーシャの顔はズタズタに引き裂かれていた。

 そしてその下に・・・もう1つの顔がある。


「ヤマモトさん・・・」

「おう、久し振りだな」


 リチャード ヤマモト。

 俺の、元上司。

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