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笑菓  作者: 千葉焼き豆
追撃
29/43

二十九話 微動

 崖の上から廃村の様子を伺う。


 今は私1人だ。

 ユーリとアレックスはここから歩いて一時間ほどの所で待機している。


 崖は村を半分取り囲むような半月状をしており、突き出した箇所が2つある。

 どちらも監視するにはいいポイントに見えるが、実際には半月の真ん中、一番窪んだ場所が最適だ。

 全体を見渡せるし、退路を確保しやすい。

 身を隠しながら廃村を見下ろす。

 待ち合わせ場所に指定した小屋の前に、その人物はいた。


 ショーシャさんだ。


 胸の前で両手をきつく握り、廃村の入り口をずっと眺めている。

 不安そうに、待ち遠しそうに。


 監視を始めてから3日、アレックスと交代で見張り続けているけど、全く怪しい行動は見せていない。

 彼女は全く動かず、三日間朝から晩まで動かず立ち尽くしている。


 予定では今日の夕方まで監視を続け、何もなければ切り上げる。


 作戦の練り直しだ。




「あの、二人は何をしてるんですか?」

 野営地で焚き火を囲みながら夕食を食べている最中、ついに我慢できなくなったのか、ユーリが私達に聞いてきた。

「気にするな、襲撃を警戒して見回りをしてるだけさ」

 アレックスが軽い感じで返答する。

 まぁ間違ってはいない、ただ警戒している相手が違うけど。

「そう、ですか」

 釈然としない口調で言うと、ユーリは私達を見る。

「もう3日もここに留まっているのは警戒してるから?」

「そうだ、最後の最後でミスを犯したくない」

「僕は・・・早くショーシャさんに会いたい・・・」

 寂しそうに呟いて下を向いてしまった。


 私達が動かない理由は2つある。

 先ず、ユーリかショーシャさんに何かしらの動きがあるまで監視していたいという事。

 どちらかが私達に対して非協力的、あるいは敵対的行動を取るならば、そこを突いて裏を探れるかもしれない。

 特にショーシャさんは我々が監視している事を知らない。

 怪しい動きがあればと思ったけど、結局何も掴めないままだ。


 そしてもう1つは、ナっちゃんが合流していないという事だ。

 アレックスはあまり戦闘が得意じゃない、となると最悪私一人で戦う事になる。

 流石にそれではこちらが圧倒的に不利だ。

 アイソセレスが来てくれれば、相当な戦力になる。


 でも、そろそろ限界か。

 私達を目指しているのはアイソセレスだけじゃ無い。

 いつレッドロックの連中が襲って来てもおかしくない状況だ。


 アレックスの方に顔を向ける。

 すると、同じ様にこちらを見て小さく頷いた。

 どうやら考えてる事は同じみたいだ。


「よし・・・明日には動こう。ユーリ、ショーシャさんの所に行くぞ」

 アレックスはそう言ってユーリの方を向く。

「明日・・・明日会えるの?!」

 満面の笑みで立ち上がる。

「本当?!」

「ああ、明日で今回の旅も終わりだ。色々大変だったけど、よく我慢したな」

 アレックスが頭を撫でると、ユーリはまるで子猫のように目を細めて喜んだ。

 ショーシャさんとの再会が余程嬉しいのだろう。


 初めて依頼主がショーシャさんだと教えた時、ユーリは驚きと嬉しさで嗚咽を漏らしながら泣いていた。

 ショーシャさんはユーリの教育係だったらしい。厳しい時もあるけど、困った時一番に助けてくれたのが彼女だと言っていた。

 屋敷の人々は全員殺されたと思っていたユーリにとって、それは最高のサプライズだったようだ。


 あの時の涙と今の嬉しそうな顔、どちらも嘘があるようには見えない。

 それにショーシャさんの方も、全くと言っていいほど怪しい動きはない。

 アレックスを疑う訳じゃないけど、二人が怪しいというのは本当なのかな・・・


 不安が大きく膨らんでいく・・・




 ユーリが眠りについた後、今後の方針を決める事にした。


「大丈夫かなぁ・・・」

 素直な気持ちが言葉に出てしまう。

「ユーリとショーシャを会わせて何が起きるのか、全く未知数なのは怖いが、仕方ないだろう。これ以上は待てない」

 珍しく真剣な表情でアレックスが言う。

「で、どうするの?」

 心配の種はいくつもあるけど、此処まで来たらどうしようもない。

 どうなっているのかを考えるより、どう動くかを考えよう。

「いつもと同じさ、俺とユーリで廃村に行く。パラは崖上からあの狙撃銃で監視してくれ」

 アレックスが幌馬車を指差す。


 襲撃騒動の時、敵から拝借した狙撃銃は荷台に置いてある。

 あの後試射をしてみたところ、銃本体よりも照準器の性能に驚かされた。

 仕組みはわからないが、筒型の照準器を覗くと、狙撃対象が大きく見えたのだ。

 これなら遠距離から監視しても状況がはっきりわかる。


「わかった。何かあったら狙撃銃で援護するから」

「ああ、頼む。それと俺も例のライフル銃を持って行く、何かあった時は発砲するよ」

「了解・・・でもさ・・・」

「どうした?」

 アレックスが心配そうに私の顔を覗き込む。

「何もなければ良いよね・・・」

「今回ばっかりは保証できないな・・・」


 こんなに不安要素ばかりの仕事なんて、二人でフリーランスになってから初めての事だ。

 更に最悪な事に、依頼主と救出対象が信用出来ないときてる。

 何が原因かって・・・目の前にいるこの男のせいだ。

 刺激が欲しいばっかりに、実力行使での人質救出なんて経験の無い依頼を受けて、超大国のウジールを敵に回して、今も細い糸を綱渡りするような危険な賭けに出ようとしている。


 ・・・本当に私が付き合う必要あるんだろうか?


 言うまでもない。

 あるに決まってる。


 アレックスから答えは貰った。

 私が望む以上の答えを。


 だからどんな結末が待っていようと、最後までこの人と一緒にいるんだ。


 そうだ、ついでだし言わなくちゃいけない台詞を、今言っておこう。

「そういやまだ言ってなかったね」

「ん?」

「・・・アレックス・・・愛し、ムグゥ!」

 口を両手で押さえ込まれる。

「バカヤロウ!そんな事今言ったら縁起悪いだろ!」

 なんじゃそりゃ。

「いいか、戦場に向かう前に重要な台詞を言ったり、やり残した事があると必ず死んじまうんだ。気を付けてくれよ!」

 私の口から手を退かし、少し怒ったように言う。

「・・・そんな迷信知らないんだけど」

「俺の地元じゃ有名なの!お前の友達認定した奴を誰でもちゃん付けするのと一緒だ。あれだってお前の故郷限定だろ」

 え、東部地域では普通だと思ってた・・・

「兎に角、全部終わったらいくらでも好きなだけ言わせてやるから、今は我慢してくれ」

 そう言われてもなぁ。

「タイミングってのがあるでしょ?今がそん時だと思ったから言おうとしたのに、次なんてないかもね」

「え・・・無いの?そんな事・・・言わないでくれよ」

 アレックスが少し寂しそうに呟く。


 しょうがない、サービスしてやるか。

「アレックス」

 私の声に反応し振り向いた瞬間、顔を近付ける。

 そしてそのまま唇を重ねた。

「・・・ウッ!」

 離れようとしたところで頭を押さえ付けられる。

う・・・動けない・・・。

「!」

 舌を入れてきやがった!

「ヴッ・・・グボッ」

 い、息が・・・

 そうだ!両手はフリーなままだ!

 アレックスの首に手を回し思いっきり締め上げた。

「ギ・・・」

 そのまま数秒の後、やっと頭を押さえていた手が離れる。

『ゲホッ・・・殺す気か!』

 全く同じタイミングで同じ台詞が出た。

 流石愛し合う同士・・・なのかなぁ?

「この変態野郎!次やったらタマ潰すぞ!」

「四年間我慢してたんだ!ディープキスくらいさせろよ!」

 え・・・それって、

「四年間ずっと、私のこと・・・」

「ああ、そうだよ!一目惚れだ!残念だったな、お前より先に俺が惚れてたんだ。三年前俺について来るって言い出した時、心ん中じゃ小躍りしてたさ」

 知らなかった・・・

「じゃあなんでずっと黙ってたの?」

「そりゃお互い様だ。お前だって黙ってたじゃないか。まさか気持ちを知らないとでも思ってたか?」

 それは・・・ないけど。

 組織を抜けてついていったのも、ずっと一緒だったもの、こいつが好きだったからだ。

 勿論直接言ったことはない、でも私の気持ちをアレックスが察しているのは、なんとなくわかっていた。

「最初っから相思相愛じゃん・・・私だって一目惚れだったんだから」

 なんとなく目を合わせ辛くなり、顔を逸らす。

「あ、そうなの?・・・て、こういう話は今したら駄目だって!やめやめ!」

 そう言ってアレックスは立ち上がった。

「続きは全部終わってからな。その時は、お前の全てをもらうぞ」

 かっこいい事言ってくれるじゃないの。

「そっちこそ覚悟しててね。搾り取ってやるから」

 負けじと笑顔で言い返す。


「あの・・・」

「!・・・ユ、ユーリ・・・」

 どうやら騒ぎ過ぎたらしい、ユーリが起きてしまった。

「僕、オシッコに行きたいんだけど・・・」

「ど、どうぞ!行っておいで!」

 ユーリは逃げ去るように茂みへと入って行った。

「いつから聞いていたんだろう・・・」

「さぁ・・・聞いてみるか?」

「聞けないよ・・・」


 少なくとも最後のやり取りは聞いてたよね・・・

 滅茶苦茶恥ずかしい・・・。




 翌日。

 日の出と共に廃村へと向かう。

 人間が一番動けなくなる早朝が良いという考えからだ。

 ユーリは朝弱いが、出発を告げても嫌がらなかった。

 早くショーシャさんに会いたいのだろう。


「じゃあ行ってくる」

「おう、よろしく頼むな」

 廃村の手前で幌馬車を降りる。

 30分後に行動開始だ。

 狙撃銃を肩に担ぎ、ライフル銃を手に持つ。

 これだけ持っていれば、万が一の時も対処できるだろう。


「・・・なぁ」

 歩き出そうと足を踏み出した途端、御者台に座るアレックスに呼び止められた。

「何?」

「・・・いや、何でもない。気を付けて」

「うん。そっちもね」

 それだけ言って再び歩き出す。


 なるほどね、昨日言っていた迷信はこれか。

 気を付けなくちゃいけないのはアレックスの方じゃん・・・。




 崖上は陽当たりが良いのか植生が濃い。

 鬱蒼と茂る森の中に足を踏み入れる。


 森に入った途端、違和感を感じた。

 ・・・誰かが通った形跡がある。


 獣道の足跡、草木の倒れ方、その何れもが複数の人間が森に入ったことを物語っていた。

 足跡から推測するに、多分四人以上、重い荷物を担いでいる成人男性、それなりに訓練を受けた軍関係者か元関係者。

 多分レッドロックだ、アイソセレスなら、こんな痕跡を残すなんて失敗はしない。


 あまりにもタイミングが悪過ぎる。

 ずっと監視されていた?

 それなら襲撃するチャンスは他に幾らでもあった筈だ、本当に偶然が重なったのだろう。

 でも、何で廃村が目的地だと知られてしまったのだろうか。

 誰かが情報を漏らした?


 ・・・ナっちゃん?

 彼女を疑う気持ちは微塵も無いが、誤って漏洩してしまった可能性は充分にある。


 太い倒木を見つけ影に隠れる。

 どうすればいい。

 アレックスに伝えようにも既に廃村に向かっている。

 発砲して危険を知らせるか?

 ・・・怪しいとわかっていても、ショーシャさんは依頼主だ、一人残して私達だけ撤退するのは、雇われた身としては避けたい。


 狙撃銃を地面に下ろし、ライフル銃に弾倉を取り付けレバーを操作する。


 最初の一発だ。

 その一発で全てが決まる。




 間に合うか?

 ・・・いや、間に合わせる。

 何があってもアレックスを守るんだ。

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