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笑菓  作者: 千葉焼き豆
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三十五話 再構築

 第二分隊が合流し、隊員の人数がこの二日間で24人に増えた。


「話は聞きましたが・・・もう何が何だか・・・」

 第二分隊長シュバルツが頭を掻きながら苦い顔をする。

「こっちは色々あり過ぎてかなり苦労したんだ、お前らは幸せなんだぞ」

 石城からの大脱走やら不満続出の隊員やら、極め付けは呑気な顔して現れる隊長殿やら・・・。


「まぁ何にせよ、合流してくれて感謝するぞ」

 人数が増えた事は、素直に嬉しかった。

 これで作戦の幅が広がるし、ある程度柔軟に対応する事が出来る。

「感謝も何も、我々はアイソセレスですから」

 さも当然の様にシュバルツが言い放つ。


 ・・・やっぱりこいつらは働き蜂だな。

 まぁ悪い事だとは言わないが。




 その後、俺達はバーレル街道をひた走った。

 護衛をするにしても、レッドロックと一戦交えるにしても、距離という物理的な障害は如何ともしがたい。


 最後尾に位置する俺は、24の騎影を眺めながら今の状況を確認する事にした。


 追跡任務から救出任務、そして護衛任務へと変わっていくたびに、一つづつ難題が突きつけられる。

 しかし一番の懸案事項は変わらずそこにあった。


 ダンウエッソン、ソルデン、アレックスザイテル。

 何者であるかの疑問は、一応の回答が出ている。

 だが、追跡対象から護衛対象に変化したことによって、新たな不安要素が加わった。


 果たして信用できる人物なのか?


 ナイツが無傷どころか可愛くなって帰って来たのは確かだ。

 だが、俺は直接話したことすらない。

 今はまだ架空の人物も同然だ、そんな奴を信用出来ないのは当然だろう。


 どうするべきか。


 ・・・信用する相手を変えればいい。


 俺は、ナイツを信じる。


 危うい選択なのは分かっている。一歩間違えれば破滅へと一直線だ。

 だが、あいつの人を見る目が一級品である事は間違い無い。

 それはアイソセレスの隊員を見れば明らかだ。


 他の選択は無い。

 多分、親父さんに子守を任された時から決まっていた事なんだろう。


 俺は、俺のお嬢様について行く。


 とりあえずの結論は出た。

 そう区切りを付けた所で、ある人物の後ろ姿が目に入る。


 次はこっちか。

 一番最悪の懸案事項を片付けなければ。




 毎晩の歩哨は3人で交代しながら行なっている。

 勿論ローテーションをしながらだ。

 この人数だと大体8日に一度は回ってくる計算だ。


 夜の静寂の中、その時が来るのをじっと待つ。


 歩哨に立っている「そいつ」が動いた。

 追跡は慎重に、かつ迅速に。

 僅かな気配でも気付かれる危険がある。

 ナイツも今頃は違う方向から尾行しているはずだ。


 「そいつ」は、野営地から充分に離れた所でランタンに灯りをつけた。

 そのまま歩いて行く。

 どうやらまだ目的地では無いらしい。


 10分ほど歩いたところで、灯りが上下に揺れ始める。

 誰かに合図を送っているようだ。


 暫くすると、茂みの陰から人影が現れた。

 ランタンに照らされたその男は、周囲を警戒しながら対象に近付く。

「・・・・・」

 何かを話しているようだが、離れ過ぎていて聞き取ることは出来ない。

「・・・!」

「・・・話が違うぞ!」

 暫く話していたが、突然言い争いを始めた。

 遂には掴みあいになり、ランタンが地面に落ちたのか、激しく燃え上がって周囲を照らし出した。

 茂みから現れた男が何かを取り出し、それを見せびらかすように腕を突き出す。

 この距離でも分かる。拳銃だ。

「おい!どうせいるんだろう?!こいつを殺されたくなければ出てくるんだ!」


 どうやら話の流れから尾行している事がバレたようだ。

 勿論返答は出来ない。

 だが、このまま出なければ・・・


「わかった!今そちらに行く!撃つな!」

 両手を上げ暗闇から現れた人物が、燃え上がるランタンの灯りに照らし出される。


 ナイツ!・・・あの馬鹿!


 クソ!嘆いてる暇はない!

 掴めるチャンスは全部取りこぼさずに掴むんだ!

 移動しながら拳銃を取り出す。


 ・・・最悪の事態だけは避けなければ。


 3人の手前5メートル程の茂みに隠れる。

 この距離なら万が一の事態にも対応できるだろう。


「偽の情報を掴ませて追い払おうって魂胆か?運が悪かったな、俺はあそこら辺の出身なんだ。二国間の条約で国境付近には街を作れない事になっている。知らなかったお前らのミスだ」

 拳銃を持つ男が自慢気に話すが、ナイツは気にも止めずもう1人の男、「そいつ」を見ていた。


「ケルテック・・・」

「隊長。申し訳ありません」

「・・・家族か」

「・・・」

 ナイツの問いにケルテックは答えない。

 その沈黙は肯定を意味しているのだろう。


 アイソセレスには敵が多い。

 だから隊員の家族やプライベートな関係者は、軍が責任を持って護衛しているはずだ。

 だが・・・その守りを解く事ができる人物が、たった1人だけ存在する。

 最上級司令官、ファブリックだ。


「あんたが捕まってたマヌケな隊長か、本当の目的地は何処だ。教えてくれれば俺は素直に引き下がる。部下を殺されたくはないだろ?」

 流暢に喋っているが、それはおそらく緊張からだろう。

「言う必要はありません。こいつが俺を撃ち、そして隊長がこいつを撃つ。それで解決です」

「黙れ!お前には聞いてない!」

 凄んではいるが、ケルテックには全く効いていない。

「早く撃て。俺は裏切り者だ、もう居場所は無い」

「家族がどうなってもいいのか?!」

「とっくに殺されているんだろう?お前達が生かしておくなんて思っちゃいない」

 ケルテックが能面のような顔で男を見る。

「俺が生きている理由なんて、もう無いんだ」

「こ、この!」

 突き出した拳銃に力が入っていく。

「わかった!言う!シュタイアーの首都マドセンから南東へ一日!そこに廃村がある!」

 ナイツが叫びながら一歩前へ出る。

「これでいいだろう?!銃を下ろせ!」

「・・・隊長」

 ケルテックがナイツへ顔を向けた。

「お前は私の部下だ・・・家族だ」

 ケルテックが今にも泣きそうな顔をして・・・笑った。

「ありがとうございます」

 そのまま男へ突進する。

「やめろ!」


 くぐもった銃声が三発響き渡る。

「ケルテック!」

「動くな!」

 そんな叫びに躊躇う素振りも見せず、ナイツは腰の拳銃に手を掛けた。


 マズイ!


 咄嗟に拳銃を連射する。

 腕に当たったのか男は銃を取り落とし、そのまま茂みへ逃げようとする。

 牽制の為、残りの弾を全弾撃ち尽くす。

 多分当たってはいない、うまく逃げ果せた筈だ。

 茂みから出て、残された2人の元へ駆け寄る。


 胸部に三発。

 ケルテックは即死していた。


 ナイツは跪き、開かれたケルテックの瞼に手をかざして、そっと鎖した。

「・・・居場所なら、ここにあるじゃないか・・・」

 ナイツがケルテックの頭を優しく撫でた。


 ケルテックが内通者ではないかと疑いの目を向けたのは、石城から脱出した時だった。

 人間は極限状態で選択を迫られた時、必ずそいつの本性が出る。

 だから脱出の時、皆に考える時間を与えなかった。

 多分ほとんどの奴らが付いてきてくれるとは思っていたが、その中でたった1人だけ来ないだろうと確信していた人物がいる。


 ケルテックだ。


 あいつは仕事人間だが、誰よりも家族を愛している。

 そんな奴が全てを捨ててついて来てくれるなんて、嬉しい反面、裏があると考えてしまっても仕方がないだろう。


 でも半信半疑だった。

 俺の見当違いなだけで、本当は裏切り者なんていないんじゃないか、いたとしてもケルテックは違うんじゃないかと、そう心が揺れていた。


 完全な油断だ。

 家族に手を出すなんて流石のファブリックもやらないだろう。そんな甘い考えをしていた俺の判断ミスだ。


 ナイツは何も間違っちゃいない。

 俺の過ちでケルテックは死んでしまったんだ。




 銃声を聞き付け、他の隊員達が駆けつけて来た。

「・・・これは?!」

 タウルスが驚きの声を上げる。

「ケルテックが殺された」

 抑揚の無い声でナイツが呟く。

「分隊長が・・・え?冗談?」

「私がそんな冗談を言うと思うか?」

「・・・でも、そんな・・・なんの脈絡も無いのに・・・」

 死に脈絡もクソもあるか。

「ケルテックが内通者だった。どうやらレッドロックに家族を囚われ、脅されていたらしい」

 俺の言葉に反応し、皆こちらを向く。

「親族は守られている筈では・・・」

「それじゃあ我々の家族は?」

 皆が一斉に騒ぎ出す。

「今はまだ、命令を無視して軍を抜けただけかもしれん。だが俺達はこれからファブリックを、ウジール軍を敵に回さなければならない。レッドロックと敵対するってのは、そう言う事だ」

 静かに、諭すように言う。

「・・・」

 だれも口を開こうとしない、反論も非難の言葉も無い。

 多分、絶句しているのだろう。


 ・・・ここまでだな。


「今迄こんな俺達によくついて来てくれた、後は大丈夫だ。お前達はウジールに戻れ」

 それだけ言うと、視線をナイツに移した。


 また・・・2人だけになっちまったな。


 ナイツが顔を上げる。

 いつもの生真面目そうな顔、子供の頃はしなかった、今の顔だ。

「・・・レッドロックの潜伏先に行くぞ」

 俺の顔を見ながら宣言した。

「仇討ちか?」

「違う。そんな事をしたって意味は無い」

「じゃあなんだってんだ」

「ケルテックの家族を救出する」

 何を言うかと思えば・・・

「生きてるかも分からないのに?それにレッドロックと戦う事になるんだ、どっちにしたって、」

「違う!」

 ナイツの叫びに言葉を飲み込んでしまった。

「残された者に出来る事は、後片付けしかない」

 ・・・何だそれは?

「ユーリの言葉だ。私を憎みながらも、負の感情に流されず必死に生きて行くと、そう言っていた」


 あの小さな少年が・・・


「私は決して復讐なんてしない。それが犯した罪への答えだ」

 ナイツがケルテックの亡骸を抱きかかえ、そのまま歩いて行く。

 流石に男女の体格差は厳しいものがあるのか、足元がフラついていた。

「代わるぞ」

「私が連れて行きたいんだ。何処か見晴らしのいいところに埋葬してやろう」

 それだけ言うと、歩いて行ってしまう。


 俺はナイツの前方を塞ぎ、無理矢理ケルテックの亡骸を奪い取った。

「何をする!私が、」

「お前だけに任せられるか。俺にも担がせろ」

「・・・」

 ナイツは唖然と俺を見つめ、何かを言いたそうにしていたが、溜息を一つついて苦笑した。

「・・・わかった、頼む」

「了解」




 ケルテックの顔を見る。

 銃創さえ無ければ、ただ眠っているようにしか見えない。

 覚悟を決めて、逝ったんだろう。


 後片付けしかできない、か。

 なぁ、ケルテック、お前はどう思う?

 本当は仇討ちして欲しいんじゃないのか?


 答えを聞くことは、もう永遠に出来ない。

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